前編に続き、臨床医と院長職とで共通することや、AI時代を見据えてこれからの看護師が向かう方向性や
期待などを、お話しいただきました。
患者さんと医療者に優しい進化
中:いま政治の方では「人生100年時代構想」と言われていますが、このまま医療が進化していくと、
こうした構想も現実化していくとお考えですか。
松尾:あの構想は、いま生まれた子どもたちの余命が100歳に到達するということらしいです。
本当に100歳まで伸びたとしても、健康寿命との差が問題になるかもしれません。
ただ、高齢者が昔よりも元気になっていることは実感しますね。
90歳を超えてなお活躍されている世界的に著名な脳外科医もいらっしゃいます。
また私自身が大学を卒業する頃
「脳外科と心臓外科だけは行くな。この両科にいくと短命になる」という噂が囁かれていました。
長時間の手術やストレスが寿命に影響するという理由だったようです。
確かにかつて脳外科の手術は徹夜で行うものというイメージがあり、
私自身もアメリカにいた当時、最長26時間の手術を経験しました。
しかし機器の進歩もあり、手術に要する時間は格段に短くなり、医師の負担軽減にも繋がっています。
臨床医と院長職の相違点と共通点
中:一般的に医療の進歩は患者さんのメリットとして語られることが多いですが、
医療者側の負担を和らげるようにも進化してきているのですね。
さて、ここから少し話題を変えまして、病院長というご役職について伺います。
臨床で患者さんを診るというお立場と、病院全体の運営、スタッフの管理をされるお立場は
かなり違うと思いますが、先生がいま特に気をつけていらっしゃることはどのようなことでしょうか。
松尾:脳神経外科部長であれば科のことを考えていれば良かったのですが、
院長職に就き院内全体のバランスを考えるようになりました。
また職務の内容としては、出席すべき会議が格段に増えています。
医療安全対策をどうするかといたった院内の会議はもとより、医師会の会合など院外の会議にも、
今はできるだけ顔を出しています。
そういった場を利用して近隣の先生方と知り合いになると、医療連携がスムーズに進むようになります。
患者さんを紹介いただくにも紹介するにも、やはり顔が見える関係を築いてあれば
電話一本で互いに必要な情報が伝わり、安心感が違います。
最近では近隣の医療機関から、非常に頼りにされる病院になってきたのではないかと自負しています。
中:先ほどの質問とは逆に、臨床医としての役割と、院長としてのマネージメントに
共通していることもあるのでしょうか。
松尾:医療の基本は人を助けることですから、その根本的な部分は変わりません。
「自分が、自分が」と一人ですべてをやろうとしたり、
自分の診療科、自分の病院だけで何とかしようとするのではなく、
周囲の人や医療機関の協力を得て、患者さんにとって最善な医療を総合的に判断していくということです。
当院にも提供できない医療がもちろんあります。
かといって大学病院ならすべてできるかと言えばそうではありません。
困難なことは医療機関同士で互いに補完しながら医療を完結させます。
病気で困っている人を助けるというところは、すべて同じです。
特定分野へ進化する看護師への期待
中:院内のスタッフについて少しお尋ねします。
病院の職員で最も人員が多い職種は看護師だと思います。
その看護師に対し「今後はこうなってほしい」と期待されるポイントをお聞かせください。
松尾:まず医師について考えますと、基本的に専門分野が決まっていますね。
当院であれば、脳神経外科や整形外科等々です。
厚労省の後押しによる総合診療科といった、ジェネラリスト養成という動きも大事だとは思いますが、
近年、医療が非常に高度化、細分化してきているため、
今後もより専門性が要求されるようになる動きは消えないと思います。
さて、ご質問の看護師についてですが、これからは看護師も医師と同じように進むのではないでしょうか。
既に認定看護師などの資格が認められていますし、大学病院などではかなり特化してきていると思います。
病院の運営上も、例えば院内感染対策を専門の看護師に任せられるようになるなど、
より特化していく方向に向かってほしいという気持ちがあります。
中:国内ではまだ制度化されていませんが、ナースプラクティショナーについて
先生はどのようなお考えをお持ちですか。
松尾:私は米国の医療の現場をいくらか経験してきましたが、
向こうでは日本の看護師よりもう少し踏み込んで判断し、ドクターに助言するといったこともしていました。
ICUで働く看護師などは非常に高いプライドを持っていたと記憶しています。
また、例えば私が術中に「バイパス用の血管が欲しい」と言いますと、医師ではなく
フィジシャンアシスタントが採取してくれます。
麻酔も麻酔医だけでなく資格を有したナースもかけていました。
さまざまな分野に特化していて、資格的な地位も非常に高かったです。
日本も徐々にいろいろな分野に特化した人材を配置していったほうが、
患者さんのためにもなるだろうと思います。
看護師が医師の仕事を代行できるようになれば、医師は自分の仕事に専念できるようになると思います。
AI時代の看護師像
中:いま医師の働き方改革に関する議論が続いていますが、看護師がもう少し力をつければ、
その改革に貢献できる部分もあると思われますか。
松尾:あると思います。
医師の仕事には、まだ改善の余地が多々残されているはずです。
また先ほどAIの話をしましたが、いくらAIが発達しても結局、物理的な作業は人ですから。
物理的な作業の省力化対策として医療用ロボットの開発も進んでいますが、
まだまだ人のレベルには達していないようです。
中:技術の進歩は積極的にとり入れていく一方で、それでも不足している部分は
より進化した看護師が関わっていくということですね。
それでは最後に、看護師に向けてメッセージをお願いいたします。
松尾:“目の前に居る困っている人を助ける”という根本的な、
医療に対する気持ちは常に忘れないで、勉学を続けて欲しいですね。
それから当院の宣伝を少々させて頂くならば、
当院は24時間365日、救急医療を基本として、急性期医療を担っています。
当院はベテランの方もいらっしゃるし、若い方もどんどん入ってきていて、多くの同僚がいます。
救急医療のみでなく、リハビリテーション施設も都内トップクラスです。
ですから急性期から回復期リハビリテーションまで、すべての医療をシームレスに展開しています。
もう一つの特徴は、地域性です。
当地は東京の下町ですが、湾岸地区にあり、車で東京ディズニーランドまで10分、
都心にも近く銀座まで15分で行けます。
仕事はもちろん、プライベートの楽しみもある立地です。
水と公園とリゾートがすべて一体化している、非常に住みやすい場所です。
楽しい環境だと思いますので、ぜひ興味をもって来ていただければと思います。
シンカナース編集長インタビュー後記
ICTを活用され、革新的に医療を進化させていらっしゃる松尾先生。
どこに居ても指示が出せるという、スマートフォンを使用したタイムリーな画像共有も全ては患者さんを救うため。
技術革新は医師をサポートするには欠かせないということを教えていただきました。
先生は、常に未来を見据えて、医療にとって、患者さんにとって必要なことは何かと言うことを考え、決断されていらっしゃいました。
看護師も、先生のおっしゃられた「目の前に居る困っている人を助ける」と言うことを大切にしながら
一方で、次に来る未来を考え、安穏とせず新しい知識も積極的に取り入れていく必要がありそうです。