No.256 湘南病院 大滝紀宏 院長 前編:患者さんの新しい人生を支援する

インタビュー

 

湘南病院の大滝紀宏先生は、病院長の重責を担いながら現在も

精神科医として新しい取り組みにチャレンジされています。

そんな大滝先生に、病院の特徴や、先生のご経歴、精神科看護師へ期待することなどを伺いました。

 

精神科急性期・療養病棟を備えた総合病院

 

中:本日は、湘南病院院長の大滝紀宏先生にお話を伺います。

先生、どうぞよろしくお願いいたします。

 

大滝:よろしくお願いいたします。

 

 

中:最初に貴院の紹介とともに、働かれている看護師の方の雰囲気、特徴を教えていただけますか。

 

 

大滝:当院は、急性期病棟や地域包括ケア病棟、医療型療養病棟のほかに、

精神科の急性期病棟と療養病棟があり、五つの病棟で構成されています。

病棟ごとに勤務内容や密度、時間帯が異なり、

看護師の方にとっては個人個人にあわせた働き方が可能な病院だと思います。

最近は新卒で入職してくる人はやや減少し、子育てをしながら、

あるいは子育てが終わった世代の看護スタッフが増えてきています。

 

 

中:そうしますと、長く働いていらっしゃる方が多いということでしょうか。

 

大滝:そうですね。

当院に勤められてからお子さんを出産して、その後もずっと働いているという方も少なくないです。

 

中:看護師にとって働きやすい病院なのですね。

 

医療面接への興味からスタート

 

中:では次に先生のご経歴についてお尋ねいたしますが、

医師になろうとされた動機や医学部時代の思い出などをお聞かせいただけますか。

 

大滝:代々医者の家系で父が内科の開業医でしたので、

子どもの頃から素直に医者になってみようと考えていました。

医学部時代は勉強が面白かったですね。

興味があることばかりを学べるのですから。

ただし、覚えなくてはいけないことの多さにはまいりました。

 

 

中:先生のご専門は精神科と伺いました。

精神科を選ばれた理由はどのようなことでしたか。

 

大滝:精神科の他に小児科と産科が候補に残り悩みましたが、結局、

もとからなりたかった精神科医を目指すことにしました。

個人的な先入観なのかもしれませんが、この三つの診療科は単に疾患を治療するだけでなく、

そこから新たな始まりがある、新しい人生がスタートする、

それを支援できる仕事ができる科ではないかと思うのです。

 

 

中:学生時代から精神科医になりたいお考えだったのですね。

 

大滝:人の話を聞くことが何よりも好きで、精神科の診療で行う面接がとても性に合っています。

今でも、いずれ全ての肩書を無くし、

一つだけ「精神科医」という肩書きだけの名刺を作りたいと思っています。

 

 

中:先生の精神科診療に対する情熱が伝わってまいります。

その情熱の源がどこにあるのか、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。

 

大滝:私は基本的に人の気持ちはわからないと考えています。

「では、どうして精神科医をやっているのか」と聞きたくなると思いますが、

わからないからこそ尋ねるのです。

患者さんを目の前にして、

「なぜそのように考えたのですか?」「ご自身はどのようになりたいですか?」と

質問を重ねていきます。

 

 

質問をしてその人を少しずつ理解し、問題点を共有した上で、

「それではどうしましょうか?」と一緒に考える、

このプロセスが私にとってはエキサイティングなのです。

精神科医になった当初は、病に苦しむ人を救うという高邁な願いよりも、

好奇心と申しますか自分の興味で、仕事が面白いと感じていました。

 

精神科看護師への期待

 

中:「精神科医になった当初は」と今おっしゃいましたね。

するとその後お考えが少し変わられたのでしょうか。

 

大滝:患者さんの治療が進み回復しても、戻っていく元にいらした社会は、

やはりたいへん生きづらい場所です。

そのために社会復帰が困難になることが少なくありません。

 

 

精神科医として経験を重ねるに従い、患者さんを治療するだけでなく、

なんとか患者さんを社会につなげていけないだろうかと考えるようになりました。

もちろんそれは自分一人だけでは無理なことですから、多職種のスタッフでカンファレンスをするなど、

病院内外で連携を強化してきています。

 

 

中:そのような連携においては看護師にも一定の役割が求められるのではないかと思います。

先生がお考えになる精神科の理想的な看護師像は、どのような姿でしょうか。

 

大滝:まず、明るいことでしょうね。

どんな状況になっても明るく動ける人。

加えて、思い込みではなく、現実をあるがままに受け止められる人。

それが大切だと思います。

それ以外には、把握した現状や問題点を言語化して説明できることも大切です。

少し望みが高くて申し訳ないのですが。

 

 

中:看護師に対して「問題を言語化する力」を望まれるというお話は、

これまでのインタビューであまり伺ったことがなく、新鮮に感じました。

言語化能力を高めるためのポイントをアイドバイスいただけませんか。

 

大滝:正しく言語化するには、その前に正しく認識することが必要です。

それには物事を一つの面からでなく、常に複数の面から見る練習をしておくとよいのではないでしょうか。

 

 

具体的には、いろいろな人の話を聞くこと、そして自分で動いて現場を見ることです。

さらに言えば、自分がどんなことをしたいのか、どんなふうに生きたいのか

ということを日頃から考えている必要があり、

そうしなければ人の話を聞いてもそれを咀嚼して自分のものにすることができません。

 

 

中:若い看護師や看護学生にとって、とても良いメッセージをいただけたと思います。

 

大滝:もっとも、実践は難しく、私も常時そのようにできているわけではありません。

何よりも自分を大切にすることだと思います。

そして、自分が自分を大切にするように、

他の人も自分を大切に生きていることを理解していけばよいのではないでしょうか。

 

後編に続く

Interview with Toan & Carlos