前編に続き、林先生と柏田様に、産婦人科医療における課題や、看護の特性、看護師への期待などをお聞かせいただきました。
無痛分娩と新生児スクリーニング検査
久保:地域から求められる産婦人科病院としていくために、どのようなことをされているかをお聞かせください。
冒頭のお話では、無痛分娩に力を入れていらっしゃるということでしたね。
林:無痛分娩のニーズは非常に高いです。当院は60床で年間2,800件ほど分娩を扱いますが、そのうち800件以上が無痛分娩です。
そのほかには、ペアレンツクラス、院内コンサートを充実させるなど、創意工夫しています。また新生児検診も充実しつつあります。
例えば、国立生育医療センターや埼玉医大病院と連携し、ムコ多糖症、男児のファブリー病、ポンペ病などの新生児スクリーニング検査でオプションとして提供することを始めました。
これらの疾患は一般的な新生児健診では発見できず、成長とともに症状が現れてきます。発症前から先制医療の研究も進んでいますので、早期診断のメリットは大きいと考えられます。
出生前診断をどこまで行うのか
久保:出生前診断については、先生はどのようにお考えでしょうか。
林:難しい問題です。
ご存知のように、ダウン症等の可能性を妊婦の血液から調べることができるようになりましたが、その結果次第で中絶することは命の選択、優生思想に繋がるのではないかという指摘があります。
一方で、たとえどんなに福祉を充実させたとしても、生まれてくるお子さんを育てていくのはご両親であるという事実は変わらず、その意見・希望を無視することはできません。
久保:検査の診断能が向上すれば、それによって何かしらの異常が見つかる確率がさらに高くなりますね。
林:おっしゃる通りで、例えば現在も一般的に行っている妊婦健診では、胎児の発育状況を確認することも目的の1つですが、超音波を当てると意図せず異常が見つかってしまうことがあります。
我々としてはそのような場合、当然ご夫婦にお伝えします。
ほとんどの方は「知らせてくれてよかった」とおっしゃりますが、「そういうことは産まれるまで知りたくなかった」いう方もゼロではありません。
産後ケアを充実させていきたい
久保:本当に難しい問題ですね。
少し話題を変えまして、貴院のこれからについてお尋ねします。
いま何か企画されていることがあればお聞かせください。
林:現代は少子化や核家族化の影響で、
子育て中のお母さんが孤立してしまっていることが少なくありません。
そこに産後うつなどが重なりますと、希死念慮、あるいは虐待などの懸念も生じてきます。
そこで、お子さんを出産した後の母親を支えるような取り組みができないかと考えています。
そのような活動を自治体が主導しているケースもありますので、当院も自治体と連携できるところは連携して、よい仕組みを構築していこうとしています。
久保:そういったお仕事は、ドクターよりむしろ看護師の出番のように思いますが。
柏田:そうだと思います。
実際、当院でもまだシステム化された仕組みはありませんが、産後の2週間健診、1か月健診などで「何か困っていることはありませんか?」といったアンケートを行い、対処が必要な場合は保健師に連絡するといったことはしています。
この活動をよりしっかりとした仕組みとして進めていきたいところです。
ただしそれには人手が必要になってきます。現状のままでは現場のスタッフにさらなる忙しさを強いることになりますので。
現在、院長とともに対策を考えているところです。
久保:メンタル面に懸念があると思われる母親は、増えているのでしょうか。
柏田:増えているように感じます。
やはり相談できる人が少なくなっているではないでしょうか。
インターネットに頼りきりになっていて、私たちの言葉を受け付けないような方もいます。
そのような方でも時間をかけてお話を聞いて差し上げると、少しずつ落ち着かれて、私たちの話に耳を傾けてくださるようになります。
そして、「何かあったらまた来てくださいね」という言葉で病院から送り出します。
久保:先ほどおっしゃった「また来てください」というフレーズを、そのようなケースでも使えるのですね。
柏田:お子さんとお母さん、その二つ命の輝きのために「おめでとう。また来てね」と言える看護は素晴らしいことだと思います。
看護師へのメッセージ
久保:いろいろなお話をお聞かせいただきましたが、改めて看護師または看護学生に向けて、メッセージをいただけますか。
林:医師の指示に従って業務をこなすだけの看護師にはなってほしくないと思います。
看護師は医師とは異なる専門職なのですから、専門的な立場で患者さん、妊婦さんに接していただきたいです。
例えば私なども、患者さんや妊婦さんに状態を説明した時、それを横で聞いていた看護師から「先生。あの方、あまり納得していなかったようですよ」と言われることがありますが、そのようなことに気づいてほしいですし、指摘してもらいたいです。
看護師は医師よりも患者さんに近いところにいる存在です。
その点に誇りをもって取り組んでいただきたいと思います。
柏田:私たち看護師の仕事は、思いやりや優しさ、気遣いがなければ全く進んでいかない仕事です。
また、挨拶をしっかりできるようになってほしいと思います。
それは看護師だからというのではなく、人として基本的なことだと思います。
それから、院長のメッセージと重複しますが、「おかしい」と感じたことはしっかり医師に伝えてください。
看護師からの注意に助けられているというドクターは、恐らく少なくないと思います。
単に「気を強く持って医師に掛け合う」というのてばなく、医師以上に患者さんを看ているというプライドを胸に、スキルを磨いていただきたいです。
産科で看護をしていますと、妊婦さんやご家族が当然のように「健康な赤ちゃんが生まれるもの」と思われている中で、何か急変があった場合、対応に苦慮することがあります。
しかし、その一方で、赤ちゃんからエネルギーをもらうことのできる、素晴らしい仕事です。
久保:本日は奥の深い産婦人科医療・看護のお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
林・柏田:ありがとうございました。
インタビュー後記
明るく、息のあった理事長と総看護師長のお話に引き込まれました。
管理者として、医師と看護師として、各々の役割をきちんと実行しつつ未来を共有しているからこそ、温かい雰囲気が構築されているのだと感じました。
理事長である医師に信頼されるというのは、やはり総看護師長の努力と結果があってこそなのだと思います。
看護師として、学ぶことが多くあるインタビューでした。