前編に続き、AI導入後の看護師の働き方、徳洲会グループの理念に基づく病院運営、
そしてこれからの看護師への期待をお伺いしました。
AI時代の看護師
中:将来、AIが医師や医療事務職の業務の一部を肩がわりできるようになった時、
看護師には何が期待されるようになるのでしょうか。
AI時代の看護師の役割についてお聞かせください。
宗像:それは非常に重要なご質問です。
我々医師もそうですが、看護師も、AIのような新しい技術を利用して今までの業務負担が軽減された場合に、
では、あいた時間に何をするのか。
それはやはり、患者さんと向き合うことに当てなければいけないのだと思います。
中:AIの普及は、患者さんと接する時間を増やすチャンスだということですね。
宗像:我々は今、電子カルテを用いています。
すると、患者さんの顔をなるべく見ようと心がけてはいるものの、やはりパソコン画面を見る時間が
どうしても多くなってしまいます。
それをとにかく減らしたい。
その対策として、現時点では、医師事務作業補助者を外来のブースごとに配置し、
医師がなるべく患者さんの方を向くようにしていきたいと考えています。
看護師も同じです。
仮にAIが導入され患者さんのバイタルサインなどが自動入力され、ベッドサイドから全ての情報が
電子カルテに伝達されるようになれば、患者さんに向き合える時間が長くなります。
結果的にそれだけ濃厚な看護を実践できるはずで、働きがいも大きくなると思います。
中: AIが正しい判断をするためには、さまざまな情報をインプットし
ディープラーニングさせていく必要があるようです。
そのためにも、AIのような新しい技術を忌避せず、より良い看護ができるようになるチャンスだと捉え、
AIと共存していくことが大事になのかと感じました。
宗像:そういうことだと思います。
看護師は本来、人と人とが触れ合うことが大きなウエイトを占めるべき仕事ですから、
なるべく患者さんの側に長い時間寄り添えられるようにAIを活用しないと意味がないと思います。
多科・多職種連携
中:AIについて興味深いお話を伺うことができました。
ありがとうございます。
少し消化器内科と貴院の話題に戻って質問いたします。
先ほどのお話から、消化器内科は外科的な要素と内科的な要素がミックスしているような印象を持ちました。
かつては外科的に治療していた疾患を内視鏡で処置したり、
その一方では薬剤等で内科的に疾患をコントロールしていかれるのだと思います。
そのような特徴を生かすために、貴院で何か工夫されていることはございますか。
宗像:当院では、肝胆膵・消化器病センターを開設しています。
消化器内科、肝臓内科、内視鏡内科等消化器関連の内科医と外科医、
そして放射線科医、病理医が一体になり、週1回ミーティングを行い、最善の治療法を検討しています。
例えば、診断時点で残念ながら早期癌ではない、あるいは早期であっても粘膜下層に浸潤している場合に、
どの治療法が良いかを症例ごと判断していきます。
90歳の食道癌の方であれば「手術は難しいので放射線で治療しよう」と提案するなど、
治療の確実性と侵襲を各科協力して協議し決めています。
もちろん、この作業には医師だけでなく、さまざまな職種が関係してきます。
看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、栄養士、ソーシャルワーカーなどが、
それぞれの職種がプロフェッショナルとしてそれぞれの立場で対等に、一人一人の患者さんに対して
最良と考える手段を提案しながら、治療方針をまとめていくというシステムをとっています。
中:そうしますと、スタッフの配置やスタッフ間のコミュニケーションの維持に、
調整すべきことが多々おありではないでしょうか。
宗像:一番大事なことは、やはりスタッフ間のチームワークや信頼関係ですね。
幸い当院はモチベーションが高い人が多く、忙しいけれども患者さんを中心に、
各科良好な協力体制をとれています。
理念への共鳴
中:そのようにモチベーションの高い多くのスタッフが、
どのように貴院へお集まりになっているのでしょうか。
宗像:当院の母体グループに「生命だけは平等だ」という理念があるからだと思います。
この理念に共鳴して来てくれるスタッフが多く、しかも一人一人が理念以上のことやってくれていると
私は思っています。
もちろん、働いていれば嫌になることもあると思います。
その時に支えになることは何かと言えば、他のスタッフも一生懸命に頑張っている姿と、
そして普段からの信頼関係です。
