東京都内において、最大のベッド数を有する東京女子医科大学病院の病院長である田邉先生にお話を伺いました。
病院の特徴を教えてください。
田邉:この病院は「女子医大」ですので、学生さんも全員女性ですし、全体に女性の職員が多く勤務しています。
病院自体は、日本で1位、2位を争う病床数で、とても先進的な医療を行っているということが特徴だと思っています。
クリエイティブな診療科
医学部時代のエピソードを教えてください。
田邉:医学部入学当初、からだの仕組みを学びながら、非常によく出来たシステムだと感心しました。
人を扱う学問なので、無機質なものを扱うのとは違います。
反応がありますし、個体個体で全く内容が違うということは、とても面白いと思いました。
また、遺伝子の内容が、かなり明らかになってくる時期でもあり面白いと感じました。
泌尿器科を専門とされた理由を教えてください。
田邉:外科系に進もうと考えていました。
その中でも泌尿器科は外科手術を行い、まだ色々なことができそうな診療科だと感じました。
クリエイティブなことが出来るのではないかと思い、泌尿器科を専門とすることに決めました。
常に最新を取り入れる
泌尿器科の魅力について教えてください。
田邉: 内視鏡を使用して外科的治療したのは泌尿器科が最初です。
膀胱がんを電気メスで削るという手術は、私が医者になった時には既にありました。
しかし、ほかの分野では使用されていませんでした。
この10年ぐらいで、胃がんや食道がんのEMDという、削り取る手術が始まりました。
泌尿器科は、もう50年以上前から実施していました。
それは必然性があり、膀胱を取ってしまうと、尿が出ないので死んでしまいます。
そこで、膀胱を残すために削るという術式が出来ました。
ダヴィンチが導入されたのも泌尿器科が最初です。
外科系の中では非常に先進的な科です。
一方で、勃起不全や、尿路感染症、尿路結石などの内科治療も大事です。
すなわち、内科外科も両方を実施する科ですね。腎移植などは、特にテクニカルが難しく血管再建もあります。
血管の再建の場合、2~3ミリの血管を、拡大鏡を付けながら実施します。
ロボット手術は、今は年間300例以上も実施しています。体外衝撃波も泌尿器科が最初です。
新しいものが出たら吸収する、学ぶという科ですね。
田邉:前立腺肥大症に対して、尿道から電気メスを入れて削る手術があります。
以前は、開腹で手術をしていました。現在は、機械も良くなり開腹で手術をすることが殆どなくなりました。
今は、出血しても開腹に切り替えるのではなく、内視鏡で止血するという流れに変わりました。
腹腔鏡が始まったときも、腹腔鏡で出血してしまったら開腹しなければという議論が出ていましたが、それは違うと思っていました。
程なく、開腹手術をする人がいなくなっていくでしょうから、腹腔鏡でなんとか止血する方法を開発する必要があります。
古い技術は合理的に判断して適切と考えられるときは捨てたほうがいいと思っています。
より良い未来のために進化する
機械の進化に合わせ、人も進化していく必要がありますね。
田邉:前をみて次の時代を読む必要があると考えています。
私は62歳ですが、40歳以下の人は開腹手術ができない泌尿器科の医師が大多数になりつつあるのではないでしょうか。
開腹手術ができる医師がいる間はいいですが、あと10年後、経験者がいなくなったときに「開腹すればいい」とは言えなくなります。
機械で行いながら、安全なバックアッププランを常に考える必要があります。だからこそ事故にならずに済むのです。
それを考えず、開腹すればいいという発想のままでは思考が停止してしまいます。
技術もそうですが、人の考えを先に進めていくことはかなり大変なことですね。
田邉:人は保守的になりがちですので変えることは難しい面もあります。
ただ、改善していかなければ未来は良くならない。だから、いろいろなことを変えていく必要があるのです。
私が教授になった時、開腹手術を極力止め腹腔鏡手術に変えることにしました。
腹腔鏡手術にすると術後管理は非常に少なくなります。術後3日以上点滴をする人が本当に少なくなりました。
医療はチームですから医師だけではなく、看護師の仕事量も減らす必要があります。
点滴が減れば、点滴を準備する時間も減らすことが出来ます。
また、開腹とは違い、傷が小さいので、消毒の必要も最小限になります。
そうした積み重ねで業務を減らしていきます。
現在、ベッド数もスタッフ数もほとんど変わっていませんが、12年前に私が教授になった頃と比べ2倍近くに手術件数を増やすことが出来ました。
後編に続く