前編に続き木川先生に、入院患者さんを宿泊旅行にお連れする際のご様子や、
その旅行に参加した看護師の変化、病院経営の今後などについてお伺いしました。
入院患者さんとの宿泊旅行
嶋田:入院患者さんと旅行もされるとのことですが、それは看護師の研修として行っているのでしょうか。
木川:いえ、患者さんをお連れすることが目的の旅行です。
実はこれも先ほど申しました神野先生の下で我々が大学時代に行っていたことです。
旅行中は我々医者が患者さんの食事や入浴の介助、排泄ケア等すべてをしました。
それをまねた取り組みです。
人工呼吸器を用いている患者さんをお連れすることもあります。
宿泊旅行前後での看護師の変化
嶋田:素晴らしい取り組みですね。
木川:観光ホテルなどは、床に毛足が長い絨毯が敷いてあり、健常人の贅沢な欲求を満たしてくれます。
しかし、麻痺のある方にとっては非常に歩きづらく、
見栄えと機能性が両立していないことに気づかされます。
ただ、そのような場所でも宿泊できたという体験は、患者さんやご家族にとって、
その後の生活に向けた強い自信となります。
嶋田:患者さんの旅行に参加する前と後で、看護師に違いが生まれますか。
木川:違いますね、やはり。
患者さんの実生活のすべてを見て、その中ですべての看護を行うと、
それまで看てきた患者さんに対する思いがより募り、全く変わってくるように感じます。
「気づく」ために「観察」をしてほしい
嶋田:そういった経験を積み重ねて成長されていく看護師に、何かアドバイスすることがあるとすれば、
どのようなことでしょうか。
木川:患者さんのちょっとした変化を気にしてほしいということはよく言っています。
一例を挙げれば、食事の介助時にテーブルをほんの1センチ動かしてあげるだけで
格段に食べやすくなることがあります。
そういったことに気づくようになってほしいと期待しています。
嶋田:ふだんの看護業務を単調に繰り返すだけでなく、
患者さんが困っていることを注意して拾い出してほしいという意味ですね。
木川:何かに気づくためには、その人を観察していないと気づくことができません。
自分のことを申しますと、
私は院内で患者さんが歩く姿を後ろから見て、重点的に治療すべき箇所を判断しています。
正面から私が見ていると患者さんは良いところを見せようと一生懸命頑張ってしまい、
本当の歩き方がわかりませんので。
診察時に「まだ歩き方のあの部分が良くなっていませんね」とお話しすると
「見ていないのになぜわかったのですか?」と驚かれます。
その後、リハビリが進み退院間近になると「いつも後ろから見ていましたよ」とネタばらしをします。
患者さんの間では「理事長先生がまたどこで見ているかわからないわよ」と警戒されているようです。
嶋田:患者さんととても仲が良いのでね。
リハビリ医療をより拡充したい
嶋田:これから将来のことに関する質問ですが、
今後、貴院をこのようにしていきたいといったお考えをお聞きかせください。
木川:当院の特徴の一つは回復期リハビリテーションが充実していることです。
リハビリロボットなども多用した最先端のリハビリを行っており、さらにこれを推進していく方針です。
例えば小児のリハビリなどもその一つです。
これまで高齢者医療、過疎地域の医療などに注力し、また私の研修医時代のオーベンだった
原田俊一先生を院長としてお招きし、脳神経外科領域も実績を挙げてきました。
ようやく小児にも目を向ける余裕ができたところです。
また今春から回復期リハビリテーション入院料の診療報酬が6区分に細分化されましたので、
できるだけそれぞれのニーズに対応できるように変えていきたいと考えています。
何よりも、この地区の地域医療に関しては当院が最後の砦だと自負していますので、
より強固な砦を築くことが今の私の役目だと思っています。
「優しい看護」は、しっかりした生活基盤の上に成立する
嶋田:ありがとうございます。
残りのインタビュー時間で、先生の趣味をお聞かせいただけますか。
木川:趣味は何でしょうね。
仕事なのかな?
仕事ですね、多分。
ゴルフもしませんので。
嶋田:料理はされませんか。
木川:料理は趣味ではなく、毎日のことですから。
嶋田:大学時代にされていたサッカーは、いかがですか。
木川:いまサッカーをしたら死んじゃいますよ、太ってしまったので。
大学時代はエースナンバーを付けていたのですけど。
今はやはり仕事が楽しいですね。
嶋田:それでは最後に、看護師へのメッセージをお願いします。
木川:飯能靖和病院理事長の木川でございます。
当院の特徴の一つとして、看護師の有給消化率が100%であることが挙げられます。
その理由ですが、仕事にはしっかりとした生活が基盤にあることが必要だという、
私の考えがもとにあります。
生活をするための仕事ですから、休む時はしっかり休んでいただき、
終業の時刻に関しても9時、5時という決められた時間に帰宅いただくシステムになっております。
それによって、患者さんにしっかり優しく接していただけるのではないかと思います。
ご自身にゆとりがないと、やはり人に優しくなれませんから。
当院は、心の通う医療、看護、介護を目標に掲げており、それを実現するための環境を整備しています。
看護師の第一歩を踏み出す職場としては、非常に良い病院だと思っておりますので、
皆さんどうぞよろしくお願いいたします。
インタビュー後記
埼玉県飯能市にある飯能靖和病院の木川理事長、時代の変化、地域のニーズにあわせ、
病院の改革に力を入れてきました。
看護師の教育にも大変力を入れていらっしゃいました。
またスタッフの生活面も大切にされています。
看護師の有休消化率100%に驚きました。
仕事と生活のメリハリを保て、看護師としてのスキルアップも望める
とても働きやすい病院であると感じました。