No.273 九十九里ホーム病院 田中方士 院長 後編:コミュニケーションを大切にした拠点創り

インタビュー

前編に続き九十九里ホーム病院の田中院長に、

院長としての思いやビジョンなどについて語っていただきました。

 

コミュニケーションの活性化に注力

 

久保:田中先生は、国保旭中央病院で勤務された後、

こちらの病院に赴任され、院長になられたということですが、

院長に就任されてから力を入れてこられたことはありますか。

 

田中:私は特にコミュニケーションの活性化を意識してきましたね。

 

 

スティーブン・R・コヴィーが「7つの習慣」で言っているように、人間関係においては、

人との態度、コミュニケーション、相互理解、相互扶助がとても大切になります。

これは病院においても同様で、きちんと挨拶をして日常的にコミュニケーションを行い、

そのなかで相互理解を深め、お互いに協力できる環境を作ることは、

診療機能を高める上でも、医療安全の面からも非常に重要だと思います。

 

 

久保:具体的にはどういったコミュニケーションを意識されたのでしょうか。

 

田中:まずは、医師間のコミュニケーションです。

私が院長に就任した当時、当院の医師同士は会話をする機会も少なく、

情報共有も、主に看護師を介して行われていたのですね。

 

 

以前勤務していた旭中央病院では、毎月医局会や懇親会を開催し、

医師同士が日常的にコミュニケーションをする環境がありましたので、当院の状況に少し驚きました。

診療は1人で完結できるものではなく、常に他のスタッフと協力しながら行うものですので、

私は院内の医師に対し、他の医師に依頼をするような場合にも直接話をするよう促し、

今では、医師同士の会話も増えてきたと思います。

 

 

久保:医師間以外のコミュニケーションについてはいかがでしょうか。

 

田中:患者さんのご家族とのコミュニケーションについても見直しましたね。

療養型病床には、ご自身で話すことができない患者さんも多くいらっしゃいます。

そういった場合、ご家族や後見人との情報共有や信頼関係の構築が非常に大切になるのですが、

院長就任当時は、まだご家族や後見人との関係構築が十分ではなかったのですよ。

 

 

そのため私は、まずは自身が、担当する全ての患者さんに対し、

必ずご家族や後見人を呼んで方針を説明し、日常的にもコミュニケーションを行うよう心がけてきました。

そして、それをスタッフにも奨励し続けていますので、現在ではかなり浸透していると思います。

 

久保:コミュニケーションの改善の他に、何か取り組みはございますか。

 

田中:オーダリングシステムを導入しましたね。

 

 

それまで当院では、カルテも処方箋も手書きでしたが、

医療安全や生産性の向上のために、処方箋や画像診断、検査所見については、全てオーダリングシステム化し、

全ての情報が一元的に医事課に飛ぶようにしました。

 

久保:ありがとうございます。

先ほど医師間におけるコミュニケーションについてお話をいただきましたが、

看護師とのコミュニケーションについても教えていただけますか。

 

看護師という存在

 

田中:看護師との関係も同じです。お互いに理解し合って、助け合えるよう心がけているつもりです。

 

 

久保:田中先生にとって、看護師というのはどのような存在なのでしょうか。

また、看護師に求めるものも合わせてお話ください。

 

田中:看護師は、患者さんの近くで、私たち医師の手の届かないところを看てくれますし、

患者さんに寄り添い、医師の行為・言動に対するフォローも行ってくれる重要な存在です。

 

 

そのため、患者さんに対し、優しさや暖かさを忘れずに接してもらえると良いですね。

それと、エビデンスを意識することも大切だと思います。

医師の世界では根拠に基づく医療として、

エビデンス・ベースド・メディスンという考えが当たり前になっていますが、

これは看護についても同様だと思います。

 


 

看護というのは、医師の行う行為に比べ、根拠を明示しにくい部分が多いかもしれませんが、

常に自分の行っているケアがどういった根拠に基づくものか考えることで、

ケアの質、ひいては病院の医療の質が向上するのではないでしょうか。

 

久保:エビデンス・ベースド・ナーシングですね。

看護師の重要性をお話いただきましたが、貴院における看護師の充足状況はいかがでしょうか。

 

田中:多くの病院と同じように、看護師の確保には苦労しています。

看護師には家庭を持つ女性も多いので、どうしても地元採用が中心になります。

 

 

そのため、採用できる母数も限られ、十分な人数を集めるのは大変なのです。

 

久保:貴院の看護師はどういったご経歴の方が多いですか。

  

田中:稀に、新卒看護師の入職もありますが、ほとんどが他病院からの転職組です。

高度急性期病院から当院に転職される看護師も多いですね。

 

久保:田中先生は、看護師の転職についてどのようにお考えですか。

 

自分と患者のためにも無理は禁物

 

田中:私は、転職は時として必要だと思います。

人には向き不向きというものがありますし、働くまで実際の職場環境は分かりません。

まずは自分に合いそうな職場を選ぶと思いますが、実際働いてみて自分に合わないようであれば、

無理をしないで転職することも必要ではないかと思います。

 

 

看護師は、基本的に医師の指示の元に働く仕事であり、裁量の割に責任が重く、ストレスの大きい仕事です。

看護師に限ったことではありませんが、無理を押して仕事を続けても、

自分の体調や気分が悪ければ患者さんにも伝わりますし、良い仕事を行うこともできませんよね。

また、あまり無理を続けるとうつ病になるリスクもあります。

安易な転職を肯定する訳ではありませんが、自分や患者さんのために無理をしすぎないことは大切です。

 

 

久保:ありがとうございます。

田中先生が、個人として意識されていることなどございますでしょうか。

 

偉ぶるなという母の教え

 

田中:できるだけ偉ぶらないことですね。

普段から役職関係なく気さくに話すようにしていますし、

事務書類も院長室に持ってこさせるのは偉そうなので、私が事務室に行って見るようにしています。

 

 

久保:何かきっかけがあるのでしょうか。

 

田中:もともとは、母の遺言です。

母は生前から私に、

「人のことを気にするな、医者面するな、最後は便所掃除しろ」という言葉を常に言っていました。

要するに、医者だと思って偉ぶらず、便所掃除のような下働きをすることで、社会に貢献しろという教えですね。

今でも、朝家を出るときに母の写真を見ると、そう言って頭を叩かれているように思いますよ。

 

 

久保:素晴らしいお言葉ですね。

では、最後に、病院経営に対する先生のビジョンをお聞かせ下さい。

 

高齢化する地域を支える拠点となる

田中:当院のある地域は、かなりのスピードで高齢化が進行しています。

 

 

そのため当院・当法人は、冒頭でもお話したように、高度急性期病院との連携を強めつつ、

リハビリテーションを軸として、生活に戻っていただく拠点としての機能を高めていく必要があると思います。

すぐに生活に戻れない方については、長期の施設療養を行っていただき、

自宅に戻れないような方についても、特養などの住まいで受け入れるというように、

在宅、病院、住まいを必要に応じて提供できる存在でありたいですね。

 

 

国は「時々入院、ほぼ在宅」という方向に舵を切っていますが、

患者さんによっては、「時々在宅、ほぼ入院」が必要な人もいらっしゃいます。

ですので、患者さんに応じた受け皿を用意できることは非常に重要だと思うのです。

今後法人全体として、既存施設にサービス付き高齢者向け住宅や認定こども園などを複合し、

日本版CCRCのようなコミュニティーを作り上げていければ素晴らしいと思います。

 

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