No. 192 湘南第一病院 嶋村浩市 院長 前編:人生の先輩を大切にする社会

インタビュー

湘南の地で高齢者医療に注力する湘南第一病院の病院長、嶋村先生に、

地域医療の問題点や高齢患者様を診つづけられる、その思いを語っていただきました。

高齢者医療に特化

中:今回は湘南第一病院、病院長の嶋村浩市先生にお話を伺います。

先生どうぞよろしくお願い致します。

嶋村:よろしくお願いします。

中:まず貴院の特徴を教えてください。

嶋村:当院は今年で47年目を迎えます。

私自身は12年前に当院に着任し、5年前に二代目の院長となりました。

現在、日本は超高齢社会を迎えていますが、ここ湘南も例外ではありません。

そのような環境下で当院は、高齢者医療に特化するかたちで地域のニーズに対応しています。

全寮制男子校

中:続きまして、いつもですと学生時代のエピソードを思い出していただきお聞かせいただくのですが、

先生は大変お若くていらっしゃいますので、新鮮な思い出がたくさんおありではないでしょうか。

嶋村:医学とは関係ない話になってしまいますが、中学・高校と全寮制の男子校に通っていたため、

大学に入って初めて女生徒のクラスメイトができたことがインパクトのある記憶です。

実は今の自分の妻も同級生です。

中:学生時代にお知り合いになって、そのままご結婚されたのですね。

嶋村:はい。

純粋だったのですね。

循環器内科の魅力

中:ロマンのあるお話ですね。

次に、先生のご専門についてお尋ねします。

ご専門は循環器内科と伺いましたが、そちらに進もうと思われた理由はどのようなことでしょうか。

嶋村:私は農家の出身で親類も含めて医療関係の仕事とは無縁の環境で育ちました。

そのため、せっかく医師の道を選んだ以上、患者様の生死に直結する現場で仕事をしたいという思いが強く、

循環器領域へ進みました。

急性心筋梗塞や急性心不全などで目の前の患者様が生命の危機に瀕している、その状況で自分たちが

臨機に介入し患者様を助けられるという、そこに醍醐味と言いますか、やりがいが感じられました。

また循環器内科は「内科」ではあるものの、カテーテルによる検査や治療という

やや外科的なアプローチも行います。

内科と外科の両側面を持っている科であることも、魅力に思えた理由です。

中:カテーテル関連の機器や技術の進歩により、循環器内科の対象疾患が広がっているのでしょうか。

嶋村:そうですね。

私はちょうど20年前に循環器医を目指したのですが、

当時は今ほどには心臓カテーテル治療が行われていませんでした。

しかしその後、機器の進歩と技術の普及によって、対象疾患が広がるとともに、高齢などの理由で

外科手術がハイリスクと考えられる患者様にも、低侵襲で安全性の高い治療を行えるようになりました。

人生100年時代に向けての課題

中:そうしますと、いま「人生100年時代構想」といった話も出ていますが、

これからの医療における循環器内科の役割もさらに拡大していくとお考えですか。

嶋村:そうだと思います。

ただ、私自身は循環器の最先端の治療にいま現在も携わっているわけではありません。

もちろん一般的な対応はしますが、緊急性が高い方や難治性疾患の患者様は、

近隣の連携先高次機能病院へ紹介しています。

それがこの地域における当院の姿だと考えています。

このことに関連してもう少し申し上げたいことは、ちょうど今おっしゃったような

人生100年時代が夢物語ではなく、現実味を帯びてきた現在における高齢者医療の重要性です。

12年前に私が都内の大学病院から当院へ移ったときは、正に超高齢社会が加速し始めた時期で、

つくづくその重要性と課題を実感しました。

中:高齢者医療にどのような課題があるのでしょうか。

嶋村:適切な医療を受けられない方がたいへん多くいらっしゃるのです。

ご存じのように現在、患者様を病院から在宅へ移す政策がとられていますが、

高齢患者様のご家族にもそれぞれ事情があり、在宅療養ができないことも少なくありません。

事情と言いますのは、具体的には仕事や子育ての都合であったり、経済的なことです。

そういった患者様の受け皿としてとしての介護施設がいま急増しており、

当院の半径10㎞以内にも300を超える介護施設があります。

それらの施設にいらっしゃる高齢者も当然ながら医療を必要としています。

ところが今、そのニーズに医療が十分こたえていないのです。

介護が必要な高齢者は皆さん我々の先輩です。

本来、その方達が一番手厚い医療を受けられる環境でなければいけないにも関わらず、そうなっていません。

国が地域包括ケアシステムを推進しているからそれに取り組むというのではなく、

人生の先輩方を地域で支えていくという社会システムが確立されなければ、

日本の社会がおかしなことになってしまうのではないでしょうか。

人生の先輩への恩返し

中:大学病院で急性期医療に携わっていたときにはわからなかった問題に

お気づきになられたということですね。

嶋村:当院は、今の医療システムで置き去りになってしまっている高齢患者様を治療するために

あるのだと考えています。

さらには、我々のような若手が人生の先輩方に恩返しをする意図を持ち能動的に活動していき、

当院がその活動のハブとなって、社会のインフラとしていきたいという願いもあります。

中:単に貴院の運営戦略だけでなく、

これからの超高齢社会に向けて全国的な広がりまでお考えていらっしゃるのですね。

嶋村:同世代の仲間とよく話すのですが、豊かな社会を作ってくれた自分の親の世代の高齢者を

ネガティブに感じない世の中にしたく、ここ湘南がそのモデル地域になることができればと考えています。

スケールの大きな話をしていますが、みんな大真面目です。

病院経営の明確なビジョン

中:次に病院内のお話で、先生のマネジメントスタイルについてお伺いします。

ふだんスタッフの方とはどのようなスタンスで接していらっしゃいますか。

嶋村:自分自身が若輩であり、スタッフに支えられて今があることを理解しています。

ただ、繰り返しになりますし、理想論と言われるかもしれないのですが、院長就任以来、

当院が高齢者医療に力を入れるというビジョンは大事にしてきました。

マネジメントを担うスタッフとしては私の他に2人の副院長と5つの部門の責任者がいて、

そのスタッフとともに「高齢社会を良くしていきたい」というビジョンに向かって進んできました。

病院運営ということに関しては、この点が私にとって最も大切です。

後編に続く

Interview Team