前編に引き続き、北信総合病院の小泉育子看護部長へのインタビューをお届けいたします。
看護部理念実現への取り組み
看護部の理念にありますように、「対象となる人々が、その人らしく生きられるように、保健・医療・福祉それぞれの分野において連携をはかり、満足できる看護を提供」するために、心がけていらっしゃることはございますか。
小泉:まずは、患者さんのために、患者・家族とともに作り出す医療を提供できる看護師を育てたいです。
そして、理念にある「対象となる人々」には看護師も含まれますので、看護師もその人らしくあれるように支えたいと考えています。
そのために、年1回の看護部集会や研修会など機会があれば、私のその思いを常々伝えています。
スタッフには「その人らしさ」を支える看護ができた事をフィードバックしますし、人を育てるという面では、どうやって師長の個性を生かして育てていくかを考えています。
現在、看護部長として取り組まれていらっしゃることはございますか。
小泉:私は50歳で看護部長になったのですが、その時に定年までの10年でやりたい事を考えました。
元々やらなければいけない事もありましたが、5年間での病院の改築や、ワークライフバランスの改善に取り組んでいます。
学校での教育内容の変化を受けて、院内でどのように新人に看護過程の展開をさせていくか、身につけさせるか、という事も認定看護師や師長達と検討しています。
確かに看護師のワークライフバランスはとても大きな問題だと思います。
小泉:病院の改築の際にはワークライフバランスを改善するために、他職種の協力と理解を得つつ、夜間の入院を引き受ける病棟を開設しました。
ワークライフバランス改善の取り組みとしては、現状調査を行い、各病棟へ時間外労働削減に向けた取り組みを行うことの説明に行きました。
時間外労働削減に向けての取り組みは、看護部職員が朝早くきて仕事を始めないように、勤務開始時間の目標を各病棟で決めて取り組み、「勤務終了前の業務調整を行い早く帰れるように努力しましょう」と呼びかけました。
取り組みの結果は如何でしょうか。
小泉:全体に浸透するにはまだまだ時間が必要だと思いますが、出勤時間が遅くなった病棟、少しでも早く帰ろうと工夫をする病棟が増えてきました。また、5、6年前と比べて離職率は半減しました。
看護職のWLB 推進ワークショップ事業に参加し、3 年間の取り組みを続けたという事で、看護サウルス賞を頂きました。
今年度からは、ワークライフバランス委員会を師長会の小グループ活動へ形を変えて活動しています。
看護師のワークライフバランスは永遠の課題だと思います。
ワークライフバランスに取り組み始めたのは何故でしょうか。
小泉:看護師は何かご縁があってお会いした方の人生に関わるわけですが、師長のときは、その相手は患者さんや利用者さんでした。
それが管理職になってからは、対象が患者さんや利用者さんからスタッフに変わったのです。
看護補助者もプライドをもって
ではそのスタッフについて伺います。
こちらの病院に看護補助者は何名ほど配置されていますか。
小泉:全体で129人です。
そのうちの57人は介護福祉士です。
看護師と介護福祉士・看護補助者が対等に仕事をすることを目指しています。
グループ内の老人保健施設の介護福祉士は、利用者さんのことを、とても理解しています。
通常業務のメインは介護福祉士なのです。
介護福祉士は、利用者を受け持ち、介護を展開しています。
看護師は、医療的な視点から利用者さんをみていて各フロアに大抵1人しかいません。
それと同じ視点で、医療療養型病棟で実現させたいと考えているのです。
具体的にはどのように。
小泉:これまで歴代の師長に「介護福祉士の業務を確立して欲しい」とお願いしてきました。
現在7、8年目ですが、今の師長の代で介護福祉士と看護師が同じように受け持ち患者をもち、ラウンドをするようになりました。
昨年の症例検討会では同じ患者さんに対して、看護師だけでなく介護福祉士がまとめたものも出ました。
介護福祉士たちもプライドを持って仕事をできる職場環境が整ってきたのです。
今後はどのようにされていこうとお考えでしょうか。
小泉:今後は急性期病棟においても、看護補助者の役割を確立させて、看護師と対等な関係にしたいと思っています。
外科病棟では、介護福祉士の主任を含め、介護福祉士・看護補助者を8人配置しています。
介護福祉士・看護補助者の業務を拡大してほしいとお願いしてきました。
その結果、看護師長に協力を得、「介護福祉士の視点を生かし、患者・家族の希望に添った退院支援の取り組み」を介護主任を中心に開始しました。
入院時、初回面談に看護師とともに参加し、入院前の細かな生活状況や日常生活動作を情報収集します。
その後、退院支援カンファレンスやケア会議に参加し、患者・家族の希望に添った退院支援へと計画を進めます。
入院前の生活状況や住環境、家人や本人の思いを知ることで、入院中にどのような支援を行っていくべきかをスタッフ間で共有でき、退院後の生活に向けて話し合いや準備が進められています。
彼らは、歯を磨く、ベッドから降りる、どうやってトイレまで行き排泄を済ませて帰ってくるか、等を詳しくみられる生活支援のプロだから安心してお願いできます。
この業務拡大には看護師の意識改革が必要であり、看護補助業務から生活支援のプロとして確立していくには、まだまだ、時間が必要です。
まず、一つの病棟から始めたばかりですので、長い道のりですが、是非、多病棟でも実現させたいと思います。
日常業務の流れとしては、看護補助者のリーダーがその日の業務調整ミーティングをしています。
もちろん、看護師長や看護師のリーダーとも打ち合わせを行います。
JA長野厚生連で行われている幹部看護職員を育成する研修会にも参加してもらい、「介護福祉士の視点を生かし、患者・家族の希望に添った退院支援の取り組み」という内容を1年間取り組み、成果を発表してくれました。
今後は、グループ内の老人保健施設、医療療養型病院、急性期病院に配置されている介護福祉士・看護補助者を、人材育成を目的にローテーションしたいと考えています。
お仕事が忙しい中、どのように気分転換をされていらっしゃいますか。
小泉:実家の母と娘と3人で、温泉旅行に行くのが楽しみです。
「なんで私、休みまで仕事をしなくてはいけないのだろう」と考えたことがありまして、生きているうちに色々と経験することにしました。
それまで海外に興味はなかったのですが、ある福祉推進事業に参加したことで考えが変わって、現在は海外旅行や歌のコンサート、歌舞伎などを観にいきます。
あとは家で飼っているウサギと鳥に関わるのもリフレッシュ方法の1つです。
小泉看護部長からのメッセージ
新人看護師や看護師を目指す人に向かってメッセージをお願いします。
小泉:これから出会うかもしれないあなたへ。
看護師という職業は、本当に人として成長させてくれる職業です。
是非、一緒にその道を歩んでみませんか。
私はどんな時もあなたと一緒に考え、歩むことを大事にしています。
是非あなたと出会いたいと考えています。
シンカナース編集長インタビュー後記
小泉看護部長は入職される方に「こんな素敵な職業を選んでくれてありがとう」とお話しされているそうです。
看護部長から、このような言葉を言われたら、非常にこの職業に対して誇りを持つことが出来、この仕事を選んで良かったと思えるだろうなと感じました。
小泉看護部長のお話は、端々に優しさ、思いやりを感じる言葉が散りばめられています。
やはり、看護部長自らが、思いやりを持たれて接するということこそが、スタッフの方への思いやりを持つ心に繋がるのだと改めて感じさせていただきました。
小泉看護部長、この度は、大変心温まるお話をお聞かせいただきまして、誠にありがとうございました。
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