No.204 新小山市民病院 島田和幸 院長 後編:看護の奥行きを実感できる病院

インタビュー

前編に続き、病院再生の取り組みと未来への展望、

医師と看護師の世界観の相違などを語っていただきました。

医師の世界と看護の世界

中:看護行為についてはエビデンスが少なく、明確な答えを得にくいことが多いのかもしれませんね。

島田:私は最近、医学よりもむしろ看護のほうが、奥が深いと思うようになりました。

なぜなら医学には科学として原因と答えの関係が明確です。

その共通理解をもとに診断と治療が成立しています。

しかし看護の答えは患者さんの反応として表れ、原因は千差万別です。

ですからそれぞれの患者さんを観察し理解しなければ始まりません。

例えば「なぜこの患者さんはこの時、錯乱したのだろう?」と考え抜かなければなりません。

ここが大事なところです。

医師は病気が治ることを第一に考え、看護師は患者さんが安心し快適になることを第一に考えます。

患者さんが辛さを訴えた時に医者は「あなたはこれしか治る方法ありません」で済ませたとしても、

看護の世界ではそうはいきません。

それが看護の奥深さです。

私は間違ったことを言っているかもしれませんが、今はこのように考えています。

看護のAI化

中:病院長というお立場の先生にここまで深く看護を語っていただき、たいへん嬉しく感じました。

少し話題が変わりますが、例えば将来的にAIが医療に導入された時、

看護のかたちが変化する可能性はないでしょうか。

島田:医師業務についてはAIの方が人よりも勝ることが多々出てくると思います。

看護業務に関しても、センサー技術や画像解析を活用して、

例えば病棟にせん妄を起こしそうな患者さんがいたら警告が出るとか、

場合によってはロボットが「○○さん、今日はご機嫌いかがですか」と話しかけて予防的に介入することができるかもしれません。

そうしたら看護スタイルも大きく変わってくる可能性もありますね。

病院再生

中:ありがとうございます。

ここでまた先生のご経歴に戻りまして、貴院の院長になられた経緯をお聞かせください。

島田:当院に来る前は自治医大の病院長でした。

その任期終了が近づいた頃に当院院長のお話をいただきました。

他の市立病院と同じように赤字体質が定着してしまっているので、

独立行政法人として刷新しようということでした。

私自身、全く勝算はありませんでしたが「面白そうだな」とは思いました。

中:大きなチャレンジですね。

島田:おっしゃるとおりです。

ただ「本当にうまくいくのだろうか」などと、あんまり気にしませんでした。

むしろここで働く医療者、医師や看護師が「自分たちはいま確かに仕事をしている」と

実感できるような病院にしたいと考え続けました。

その過程で先ほどお話ししたような「看護師の仕事には、こんなこともあったのか」ということにも

気づいてきました。

スタッフが誇れる病院

中:いま病院長としてもっとも大切にされていることはどのようなことですか。

島田:病院長に就任し最初の1年目は市立病院で、翌年に地方独立行政法人となりました。

その使命は何かというと、この病院が立ち直ることです。

経営学の本を読みますと、病院運営がしっかり進むには何が必要なのか、それは成果だと書いてありました。

では「病院の成果って何か?」となります。

それは一般的な解釈では赤字が黒字になることでしょう。

しかし医療は単純なコマーシャルベースの活動ではありません。

やはり患者さんに「この病院はいい病院だ」と評価され、それを職員が誇りに思えることです。

この考え方もまた間違っているかもしれません。

しかしこの信念でビジョンを示しながらマネジメントを絶えず試みています。

コミュニケーションの勉強

中:院内のマネジメントで気をつけられていることはございますか。

島田:それはやはりコミュニケーションです。

医療は協業が大切ですから、私自身もコミュニケーション法を勉強し直さなければいけないと感じています。

医師にも大切ですが、看護師にとってはよりコミュニケーションが大事です。

なぜなら先ほど申しましたように、看護は患者さんを理解しなければ答えが出ないからです。

相手を理解するには、私が今まで勉強したことによると、よく聞くことが良いらしいです。

わからなかったら、いつも質問することです。

中:先生が看護師とコミュニケーションをとるのはどのようなタイミングでしょうか。

島田:週1回は全ての病棟を回り、師長や主任と会話をするようにしています。

また当院には「患者支援センター」といって入退院や生活復帰を支援する部門があるのですが、

病棟とは異なるその部門で働く看護師も多数います。

その看護師たちとは頻繁にディスカッションしています。

その他「院長懇談」といいまして、各部門の管理職者に私の所へ来ていただき、

ざっくばらんに話をする機会があります。

看護部長とは毎週2回、副部長とは毎週1回、30分~1時間ぐらい情報交換します。

中:院内の情報をリアルタイムにキャッチされているのですね。

島田:入ってくる情報量は膨大で、大学病院にいた頃とは雲泥の差です。

中:自治医大ももちろん非常に大きな病院ですからにご苦労がおありだったかと思いますが、

こちらでは先生が直接ご自身で現場に出向いて状況を確認されるなど、時間をかけていらっしゃるのですね。

島田:おっしゃる通りでして、結局、我々が一体どういう方法で自分たちが納得できるかというと、

よくそれは「言葉を介して」と言いますが、それでは不十分です。

患者さんがどういう状況にあって看護師たちがその人をどのように思っているのか、

患者さんは当院をどのように感じているのか、それを現場で確認することが一番大事だと思います。

院長が交代しても姿勢は変わらないことが理想

中:貴院のこれからについて、何か新しい展開を考えていらっしゃいますか。

島田:病院としては誰が病院長になっても、しっかり自分たちがすべきことをしていく、

そういう考えがスタッフ全員に根付いている組織が理想だと思います。

そういう姿を目指して進めていかなければいけないと考えています。

中:最後に看護師に向けてメッセージをお願いします。

島田:皆さん、新小山市民病院の病院長、島田でございます。

本院はここ小山市近郊の市民から本当に信頼される地域中核病院を目指して、職員全員、

医師、看護師、医療技術系スタッフ、事務スタッフ、みんながお互いにコミュニケーションをとりながら、

和気あいあいと取り組んでいます。

市民、患者さんに、本当に満足していただけることをビジョンとしています。

若い力を待望しています。

ぜひ一度見に来ていただけたらと思います。

よろしくお願いします。

インタビュー後記

どんなことにも「一度決めたらやり遂げる」という島田先生のポリシーを尊敬いたします。

一般的には誰もやらない、やりたがらないようなことでも明るく勝算を見出し気負わず取り組まれる。

とても洗練されていて素敵な生き方だなと感じました。

スタッフと共に病院再生を行うには、一方でリーダーの大きな決意とエネルギーが必要。

それすらもサラリと実行し、結果を出された島田先生の強さとしなやかさが伝わるインタビューでした。

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Interview Team