No.255 葉山ハートセンター 田中江里 院長 後編:地域の人々とともにある病院

インタビュー

徳洲会グループの女性院長は現在2名、そのお一人が田中先生とのことです。

インタビュー後編では、前編に続き女性医師が活躍し続けるために必要なこと、

医師と看護師の理想的な関係、医療のAI化、そしてご趣味の弓道についてなど、

興味深いお話をお聞かせいただきました。

 

女性医師、そして女性院長であるということ

 

荒木:ところで、徳洲会グループに女性院長はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。

また、医師としてキャリアを積んでいく上で、女性であることはやはりハンデだとお考えになりますか。

 

田中:徳洲会グループでは、私のほかにもう一人、女性院長がいます。

医師不足の原因の一つは女性医師の離職にあるとよく言われますね。

その指摘は全く正しくて、医療の現場にいる者であれば誰もが感じていることです。

私が学生の頃は、家庭を大切にしたいのであればマイナーな診療科を選ぶべきという雰囲気があり、

内科や外科などに進むのであれば、結婚もある程度あきらめる覚悟を持って進んだものです。

ただしその点、徳洲会は幸いにも男女を平等に扱う風土があるように感じます。

 

 

荒木:先生は院長に就任される際、迷いのようなものはございませんでしたか。

 

田中:血液内科医としてのキャリアはほぼ捨てることになるだろうとは思いました。

しかしそのまま臨床医を続ければ、

自分が成長するチャンスを失ってしまうことのリスクもあると考えました。

同じようにリスクを抱えるのであれば、

何か新しいものを得るためにやれることをやろうと決意したことを覚えています。

湘南鎌倉の血液内科は私が抜けても全く問題ないほど十分に育っていましたので、

その面での不安はありませんでした。

 

医師と看護師の互いの得意な領域を生かす

 

荒木:話題を変えて看護師にフォーカスした質問をさせていただきます。

先生は看護師に対してどのようなことを期待されていますか。

 

田中:これまで看護師は医師の指示に従って動くことが多かったと思います。

特に循環器内科や心臓外科などの急性期医療ではその傾向が強いようです。

しかし、地域に密着した病院を目指す場合、高齢者診療の比率が高くなります。

そうしますと、一つの疾患の治療だけではなく、複数併発している基礎疾患の治療をどうするか、

認知機能は低下していないか、治療に協力してくださるご家族はいるのか、といった

マルチプルな問題を解決する必要が生じてきます。

 

 

それらの解決は医師よりも患者さんに近い存在である看護師の方が適していると思います。

ですから、看護師が医師の業務の一部を肩代わりするというよりも、互いに情報を共有しあい、

得意なことを任せあっていくのが良いのではないかと考えています。

 

 

荒木:例えば、どのよう場面で看護師の力が発揮されるとお考えですか。

 

田中:例えば患者さんのご家族とお話をするとき、

内容が生死に関わるようなことであれば医師がメインになって話すべきです。

一方、退院や転院に向けてご家庭の事情や希望を伺うといった時は

看護師が中心になるほうがうまくいきます。

入院患者さんを社会に戻すというマネジメントに、

もっと看護師が興味を持つ必要があるのでは、と思っています。

 

医療のAI化と医師業務の分業

 

荒木:少し未来の話になりますが、今後、医療にAIが採り入れられてきますと、

医療職者の働き方が変わるのではないかと思います。

そのような進化を先生はどのように予測されますか。

医師の業務負担の軽減に繋がるでしょうか。

 

田中:医療のAI化という切り口で考えると、例えば外科系では手術中にAIが

「ここからアプローチしてこの範囲を切除してください」などとアシストしたり、

内科系では症状や問診、検査結果を入力すれば鑑別すべき疾患や追加検査の必要性、あるいは治療法までも

AIが提案したりするようになるかもしれません。

 

 

一方、医師の負担をどうするかという観点から考えると、

その方法はAI化なのか、あるいは業務を分業化して一部を看護師に託すのか、

または手術から離れた外科医の先生方のキャリアチェンジ(内科への転向など)を促進するのか、

といったところでしょうか。

 



荒木:看護師への業務移譲はどの程度可能でしょうか。

 

田中:看護師のレベルをもう少しアップさせる、

例えば医師の専門医資格のようなものを看護の領域に作りスキルを担保すれば、

状態が安定している慢性疾患の管理を、医師の遠隔診療と並行して看護師が担うことも

可能になるような気がします。

 

 

私は1年ほどアメリカに留学していた時期があるのですが、

あちらでは一部の薬が処方できる看護師もいるのですね。

日本でも離島など医師不足が深刻な地域では、

いずれそのような存在を検討しなければいけなくなるかもしれません。

 

弓道で心のバランス調整

 

荒木:そろそろお時間ですので、最後に先生のご趣味についてお聞かせいただけますか。

 

田中:趣味は仕事かもしれません。

仕事がきついなと感じることはありますが、患者さんが回復していく姿を目にすると元気が湧いてきますし、

患者さんからの感謝の言葉がエネルギーになります。

 

 

ただ、仕事をリタイアした後に何もすることがないという状況は避けたいので、

数年前に弓道を習い始めました。

あまり練習に行けないので上手くはならないですが、1週間に1回ぐらいのペースで続けています。

医療の世界とは全く無関係の人たちと顔を合わせ会話することは、

思考のバランスを保つ上でも必要なことのように感じています。

 

地域の人たちと病院を盛り上げていきたい

 

荒木:それでは、まとめとして看護師に向けてメッセージをお願いします。

 

田中:当院の看護師さんは子育て中の方が多くいらっしゃいます。

そのため保育所も完備しており、働きやすい病院だと思います。

また、病床が83床と、それほど規模が大きな病院ではなくアットホームで

互いのことをよく知ってカバーしあいながら働いています。

 

 

このような環境の中、私としては、どちらかというと

地域にお住まいの方に働いていただきたいと考えています。

地域の人たちが「自分たちの病院だ」と思ってくださるよう病院になってほしいからです。

将来、ご自身やご家族がこの病院にかかるかもしれないという思いを持ったスタッフが集まり、

一団となって当院を発展させていただくことを期待しています。

 

インタビュー後記

インタビューに訪れたのは春まだ浅い曇天模様の日。

にもかかわらず院内には陽光があふれ、

部屋の窓から富士山や江ノ島を望むことができ、たちどころに気分爽快になりました。

また、決して規模は大きくはありませんが、

それだけにスタッフと患者さんの距離が近いようで、家庭的な雰囲気を感じました。

こんな環境で治療を受けたなら、病気の快復も早くなるのではないかと思います。

この素晴らしい環境を生かしながら、地域の人たちとともにある病院作りに、

今日も取り組んでいらっしゃる田中先生。

お忙しい中、数々のお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

 

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Photo by Carlos