No.256 湘南病院 大滝紀宏 院長 後編:社会に出て行く精神科医療

インタビュー

前編に続き、大滝先生の精神科医療に対する情熱、

若手看護師へのメッセージなどをお聞かせいただきました。

予防医学的な精神科医療の必要性

中:「自分を大切にし、そして他人も自分を大切にしていることを理解する」という今のお話は、

看護の領域において非常に重要なポイントのように感じました。

日常業務の忙しさのために殺伐としてしまい、相手のことを見失いかけてしまうことが多い中で、

そのような考え方が、看護師に大切な「優しさ」というものを振り返るきっかけになると思います。

大滝:私は今、看護師の仕事について心配していることがあるのです。

それは、看護師があまりにも忙しいこと、

しかも高度急性期の医療機関では、患者さんが10〜14日程度でほとんど退院されてしまうことです。

そのような環境で看護師が患者さんとしっかり関わる時間を持てるのだろうかと、たいへん心配しています。

中:医療環境の変化は当然ながら看護師だけでなく、

医師と患者さんの関係にも変化をもたらしているかと思います。

先生は先ほど、ご自身の新卒時から比べると興味の対象が変わってきたというお話をされましたが、

現在はいかがでしょうか。

患者さんと医師の関係の変化に合わせるように、

何かさらに新しいお考えをお持ちでしたらお聞かせください。

大滝:最近は、病気の人を生みださない社会をどうすれば作れるのかという、

予防医学的なことに関心が向いています。

と言いますのも、病院だけでは必要な精神科医療を十分行うことは困難だからです。

一般社会の職業の変遷に目を向けても、ストレスの負荷が強い職業が多くなり、

シンプルな仕事は減ってきています。

メンタル的な病気を罹患するきっかけが多い社会ということです。

中:具体的にはどのような対策が考えられますか。

大滝:地域のさまざまな活動を通じて、そのような現状認識への啓発をしたいと考えています。

その一環として私は今、横須賀市の自殺対策連絡会の座長や

神奈川県いじめ防止対策調査会の委員などを務めています。

ひょっとするとこれらの活動は精神科医の本分から逸脱しているのかもしれません。

しかし病院の中にいてはできないことです。

院長就任時の決意

中:少し話題が変わりますが、先生は院長に就任された時、何か決意されたことはございますか。

大滝:さすがに臨床は減らさなくてはいけないなと、残念ながら思いました。

そして、当院の職員をどうやって守っていくか、そのことは一生懸命考えようと決意しました。

その点は病院長として一番大切なことだと今でも思っています。

中:リーダーの覚悟ですね。

では、今はどのような目標を掲げられていらっしゃいますか。

大滝:先ほど申しましたように横須賀市の自殺防止対策連絡会の座長を務めていますので、

横須賀市の自殺がゼロになること、それを願っています。

自殺を考えないですむ町は、それだけ生きやすい町、ひとりひとりが大切にされる町だと思うのです。

横須賀がそのような町になることが私の個人的な夢です。

もう一つの目標は虐待の防止です。

私自身、児童相談所の仕事を非常勤で続けていましたし、

現在も当院から児童相談所へ医師を派遣しています。

当院は伝統的に思春期・青年期の問題に強い医師が多いので、力を合わせて児童相談所を支援しています。

新人看護師へのメッセージ

中:ここでまた看護師についてお尋ねいたします。

先ほど看護師に求められる資質についてお聞かせいただきましたが、

今度はもう少し勤務の実際に即した質問で、

例えば仕事上の悩みなどで意欲が低下してしまう時期が多くの看護師にあるようです。

そのような時の対処法を何かアドバイスいただけませんでしょうか。

大滝:ごく一般的なことですが、できるだけ多くの人に相談すべきです。

自分一人の力で乗り切るのではなくて、

同僚や上司、家族、以前通っていた学校の先生、いろんな人に会って意見を聞くことです。

もちろん私は精神科の医者ですから、そういうことができない状況があることは百も承知です。

そういう時はもう布団を被って寝てしまい、美味しいものを食べ、

自分の一番好きなことをやって、しばらく寝込んでいればよいのです。

辛い時は何もしないでいいのです。

「休んで元気になったら、まず自分の好きなことからやってみましょう」、これがアドバイスです。

中:ありがとうございます。

実は学生対象に講演をしますと、学生たちには夢も希望もあり、みなさん非常に元気なのですね。

ところが病院で働き始めて1、2年目のあたりの新人看護師の中には

「どうしてこれほど変わってしまったの?」と思ってしまうような人もいますので、

今の質問をさせていただきました。

大滝:私も学生に教える機会があり、その時によく言うことは

「人を助ける前にまず自分の健康を保ってください。

もう無理だと思ったら、できないことまで頑張ってやらないでいいですよ」と伝えています。

ベイスターズ好きは大歓迎

中:最後に、先生のご趣味をお聞かせください。

大滝:やはりベイスターズの応援ですね。

ベイスターズの応援の合間に仕事をしているようなところもあります。

自宅への帰路の途中に横浜スタジアムがありますから、年間15回ぐらい球場に足を運びます

嬉しいことに、ベイスターズのファームの本拠地が今年、当地に移ってくるのです。

当院から歩いて20分ぐらいです。

中:それはビックニュースですね。

町が明るく元気になると思います。

大滝:ベイスターズファンは懐が深いのです。

横浜では「三日住めば‘浜っ子’」と言われるように、にわかベイスターズファンでも大歓迎。

中:昨日まで互いに知らなかった人を喜んで迎え入れるという雰囲気があるのですね。

大滝:ベイスターズが好きならみんな一緒。

そんなファン気質も私は大好きです。

中:本日は先生の優しいお人柄に触れ、かつ、看護師への力強いメッセージやアドバイスをいただきました。

ありがとうございました。

大橋:ありがとうございました。

インタビュー後記

医師としてという立場だけではなく、国民の命を守るという社会的使命を着実に実行されている大滝先生。

人としての優しさ、あるべき姿をインタビューを通じて教えていただきました。

看護師にも、ふと悩み、立ち止まる瞬間はある。

そんな時には是非とも大滝先生のお言葉を思い出して欲しいと思います。

患者さんが大切であるように、その患者さんに接する看護師もまた大切な存在だと思い返すことが出来るのではないでしょうか。

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