互いの職種の違いは全く関係なく、人格を重んじるという環境を崩さずに維持していくと
「きついけれども頑張ろう」という気力が湧いてくるのだと思います。
やはり、職場の友情が大事です。
中:そのような貴重な雰囲気を醸成するために、院長というお立場で心掛けられていることはございますか。
宗像:私は、とにかくスタッフを大事にすれば、スタッフはそれを感じてくれて、
今度はスタッフが患者さんを大事にしてくれると思っています。
ですから一番心掛けなければいけないことは、スタッフを大事にして育てていくということです。
中:素敵な考え方ですね。
スタッフ間の友情を育むためのアクティビティなどもあるのでしょうか。
宗像:スタッフが自主的に新たな活動を立ち上げてくれています。
例えば、院内での予期せぬ死亡を予知して防げないかという課題を掲げ
「Rapid Response System」という対策チームを5月からスタートさせました。
また6月には児童虐待対策チームの活動が始まっています。
ただ、自分たちだけで病院をバランスよく評価することは難しいため、
日本医療機能評価や国際医療機能評価(JCI)、あるいは外国人患者さんの受け入れ態勢を認証する
日本医療教育財団(JMIP)など、外部からのグローバルな評価を受けながら改善を続けています。
国際化・高齢化への対応
中:グローバリズムの進展により、医療の国際的評価も重要な課題になりますね。
宗像:否が応でもグローバリズムに巻き込まれますから、当院では先手を打って
国際医療機能評価の認定を取得しました。
現在、英語、ドイツ語、中国語の同時通訳者を配置し、メディカルツーリズムの受け入れも開始しています。
中:グローバリズムばかりでなく2025年問題などもあり、医療環境は大きく変化してきていますが、
そうした中で先生が次に備えていらっしゃる対策はございますか。
宗像:日本はこの先、人口が減っていきます。
すると、介護や看護を外国の方にお願いする場合も出てくるかもしれません。
そこでちょうど今、韓国の大学から看護学生を10名ほど受け入れ、実習に来ていただいています。
国家試験を通り次第、当院に就職を希望されるという方もいらっしゃいます。
また看護補助者についてはフィリピンの方に来ていただいています。
一方、当院で受け入れるばかりではなく、当院の看護師も海外へ留学し、
さまざまなスキルや情報を身に付けて持ち帰り、病院を改善していくという活動もできればと考えています。
看護師も積極的に留学を
中:「留学」というとドクターがするもの、というイメージがあるのですが、
看護師にもそれを期待されるのですね。
宗像:私はその方が良いと思います。
当院にもアメリカで11年間、看護師として働いていたスタッフがいますが、
やはり薬の管理方法なども全く違うのです。
アメリカはオートメーション化している病院が多いので。
ですから、海外でその国の医療レベルや知識、国際感覚を身に付けていただき、
それを当院でも反映していただけたらと期待しています。
院長としての生きがいとは、やはり、人がどれだけ育ってくれるかという人材育成です。
当院のスタッフにも、去年できなかったことができるようになるなど、進化をしてほしいと願っています。
中:それでは最後に、看護師へメッセージをお願いします。
宗像:当院では、みんなが明るく楽しく勤務しています。
当院の良いところは、医師だけでなく、看護師、検査技師、放射線技師、理学療法士、作業療法士、
言語聴覚士、栄養士、事務職員、ソーシャルワーカーなど、多職種のスタッフ全てが、
一人の患者さんに対してどのような医療が良いかということを、
それぞれの立場で責任を持って取り組んでいることです。
お互いに尊重し合いながら働いています。
みなさん一緒に働いてみませんか?
シンカナース編集長インタビュー後記
理念に共感する。
これはシンカナースが看護師、看護学生に向けた強いメッセージの一つでもあります。
病院経営者、病院の理念などに共感して勤務先を選ぶことの大切さは、勤務する前はあまり意識していないかもしれません。
しかし、実際に勤務すれば、数日の休暇の違いや少額の給料の違いなどでは計り知れない影響を及ぼすことが分かります。
だからこそ、事前にきちんと共感できる場所を探し、最終的に意思決定することが大切であると伝え続けています。
宗像先生は、看護師をより自由に、より先進的に育てて行こうとされていらっしゃると感じました。
やる気さえあればチャンスはある!
未来を信じて学び続けたい看護師にとって希望を感じられるお話をいただきました。