No.266 恵愛病院 林隆 理事長・院長 柏田都 総看護師長 前編:地域に選ばれる産婦人科病院

インタビュー

埼玉県南東部の富士見市において半世紀近くにわたり産婦人科医療を提供している恵愛病院

その理事長・院長である林隆先生と、看護部門を束ねる柏田都総看護師長にお話を伺いました。

 

周囲の期待に応えて産婦人科医に

 

久保:本日は、恵愛病院理事長・院長の林隆先生と、柏田都総看護師長にお話を伺います。

最初に貴院の特徴や沿革を教えてください。

 

林:当院はお産を中心とした産婦人科・小児科の病院で、出産から子育てまで支援していくというコンセプトで運営しています。

私の父が1971年、ちょうど私が生まれた年なのですが、つるせ産婦人科というクリニックを開業し、後に病院へと拡張したという沿革です。

現在は無痛分娩などに力を入れ、地域から選ばれる産科病院となることを目指しています。

 

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久保:次にご経歴をお聞かせください。林先生からお願いいたします。

 

林:父親が産婦人科医で私は長男でしたので、あまり悩まず半ば当然のように医師になろうと考え、日本医大に進みました。

産婦人科はその頃すでに、きつい、汚い、危険の「3K」と言われていた時代で、在学中に私が「将来は産婦人科を考えています」と言いますと、教員や先輩からたいへん貴重がられたものです。

そのため「周りから求められるのであれば、それに応えよう」と、より強く産婦人科医を志望するようになりました。

卒業後も東京の葛飾赤十字産院や都立墨東病院、埼玉医大総合医療センターなどに勤務しましたが、いずれも産科でした。

その後、父親がリタイアするタイミングで理事長・院長に就任しました。

 

 

久保:産科専門病院は、総合病院や他科の専門病院と、どのような違いがありますか。

 

林:妊婦さんの陣痛がいつくるかわかりませんので、入院の調節ができず、ベッドコントロールが大変です。

ベッドが混んでいる時と空いている時のムラができてしまい、スタッフの適正配置が非常に難しいです。

 

 

久保:数年前までの一時期、深刻な産科医不足が報道されていましたが、今はどうなのでしょうか。

 

林:今は比較的充足してきました。

産科を標榜する医療機関の集約化が進んだことも関係していると思います。

緊急事態に備えるためにもこれは良いことだと思います。

 

「またどうぞ」と言える看護

 

久保:続いて柏田様、ご経歴をお聞かせください。

 

柏田:私は秋田の出身で高校卒業後、准看、高看を経て、都内の病院で10年ほど勤務してから当院に就職しました。

今年で勤続23年になります。着任したのは前院長の時代でした。

5年ほど前に現院長の林先生に総看護師長就任を打診され、少し考えさせていただいた後にお引き受けいたしました。

 

 

久保:柏田様は、もともと産婦人科看護がお好きだったのでしょうか。

 

柏田:新人の頃は外科が好きで、特に手術室看護のピリピリした雰囲気が好きでした。

しかし今は産婦人科看護の楽しさを感じています。産婦人科は、退院される方々に「またどうぞ」と言えることが一番いいなと思います。

「また次も産みに来てね」と。

 

新たな生命の誕生からパワーをもらえる

 

久保:なるほど。他科を退院される患者さんにはなかなか言えない言葉ですね。

林先生はいかがですか。産婦人科医療の特徴をお聞かせください。

 

林:医療介入の結果が明確にわかることが特徴ではないでしょうか。

周産期は結構、緊急事態が多いものです。

正常妊娠として経過中の妊婦さんの容態が突然変化することもあります。

そこに適切なタイミングで介入し、危機的状況から母児ともに助けることに尽くすことにやりがいを感じます。

若かった頃を思い出しますと「産科は当直ばかりで大変では?」とよく聞かれ、確かにお産が続いてほとんど眠れない日もありました。

しかし、当直明けの日、からだは疲れていても気持ちは全く疲れを感じていないという経験をよくしたものです。

恐らく、新しい生命の誕生からエネルギーをもらっていたのだと思います。

 

 

久保:5年前に林先生が柏田様へ総看護師長就任を要請されたのは、どのような理由がおありだったのでしょうか。

 

林:病院として一貫したケアを行うのに重要なことは、外来での妊婦健診の情報が、入院時に病棟にしっかりと伝達され、その後、小児科まで連携することと考えています。

そういう意味では 当院の総看護師長は産婦人科外来から病棟、そして小児科外来までを把握する必要があります。

またそれぞれの場所に沿った教育も必要となります。

助産師と看護師では役割が重なる部分もありますが、助産師は分娩についての専門的知識をもちケアするという、看護師よりも専門化された職種です。

そのためか、一般的に産科病院では助産師が部長になることが多いのですが、助産師であっても看護師であっても、全体を見渡し管理指導ができる人が総看護師長にふさわしいと考え、柏田さんが適任だと判断しました。

 

看護教育制度を充実

 

久保:林先生が意図されたことは、現場に反映されつつありますか。

 

柏田:産科は助産師が主体となるのは当然のことと思います。

分娩介助、乳房ケア以外は助産師、看護師の業務を分けるのではなく、スタッフ全員で取り組む姿勢で考えています。

助産師についてはクリニカルラダーを踏まえた教育体制を継続していくこと、看護師は産科小児科に特化した看護の習得を目指したいと考えています。

昨年までは新人スタッフに対し教育委員と呼ぶ先輩スタッフが、徐々に業務を引き継ぐかたちで現場教育を進めていたのですが、今年からはプリセプター制度を導入し、より指導を重視した方式にしました。

これにより、例えば対応に苦慮することが発生した場合などにも、気兼ねなく相談できるようになったと思います。

 

 

久保:先ほど林先生から「産科は医療スタッフの適正配置が難しい」とのお話がありましたが、看護部門でのマネジメント上のご苦労をお聞かせください。

 

柏田:やはり人材難がネックですね。

多くの診療科での看護を経験したいと思う看護師が多いようで、産科病院には産婦人科看護に興味がある人しか応募されてこないため、なかなか大変です。

林:ただ、産科医療に関しましては、冒頭でも申しましたように地域ごとの集約化が進んでいて、

妊婦さんも総合病院より産科に特化した専門病院を選択される傾向が強くなっています。

そうした中で今はどこの産科病院も妊婦さん、あるいは患者さんに選んでいただくために必死でやっています。

当院もこの地域の中で何とかブランドを確立していきたいと努力しているところです。

 

後編に続く

Photo by Fumiya Araki

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