No.261 帯津三敬病院 増田俊和 理事長・院長 前編:得意分野を伸ばし経験を重ねる

インタビュー

帯津三敬病院の理事長・院長でいらっしゃる増田俊和先生は

「医師の臨床力は経験がものを言う。看護師もそれは同じ」とおっしゃいます。

そのお考えに至るまでの先生のご経歴を中心にお聞かせいただきました。

 

脳神経外科の領域を開拓する意気込み

 

中:本日は帯津三敬病院、理事長・院長の増田俊和先生にお話を伺います。

先生、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

増田:よろしくお願いします。

 

中:まず、先生のご経歴について伺いたいのですが、先生は脳神経外科がご専門と伺っています。

脳神経外科を選ばれた理由を最初にお聞かせいただけますか。

 

増田:ご承知のように卒後臨床研修が義務化される以前のストレート研修の時代は、

医学生は6年生ともなると何科に進むのかをだいたい決めているものでした。

 

 

私の場合は6年間勉強しているうちに、神経系に強く興味を持ちました。

神経を専門にできる科といいますと、脳神経外科か神経内科、精神科、

それから整形外科も一部神経が関わります。

その中から脳神経外科を選んだというわけです。

 

 

中:脳外ですとかなり繊細な手術が要求されるかと思います。

もともと手先が器用でいらしたとか、そういった理由もございますか。

 

増田:いえ、そういう点よりもやはり「ただ神経が好き」ということでした。

私が医師になった当時、脳神経外科はまだ比較的新しい分野でした。

そのような発展途上の世界でパイオニアのように新たな学問領域を切り開く、

と言ったら大げさかもしれませんが、それに近い意気込みはありました。

 

 

それからもう一つの理由は、重篤な状態で入院された患者さんが脳外の手術後、

元気に退院していく姿を、学生の頃にしばしば目にしていた影響もあります。

やはり患者さんが治ることが医師として一番嬉しいことに違いないという思いがあり、

それが脳外を選んだ大きなポイントです。

 

得意分野を伸ばす

 

中:医学の力で疾患が治り、患者さんに新しい未来が開かれていく過程を見守ることができることが、

脳神経外科の特徴ということですね。

先生が医大に進まれたのは、そのような医学の素晴らしさに惹かれたからなのでしょうか。

医師になられた理由をお聞かせください。

 

増田:大学受験前は、将来医者になって何をしたいかまでは考えていませんでした。

 

 

実家は商売をしていて、親戚も含めて周囲に医療関係者が全くいない環境で私は育ちました。

高校生にもなりますと「家業を継ぐのか他のことをするのかよく考えろ」と親からよく言われたものです。

私は理系の教科が得意でしたので、

「家を継ぐよりも医師を目指してみようかな」と安易な発想で受験したというのが実情です。

ですから実は、「医師を目指した理由は?」という質問が一番苦手です。

 

 

中:ただ、自身の得意分野を生かして将来を考えるという方法も、とても大切なことかなと思います。

 

増田:そうですね。

その通りだと思います。

私も恥ずかしい話、高校の時に文系の教科も勉強したのですが、全くできなくて浪人してしまいました。

浪人して初めて、自分の好きなことをすべきだと気付き、コースを変えたという次第です。

 

 

中:医学部に進まれてからは神経系に興味をもたれ、学問を深めていかれたということでしたね。

その頃の記憶に残るエピソードはございますか。

 

増田:研修医時代、もう30〜40年前のことですが、なにしろ忙しかったという記憶しかありません。

病院に住み込みのような状態で、家に帰るのは週に1度あるかないかでした。

そのような状態の2年間は、先輩からの指示をこなすだけで精一杯でした。

 

臨床力は経験量

 

中:そうしますと、その間さまざまな症例にあたられて、実力をつけていかれたのですね。

 

増田:そうですね。

やはり臨床力は経験がものを言います。

1例診るよりは2例、2例診るよりは3例というように、

できるだけ多くの経験を積むことが大事だと思います。

 

 

多くの経験を経るなかで困難な症例や状況に出会い、

そこで悩み勉強して技術を身につけ、それが次につながっていく。

私は、医師の成長には結局、経験を積むしかないと感じます。

 

 

看護師もおそらく同じではないでしょうか。

臨床に身を置くのであれば、できるだけ多くの経験をしていただかないとと思います。

それは看護師としてだけでなはなく、人としての成長にも欠かせないことだと感じます。

看護の現場もそういう職場であってほしいと思っています。

 

 

中:ただ「忙しい、大変だ」というのではなく、

「いま大切な経験をしているのだ」と思えるだけで、ものの見え方や未来が変わってきますね。

 

増田:よく「人生に無駄なことは一つもない」と言われますね。

「どんなに大変で辛いことでも、必ず将来、身になるのだ」と。

この言葉が真理なのかどうか個人ではすぐに確かめようがなく、後になってみないとわからないのですが、

私の経験からは真理だと考えます。

 

100点ではなく60点を積み重ねる

 

中:新人の看護師や看護学生に向けての非常に力強いメッセージだと思います。

特に看護師として働き始めの頃は慣れないことを覚えるだけで大変なものですが、

そこを乗り越えてしまえば、経験が糧になっていくのだと考えていただきたいですね。

 

増田:私はよく新人職員に「100点でなく、60点をたくさんとりなさい」と言います。

60点なら自分ができていない40点の部分がわかり、そこをまた勉強できるからです。

もし最初から100点をとってしまうと、もうその後、努力することが難しくなります。

60点を取りなが成長する方が、長い目で見ればいろいろな経験を積むことができます。

 

 

中:面白い考え方ですね。

ふだんからそういった発想でいれば、勉強にも勤務にも落ち着いた気持ちで取り組めそうです。

 

増田:私も看護学生を教育することがありますが、看護学生にとり一番大変なのは実習だと聞きます。

 

中:おっしゃる通りです。

 

増田:実習の際、全部完璧にできなくても良いので、何ができなかったのかを理解することが重要です。

次に向けてそこを努力する。

この過程はひょっとすると少し我慢が必要かもしれませんが、投げ出してしまったらそこでお終いです。

 

 

後編に続く

Photo by Carlos