No.226 佐野厚生総合病院 村上円人 院長 前編:佐野市の基幹病院として

インタビュー

栃木県佐野市の基幹病院である佐野厚生総合病院は、地域医療を支える数々の機能を担っています。

病院としてその任を果たすために取り組んでいることを、病院長の村上円人先生にお聞かせいただきました。

市の救急車の7割以上を受け入れ

 

嶋田:本日は、佐野厚生総合病院院長の村上円人先生にお話を伺います。

先生、どうぞよろしくお願いいたします。

村上:よろしくお願いします。

嶋田:まず貴院の特徴を挙げてください。

村上:当院は531床を有する佐野地域の基幹病院で、

佐野市の救急車の7割以上を受け入れている地域医療支援病院であります。

地域がん診療連携拠点病院にも指定されています。

また、高度急性期医療以外に、精神科病床や地域包括ケア病棟、特別養護老人ホーム、

地域包括支援センターなども備えたケアミックス病院として、幅広く地域に貢献しています。

最近、ローカルDMAT(地域単位の災害派遣医療チーム)を立ち上げたことも特徴と言えるかもしれません。

ローカルDMATの立ち上げ

嶋田:貴院がローカルDMATに取り組むことにはどのような意義があるのでしょうか。

村上:これまで佐野市の災害医療対策はあまり充実しておらず、2017年度に県庁と市役所から

当院で災害医療の一翼を担ってほしいとの要望が寄せられ、その声に応えるかたちでスタートしました。

当院は地域に密着した急性期病院ですから災害発生時に被災者が集中すると予測されることからも、

有意義であると考えています。

院内でDMATの研修希望者を募ったところ、すぐに14名が集まり、

第1DMATは隊員講習を修了した段階です。

講道館で柔道修行

嶋田:では次に、先生ご自身に関するご質問に移りまして、

まず先生が医師になろうとされた動機をお聞かせください。

村上:身内に医療関係者がいないために子どもの頃は医師になろうとは考えておらず、

スポーツに精を出していました。

中学時代から柔道に熱中し、近くの道場と、時々、柔道の総本山である講道館にも通い、

館長から「世界に柔道を広めるような人になれ」と言われて練習していました。

ところが練習のしすぎで、高校時代に身体を壊してしまい、

2年ほど体育の授業も休まざるを得なくなりました。

そのとき病院の医師やスタッフの方に非常に助けられたという思いがあり、

ちょうど受験のタイミングと重なったため、医学部を受けたというわけです。

透析患者数減少に貢献したい

嶋田:医学部に入られてから、ご専門領域はどのように絞っていかれました。

村上:大学で憧れる先生が腎臓内科の猿田享男先生だったため、自分もそこを目指しました。

その後、臨床現場で働くうちに、症状のない早期に腎疾患を診断し、現在30万人を超える透析患者さんの

減少に貢献すること、特に糖尿病からの透析を減少させることを、自分のライフテーマとしています。

嶋田:大学ご卒業後のご経歴をお聞かせいただけますか。

村上:まずはそのまま慶應大学病院内科学教室に入局した後、静岡赤十字病院で研修を受けてから

大学に戻り、高血圧・腎臓内分泌内科の権威である猿田享男先生に師事しました。

その後、米国のクリーブランドクリニックに2年ほど公費留学し高血圧領域の基礎研究をして、

帰国後は東京の日野市立病院に22年間勤務し、副院長となり、

透析室長、研修センター長、情報システム管理室長なども兼務し研鑽を積みました。

そして2017年の6月、慶應大学の医局人事で当院の院長に就任いたしました。

人材育成と組織改革

嶋田:院長に就任され、どういったことに取り組まれましたか。

村上:赴任時は、離職者が多く、医師不足、看護師不足の状況でした。

医療で一番大切なのは人材であると考えおり、「人を育てる」ことを重視しています。

前任地での経験を活かして、研修センターを立ち上げ、初期研修、内科専門医研修の体制を一新しました。

医師だけでなく看護師、薬剤師、臨床工学士など全ての専門スタッフの育成強化をめざしております。

自分自身も透析センター、ME(メディカルエンジニア)センター長として現場で指揮をとり、

内科を新専門医の基幹病院への格上げを行いました。

また、救急講習や人工呼吸器などの院内講習会を充実させるなどさまざまな取り組みを始めました。

さらに、セクショナリズムを打破し医療の標準化を進めるため、医師・看護師共同の臨床研究も始めて、

医療チームの結束を高め、レベルアップをめざしております。

その例が、フレイル対策で始めた、リハビリ後の30分間以内のアミノ酸栄養補給、

『リハ栄養』のプロジェクトです。

また、院内の委員会組織を再編して、大幅なスリム化を進めて職員の環境の整備も進めております。

他院での研修や学会発表をサポート

嶋田:人材の育成と組織の改革に取り組まれているとのことですが、

それぞれについて少し詳しくお聞かせください。

まず、人材育成について、具体的にはどのよう方法をとられていますか。

村上:当院が地域の基幹病院のためか競争意識が乏しく、

私が着任するまでスタッフが他院へ研修や見学にいくことをあまりしていなかったようです。

現在は看護師や事務スタッフに、積極的に研修に行くよう勧めています。

例えばMEセンターの10人のスタッフに対して、近隣の大学病院へ1か月間の研修に出張させたり、

さまざまな資格をとれるような、スキルアップのルートを示しました。

全員を臨床工学技士会に加入させ、学会発表の指導も始めました。

また、透析スタッフを慶應病院に腹膜透析の研修に出向させました。

同じような取り組みを看護部や事務部門でも進めています。

院内講演会も増やして、著名な先生を招き、学会発表、論文作成なども奨励しております。

もともと職業として医療職を選ぶ人は向上心が高くスキルアップを求めている方が多いため、

環境整備による職場の活性化をめざしております。

嶋田:研修先病院はどちらですか。

村上:現状では私の前任地の慶應病院、日野市立病院、そして自治医科大学などにも

お世話になっており大変感謝しております。

日野市立病院は、佐野と地理的に離れていてライバル関係ではないので、

お互いの良いところを情報交換できます。

同じ職種同士で個人的に情報交換ができる横の関係を築いているスタッフもいるようです。

組織の縦割りを打破

嶋田:では次に、組織改革の取り組みについてお尋ねします。

院内の委員会を減らしたとのことでしたが、それはどのような理由からですか。

村上:組織が縦割りで、それぞれの会議の検討課題が重複していました。

例えば倫理委員会が看護部内と医師側と、別々に設置されていました。

それらを統合してスリム化するということです。

また病院の規模が大きいために、部門ごとに多くのローカルルールが存在しており、

現在も標準化を進めております。

エコーなどの特定な科や個人で所有しがちな機器の共有化なども進めています。

さらに、糖尿病に関連することでは、9月に新たに糖尿病専門医が赴任したのをきっかけに、

看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士、歯科衛生士などが参画する、

組織横断的な糖尿病チームも立ち上げました。

後編に続く

Photo by Carlos