No.180 病院長 白井輝様(聖ヨゼフ病院)前編:工学系大学院から医師へ

インタビュー

今回はヨゼフ病院の白井先生に、ヨゼフ病院の歴史、工学系大学院から医師を目指されたというご経歴、

米国と日本の医療の相違などを伺いました。

長い歴史と新病院の期待

 

中:今回は、聖ヨゼフ病院病院長の白井輝先生にお話を伺います。

先生、どうぞよろしくお願いいたします。

白井:よろしくお願いします。

中:まず、貴院の特徴をお聞かせください。

白井:当院はちょうど昨日(7月17日)、創立72周年記念のミサを行ったところで、

長い歴史のある病院です。

さらに建物は開院前から存在するためその歴史はより長く、築79年に及びます。

非常に伝統のある病院で、古いなりにあたたかい医療を職員一同、心がけていることが一番大きな特徴です。

中:建物の歴史が長いとのことですが、改築を計画されたりしているのですか。

白井:はい。

改築と言いますか、全く新しい病棟を建設する計画があります。

2年後には全機能をそちらに移します。

いま病床数182床のうち40床弱を休床しているのですが、それを復活させて、

回復期病床をより充実させる方向で検討しています

中:職員の皆様も新病院に期待されていらっしゃるのではないでしょうか。

白井:そうですね。

かなり以前から「新しくしよう」という期待があって、

ようやくそれが実現しつつありますので、職員の顔つきも輝いているように感じます。

工学系大学院から医学部へ

中:では続いて、先生が医師になろうとされた理由をお聞かせいただけますか。

白井:最初から医学部を目指したのではなく、高校卒業後に一度、工学部へ進学し、

さらに大学院にも進みました。

中:大学院ではどのようなご研究をされていたのでしょうか。

白井:応用化学といいまして「工業に役立つ化学」という分野です。

中:医学とは全く異なる分野のように思うのですが、

工学から医学へご興味が移られたのはどのような経緯でしょうか。

白井:両者は全く別ものという訳ではなく、

工学にしても医学にしても「人の役に立つことを追求する」という点では一致しています。

しかし工学の研究生活では、対象とする人の顔を直接見ることができません。

そのことによる焦燥感を抱くようになりました。

やがて「人間相手の仕事をしたい」との思いが募り、改めて医学部を志望し進学しました。

中:医学部は横浜市立大へ進まれたと伺いました。

先生と同じように、他の分野を経験されて医学部に進学された学生もいらっしゃいましたか。

白井:はい。

他学部を卒業してから医学部に進学してきた学生が多く、

私もそのような学生と交流しながら勉強していました。

中:医学と工学という2つの学位を持つことのメリットはございますか。

白井:工学部で学んだことで科学的な考え方が身についたことがメリットかもしれません。

もう一点、これは学位を取得したか否かということと直接関係はないのですが、

研究を進める上で必然的に英語に慣れ親しんでいたことも大きいです。

医学部に入学後、英語の専門医学書をすんなり読めたことはプラスになっていました。

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からだの全てを診られる医師

中:先生がご専門とされてきた膠原病・リウマチ領域の魅力をお聞かせいただけますか。

白井:膠原病は全身の病気です。

そのため、人間の身体全体を見ることが非常に大切です。

そればかりでなく、経過が非常に長引くため、

患者さんの人生やご家族との関係などを把握することも求められます。

医師にとっては非常に責任の重い疾患領域と言え、裏を返せばそれだけやりがいのある分野でもあります。

中:先生のご経験から、これから医師になろうとしている人へ向けて、伝えておきたいことはございますか。

白井:いま臨床医学は専門分化が進んでいます。

このような状況では、例えば、糖尿病や高血圧に骨関節疾患を併発している患者さんが大きな病院に行くと、

それこそ長時間かけていくつもの科を回らなくてはいけません。

そして高齢化の進展とともに、このような患者さんが増加しています。

本来、そのようなケースでは、一人の主治医が全てを診るべきです。

患者さんの身体を全部見られるような医師であるべきだということを、まず伝えたいです。

もちろん高い専門性が要求される病態であれば、それぞれその専門科へ送らなければいけません。

しかしそうであっても、日頃のケアは十分一般のドクターがみられるはずです。

必要がある時にだけ、その領域の専門医にコンサルトするというやり方を、

今後目指していって欲しいと思います。

中:それがジェネラリストのあるべき姿ということですね。

ところで、先生のご経歴を拝見させていただきますと、横浜市大病院にご勤務された後、

海外留学されていらっしゃいますね。

ご留学時のお話をお聞かせいただけますか。

白井:米国のFDA(食品医薬品局)で2年半ほど免疫の研究をしていました。

子どもがまだ小さかった頃のことです。

家族全員でのアメリカ生活を楽しみました。

ホームドクターの必要性

中:アメリカでの研究生活を通して、向こうの医療の優れている点、日本が学ぶべき点など、

お気付きのことがございましたら教えてください。

白井:向こうの医療の現状をそれほど深くみてきたわけではないのですが、一つ感じたことは、

先ほど申しましたことと関連しますが、日本の医療は専門分化されていて、

患者さんの全身を診る体制が整っていないということです。

アメリカにはホームドクターがいます。

そのホームドクターが全てを診て、必要に応じて専門家にコンサルトするという基本的な仕組みが

しっかり確立されています。

日本では一人の患者さんの全身を診ることができる医者がまだ育っていないという、

大きな違いがあると思います。

中:日本でも「かかりつけ医を持ちましょう」といった啓発もされてはいますが、

まだまだ不十分のようですね。

日本も海外のような体制に近づけていかなければならないと

先生がお考えになる理由をお聞かせいただけますか。

白井:第一に、医療費が今40兆円を超えてさらに急速に増加しています。

その背景の一つとして、医療が専門分化され過ぎていることが挙げられます、

例えば今ポリファーマシーが問題になっていますが、一人のホームドクターがしっかりと診るようになれば

「こんなに多くの薬は必要ないのではないか」と容易に気づき、音頭をとって減薬を図れます。

これは非常に大事なことだと思います。

後編に続く

Interview Team