No.124 長谷川 美穂様(東京山手メディカルセンター)前編「尊重しあえる看護」

インタビュー

今回は東京山手メディカルセンターの看護部長、認定看護管理者でもいらっしゃる長谷川 美穂様にインタビューをさせて頂きました。

長谷川看護部長の手腕と魅力に迫ります。

看護師の良さを知った学生時代

看護師になろうと思った理由について教えてください。

長谷川: 小学生のときに保健委員をしていて、保健の先生が包帯を巻くのがとても上手で、見ていて面白くていいなと思ったのが最初のきっかけです。

その後、高校3年生に上がるとき、学校の先生になるか看護師になるかで迷っていました。

最終的には得意不得意で進路を決めたため「動機がしっかりしてない」などと言われてきましたが、多くの患者さんとの出会いや、多くの方に支えられて、30年も看護師を続けています。

入ってから頑張れば、きっかけは何でもいいのではないかと思います。

学校生活はいかがでしたか。

長谷川:初めて基礎実習に行き、全介助で意識がはっきりしない脳外科の患者さんを受け持ちました。

3日間ほどの実習で最後の日までその患者さんの言葉を聞くことは全くありませんでした。

しかし、最後の別れの挨拶のときに、その患者さんが「ありがとう」と言ってくださいました。

それが3日間で聞いた、唯一の言葉でした。

その時とても感動して、「なんていい仕事なのだろう」と思いました。

他にも本当は学ぶ立場であるはずが、患者さんのご家族の方に助けていただくこともありました。

そのご恩返しに、もっと力をつけたいと思いました。

看護学生時代は、多くの方に温かく見守られてきたのですね。

長谷川:外科の先生が患者さんに説明する時に書く胃の絵がとても上手でした。

実習最終日に、先生にどうしても胃の絵を描いて欲しいとお願いをしたところ、メッセージまでくださいました。

宝物として取ってあります。

学生さんを受け入れるようになり、自分が学生時代にしてもらったので少しでもプラスのエピソードになるようにと心がけています。

そして、その学生さんが指導者になったときに同じようなことをして、次の世代へと回っていくといいと思います。

人を育てる環境を

看護学校を卒業した後は、すぐにこちらの病院に就職しましたか。

長谷川:船橋中央病院(JCHOグループの一つ)に入職しました。

最初に配属された病棟はどちらでしたか。

長谷川:外科病棟でした。

教育体制が今と異なる時代の中で、先輩方に恵まれていたのですね。

長谷川:学生時代からも含めていつも周りに恵まれていました。

助けられた経験があるので、自分も何か力になりたいと思います。

中途採用者、既卒の方々、新人のサポートは、どこもみんな手厚くなっていますが、既卒者には、短期間で辞めることを選択する方もいます。

既卒者が少しでも早く業務に慣れて、揺らぎが少なくて済むような取り組みとして、業務マニュアル、略語集、汎用薬集などをこの病院用に自分たちで作成しました。

これを見たら動ける、または調べなくていいようにしています。

去年の4月からそういった取り組みを、この1年にかけてやってきましたか。

長谷川:はい。まずは4月に就任し、2週目から所属を持たない教育担当師長を作ることを院長先生にお願いしました。

教育担当師長が所属を持っていることにより、相談しにくいことがあるので、所属を持たないこと、1年生の一番の味方で話を聞いてくれること、そして職位があることが大事だと思いました。

つまり、1年生の担任のような存在です。

この取り組みをした結果、今年は誰も辞めませんでした。前年度は新人の人数が17人でしたが、今年度は29人でした。

確実に数字となって成果で表れていますね。

長谷川:夜勤では新人または既卒者などシステムがわからない人がいる時は4人夜勤にしたいと思いました。

財政面などの課題もありましたが、翌月の5月から実施しました。

また、師長、副師長に、経営参画の意義など、自分の意識に変化があったか、なかったかというアンケートをしました。

ほぼ全員が変化を感じていて、看護部が経営参画して動いていくと、様々なものが確保できるので、療養環境も患者さんにとっても良いことがわかりました。

こちらの病院に来る前は看護部長の経験がありましたか。

長谷川:はい、震災の直後の4月に看護部長になりました。

前の病院で6年間、看護部長として勤めていました。

看護部長としては7年目になります。

今までも改革を常にしていましたか。

長谷川:私が新人の頃、尊敬する看護部長が、「看護部が動かないと、患者さんと自分たちの働く環境は良くならない」などと常々言っていました。

そのあとにもう一人の看護部長と仕事をし、何をどう変えていくか、違う視点と方法を教わりました。

診療報酬改定は大変ですが、看護の充実、そして患者さんが求めていることにお応えするためには、必要な仕組みだと思っているので、みんなで力を合わせて頑張ってきました。

看護学校で教員をしていたのは、看護師になって何年目の時ですか。

長谷川:看護師を10年ほどして、教員研修を1年間受けたあと、母校の看護学校で1年間教員をしました。

その後4年間教員をしていたので、合わせると5年間教員をしていました。

私自身出来が悪かったことと、卒業生を輩出したことで、新人には寛大と言うか過保護です。

新人さんにとっては、すごくいいですよね。

長谷川:新人にも、自分の足で立つように言います。

ただ、新人の頃は一つわからないことを調べると、調べた結果わからないことが増えていきます。

その繰り返しで成長するよりも、3年、5年経験してきたからわかる知恵とコツを伝授したほうが、その新人は早く育ち、患者さんはより安心で安全になります。

ホームページを拝見したときに、様々な看護師の個性を尊重しているのが印象的でした。

長谷川:個別性のある看護をしようと思ったら、看護師の個別性も大事です。万人受けする人も中にはいますが、患者さんによって、静かなタイプがいい方とにぎやかな人がいい方がいます。そこをお互いが補えあえばいいと思います。

日々の行動と結びつける

看護部理念の「私たちは、患者さまが安全で安心できる看護を提供します」を実践するために、何を日々心がけていますか。

長谷川:日々行っていることを「安全と安心に結び付いているのか、いないのか?」と振り返るようにしています。

また、看護部の理念と病院の理念を実現するために、「安全と安心」「技と心」がどうしても必要になります。承認するときも、課題化するときも、その4つのキーワードに結びつけること、そして日々の行いが理念に結びついていることがわかるように伝えることを心がけています。

教育、研修、既卒者へのサポート、人材育成などのマニュアルを今後どのように発展させていきますか。

長谷川: 理念と倫理綱領に則って看護をしていくことが大事だと思います。

ただ条文に謳われていることを覚えるのではなく、身近なことに落とし込んでいくことが大事だと思います。

人材育成は承認されることと、不平不満などの認識の排泄物を処理すること、そして内省力をつけること、この3つが大事だと思っています。

認識の排泄物など多くの素敵な言葉をお持ちですね。

長谷川:20年ほど前、『ナイチンゲール看護論入門』などを出版されている金井一薫(かないひとえ)先生の研修に行ったときにこの言葉を聞きました。

周りからすごく勉強好きに見えたり、勉強していると誤解されたりするのですが、実は聞いたことを言っているだけです。

後編へ続く