No.277 東日本税理士法人 長 英一郎 所長 後編:キーワードは「本質を見ること」と「王道を行くこと」

インタビュー

 

前編に続き、東日本税理士法人の長(おさ)先生に、2020年診療報酬改定を中心にお話いただきました。

 

看護から見る診療報酬改定

 

中:ここまで医師の働き方改革を中心に、2020年の診療報酬改定についてお話いただきましたが、

看護師に直接関わる部分としては、どのような改定が行われたのでしょうか。

 

長:1つは、これも医療職の働き方に関わるものでもありますが、

急性期看護補助体制加算の点数が上がったことですね。

これは、病院が看護助手を積極的に活用するよう促す改定です。

ご存知かと思いますが、今、多くの病院で看護助手が不足する現象が起きています。

その理由の1つは、看護助手の給与や待遇の低さにありますが、

今回の改定によって、病院が加算分を使い、それらの改善を行うことが期待されると思います。

 

 

中:看護助手が増えることで、病院にはどういったメリットがあるのでしょうか。

 

長:結局、看護助手が不足すると、看護師がおむつ交換や体位変換、

シーツの交換などに手をとられてしまい、本来担うべき業務に集中できなくなってしまいます。

これでは、業務効率も落ちますし、看護師のモチベーション低下にも繋がりますよね。

医師におけるメディカルクラークと同様に、看護師が看護助手と協働することで、

限られた人的資源で、効率的に医療が提供できるようになると思います。

 

 

また、病院の看護師には、命を救うという視点が大切になりますが、

看護助手などの介護職員は、生活の快適さを守るという視点を中心にします。

そういった意味でも、少し角度の違う目線を持つ2つの職種が協働することは、

患者さんにもメリットが大きいと思いますね。

 

 

看護師の活躍の場が広がる

 

中:その他に、今回の診療報酬改定で看護師が知っておくべき点はございますか。

 

長:これは、今回の改定に限ったことではありませんが、

以前のように「量として看護体制を整えさせる」という観点から、

「看護師の質を向上させる」という観点にシフトしているということです。

その1例に挙げられるのが、「特定行為研修を修了した看護師」制度だと思います。

 

 

今回の改定では、総合入院体制加算や、手術を補助する看護師などの面で、

特定行為研修修了者に対する評価が加わりましたし、

今後も在宅などの現場などを中心に、さらに活躍の場は広がると予想されます。

つまり、看護師がこれまで以上に専門性の高い業務を担う存在となることが、期待されているのだと思います。

 

 

中:ナースプラクティショナー(NP)については、いかがですか。

 

長:診療報酬上は、まだ、直接NPに対する評価は入っていません。

また、私自身も、愛知県の藤田医科大学で実際にNPとお会いしたことがありますが、

その方は看護部門ではなく、医局の一員として医師と同じような業務をされており、

特定行為研修修了者とは少し毛色が違うものだと感じました。

 

 

中:先ほど長先生がおっしゃったように、診療報酬上もそうですが、

現場でも、かつてのような看護師の数へのモチベーションは和らいできたように思えます。

この状況をどのように捉えておられますか。

 

長:あくまでも、これまで病棟と外来が中心だった看護師の活躍の場が、

病院内の他業務や、在宅や地域にまで広がっていくと考えるべきで、

看護師の必要性が減るというようなものではないと思います。

実際、先ほどお話したような、特定行為研修修了者の制度も進んでいますし、

通常の看護師についても、入退院調整や、退院後の訪問指導、

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)など、担うべき役割がどんどん増えています。

むしろ、看護師の必要性は今後ますます高まっていくのではないかと思います。

 

 

中:看護師にとってはすごくありがたいメッセージですね。

では、病院としては、今回の改定をどのように捉えるべきでしょうか。

 

王道を進む病院が勝ち残る

 

長:今回の改定では、いろいろな面で「患者視点に立つべき」という明確なメッセージを感じますね。

例えば、7対1の重症度を満たすために、認知症で入院した患者さんに心電図モニターをつけたり、

経腸栄養が可能であるにも関わらず、中心静脈栄養をつけたりするような行為については、

診療報酬上認めないという方針が明らかになっています。

これはどちらも、病院の利益のために、患者さんに負担や不利益を与えることを防ぐ改定です。

 

 

中:つまり、日頃から患者さんことをきちんと考えた医療をしている病院にとっては、

今回の改定はそれほど怖いものではないということですね。

 

長:おっしゃる通りだと思います。

「患者さんの利益のために」という医療の王道を行っている病院にとっては、

むしろ良い改定ではないでしょうか。

逆に、「なんちゃって7対1」とか、「なんちゃって急性期」などと揶揄されるような病院にとっては、

厳しい改定になっていると思いますね。

 

 

中:今後を考える上で、病院はどのように対応していくべきでしょうか。

 

重要なのは本質を見極めること

 

長:一番重要なのは本質を見極めることだと思います。

診療報酬の改定があると、ついついテクニックに走り、

「こうすればより多く加算がとれる」などと考えがちです。

ただし、それでは、本質を見失ってしまいます。

 

 

例えば、先ほどお話した、急性期看護補助体制加算についても、

ずっと「みなし」で算定を続けている病院もあるようですが、

この加算の本質は、看護師の負担を軽減し看護師にしかできない業務に集中してもらうことです。

そのため、本来は、きちんと看護補助者を揃えて取るべき加算であり、

「みなし」の要件を満たしているから大丈夫というのは、本質から外れます。

 

 

また、当然ですが、患者さんに不要な医療を行って点数を取るような行為は、

病院としてあるべき本質を失う行為ですよね。

「こういう加算が出たので取りましょう」ではなく、

「患者さんのために利益がある行為だから、この加算を取りましょう」という流れになるべきだと思います。

 

 

中:表面を見るのではなく、そこに込められた患者さんのメリットや、

裏側にある国の医療方針に対するメッセージを考えるべきということですね。

 

長:その通りです。

そのため私は、診療報酬改定の講演会でも、点数の細かいところを話すのではなく、

できるだけ本質をお伝えするようにいつも心がけています。

 

 

中:ありがとうございます。

それでは最後に、読者へのメッセージをお願いします。

 

長:皆さんのなかには、講演会でお会いした方もいらっしゃるかもしれませんが、

東日本税理士法人の長 英一郎です。

2020年の診療報酬改定は、メンテナンス改定というような言われ方もしており、

それほど大きな改定があったわけではありません。

ただし、前述のように、そこには厚生労働省の隠れたメッセージがあり、

今回は、「患者視点で医療を行っている病院を評価する」という方針が改めて明らかとなりました。

 

 

医療を行う皆さんには、病院の経営のため、職員のモチベーションを維持・向上させるため、

そして何より来院される患者さんのために、

ぜひ、王道の医療を続けていただきたいと思います。

より詳細なお話は、どなたでも閲覧できるよう、YouTubeにアップしてありますので、

興味のある方は、チャンネル登録してご覧いただければ幸いです。

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