No.182 病院長 山中太郎様(横浜旭中央総合病院)後編:看護師のトランスフォーミング

インタビュー

前編に続き、医療の進化に伴って変化する看護師の責務と、

社会の要求に応じて変容していくために求められる姿勢などを、語っていただきました。

医療の進歩とコストの増大

中:ご専門のウイルス性肝炎以外で、大きく進化した分野とは、例えばどのようなことでしょうか。

山中:例えば、がんです。いま一番日本人の命を奪う確率が高い疾患はがんですが、

モノクローナル抗体医薬が登場し、一部では外科的治療に匹敵する成績を期待できるようになってきました。

ただし、そこで悩ましいことは、手術なら例えば50万円で終わるところ、

新規抗がん薬では数千万円かかることがあります。

それを誰が負担するのでしょうか。

医学が急速に進歩し、その進歩の成果を我々はどの程度サービスとして提供すべきなのかという、

ある種のジレンマが生じています。

ですから、最初のご質問の回答と関係しますが「何ができるか」ではなく「何が求められているか」を

真剣に考えなければいけないという、曲がり角にいま来ているということです。

患者さんを助けられないストレス

中:看護師について少しお尋ねしたのですが、先生は普段、看護師をどのように考えていらっしゃいますか。

山中:看護師の仕事というのは非常に大変です。

大変さの一つは、患者さんを助けられないことではないかと思います。

どういうことかと申しますと、例えばご自身が末期がんであることを受け入れられない患者さんがいた時

「それを癒すのが看護師の仕事だろう」と一般的には言うのでしょうが、それは容易なことではありません。

とても辛いのではないでしょうか。

特に看護師になりたての若い人にとっては本当に大変だと思います。

よく「看護師は、きつい、汚い、危険の3K」と言われますが、私はそれらよりもさらに、

患者さんを助けることができないジレンマからくるストレスの方が大きいのではないかと思います。

中:今後、看護師の業務はどのような変化していくとお考えでしょうか。

山中:患者さんの心のケアの問題は、

間もなく制度化される公認心理士などの専門職に変わっていくかもしれません。

これからの看護師には、患者さんの診療に必要な技術を持ったさまざまな専門医療職者との間をつなぐ役割を

担っていくのでないでしょうか。

医療現場のシステムインテグレーター

中:私どもで看護師としての働き方ガイドのような書籍を出版したことがあるのですが、その時の結論も、

これからの看護師はシステムインテグレーター的な存在になっていくという趣旨にまとまりました。

山中:その通りだと思います。

そのために、先ほど申しました「想像」と「創造」がどうしても必要になってきます。

中:看護師が進化していくためのアドバイスをいただけますか。

山中:どのように業務の優先度を組むかがポイントです。

どんな職種でもそうだと思いますが、社会人の1年目は何が大切なのかよくわかりません。

それがわかるようになるのには3年か5年かかるのではないでしょうか。

私も「医者として、これでお給料を貰えているのだな」と思えるようになるまで10年かかりました。

ある程度の期間は我慢が必要なのだろうと思います。

最初の3年間ぐらいは石にかじりついてでも頑張るべきではないでしょうか。

最終的には、ハートです。

良心です。

その良心をいかに育むかです。

ただ、そのような人間力の多くは思春期に作られるものではないかという思いもあります。

凛とした看護師

中:仮に思春期においてそのような人間形成が十分でなかった場合、

看護師として働きながらでもそれは可能でしょうか。

山中:もちろんです。

良心を育てるのは、感動を繰り返すことです。

美しいものに感動したり、恋愛をする喜びであったり、本を読んでドキドキしたり、

映画を観て涙を流したり、そういった体験の積み重ねから形成されるものではないでしょうか。

中:看護師や看護学生に、お勧めの本はございますか。

山中:この部屋にある本の中では、例えば『女子の武士道』なども良いかもしれません。

会津武士のご子孫の話で、凛とした生き方を著しています。

看護師に限らず職業をもつ女性は読むべきだと思います。

医師には「ノブレス・オブリージュ」として誇りと責任が要求されますが、

看護師も命を扱う以上、それに近いものがあります。

他人に痛みを強要することが許される職業は医師と看護師だけです。

そうである以上、良心が必要で、特に女性の場合は凛とした強さが必要です。

中:とても良いお話を伺えました。

確かに、患者さんが痛みをこらえ苦しんでいる時に、それを支える看護師が頼りなければ、

患者さんはより不安をお感じになると思います。

山中:「大丈夫、私がついているから」と、凛としていなければいけません。

この考えが当院の看護師にどのくらい浸透しているのかはわかりませんが。

中:看護部長にインタビューさせていただいた時、

とても筋の通った芯のあるお話をしていただいたことが印象に残っています。

高橋看護部長

山中:当院は、人を育てる病院です。

なぜそれが可能かと言いますと、

最初に申しましたように当院が所属するIMSグループが日本最大規模の医療集団の一つだからです。

日本の病床数の約2%を占めます。

そのため個人が経験したいこと、経験すべきことの全てについて、グループ内にチャンスがあります。

またライフステージに合わせてポジションを変えられるというメリットもあります。

例えば「結婚して出産したから、急性期病院は難しいけど慢性期の病院だったら続けられるそう」という

希望にも応えられます。

10%を11%にする努力

中:時代の求めに応じて変化していくにはどうすれば良いのかということを含め、

看護師へのメッセージをいただけますか。

山中:いまは価値観が急速に変容していく時代です。

我々が若い看護師に「これが必要だ」と伝えた価値観が、

果たしていつまでも正しいと言えるのだろうかという疑いもあります。

その時代時代に応じた在り方が必要だろうと思います。

ポイントは価値観を変容、トランスフォームできるかどうかです。

恋愛と同じです。

12歳のときのほのかな恋心、15歳のときの恋愛、18歳、20歳、25歳と、

恋愛に求めるものと求められるものは大きく異なりますね。

しかしそれを一つひとつクリアしていかないと次に進めません。

自分を信じて一歩ずつ前に進むしかありません。

結果が100%でなければ0%と考えがちですが、決してそうではなく、10%でも20%でも良いのです。

10%を11%にする努力の継続が、全てにおいて大切なことではないでしょうか。

シンカナース編集長インタビュー後記

病院に訪問し、山中先生の院長室へ入って目にしたのは、沢山の本でした。

その中には『スピリチュアル・マシーン』などレイ・カーツワイルの本もあり、シンギュラリティについてもお話いただけました。

環境は自らの思いとは別にどんどん変化していく。

価値観もまたしかりで、変容していくことを受容する必要があるのは、若い看護師だけではなく、先輩の看護師も同様なのでしょう。

山中先生のおっしゃられた「価値観を変容、トランスフォームできるかどうか」

という言葉を心に刻み、柔軟に時代を捉えていきたいものです。

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Interview Team