No.214 シャローム病院 鋤柄稔 院長 後編:聖書の教えを看護に生かす

インタビュー

前編に続き鋤柄先生に、ホスピス運営という夢の実現に至る道程、先生のご趣味、

看護師へのメッセージを語っていただきました。

念願のポスピス開設

嶋田:どのようなタイミングで診療所から病院へ移行されたのでしょうか。

鋤柄:先ほど申しましたように私はホスピスを開設したいと考えていました。

もっとも、私自身は診療所もホスピスとして運営しているつもりだったのですが、

世の中の人は緩和ケア病棟がないとホスピスと思わないようで、それが少し残念でした。

ホスピス病棟のある病院にするには20床以上にしなくてはいけません。

しかし県に相談すると病床規制のためそれは無理だとのことです。

そこで「だったら診療所でもできるホスピスケアを目指そう」と目標を変え、19床すべてを個室に変更し、

同時に透析も始めました。

自分ではそれで新たな展開は一段落したつもりでした。

ところが少ししますと保健所の所長がいらして「ベッドを増やせます」と言うのです。

訳を聞きますと、この地区の医療圏が隣の川越と一緒になり、

川越はベッドが足りていないために全体で増床の余裕が生まれたとのことです。

どうもいくらでも増やせるような話だったのですが、コスト負担を考えとりあえず55床とし、

今に至っています。

現在、緩和ケア病床が30、一般病床が25、透析が25です。

嶋田:ようやく病院開設にたどり着いたのですね。

鋤柄:しかし苦労は続きました。

建物を建てればホスピス病院としてスタートを切れると思っていたのですが、とんでもない間違いでした。

緩和ケア病棟の設置には機能評価を受ける必要があり、

実績がない状態からでは申請に少なくとも1年は必要とのことです。

病棟建築中に慌ててスタッフを補充してケア機能を向上させ対応しましたが、

初年度は1億円ほど赤字になりました。

しかも機能評価をパスしなければ、そのまま赤字が累積していくことになります。

銀行から要注意病院として見られ始め、私も家財一切を失うことを覚悟しました。

幸いにも一回でパスでき、何とか少しずつですが経営も軌道に乗り、今4年目を迎えようとしています。

嶋田:ご苦労の連続でしたね。

鋤柄:経営的には診療所の頃の方が楽だったのかもしれません。

しかし、ホスピス病棟を開設することが長年の夢でしたから、お金だけの話ではないと思っています。

肝臓移植を習得するために留学した時もそうでしたが、

自分の身を守るだけでは進化がなく夢が消えてしまいます。

私が夢を持ち続け、当院の職員もそれに付いてきてくれて、達成できたことは、良い経験だったと思います。

救急に訪問診療、そして看取り

嶋田:今後の展開についてはどのようにお考えですか。

鋤柄:今はチャージの時期で、先のことはまだあまり考えていません。

当院は今まで独自のことをやってきたと思いますので、

これらもその路線を自然なかたちで続けていければいいかなと思っています。

嶋田:独自路線と言いますと、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか。

鋤柄:例えばいま常勤医が8人以上いますが全員が訪問診療、往診をします。

もちろん、外来や病棟も診ながらです。

常勤医全員がこのようなかたちで往診する病院は、なかなかないのではないでしょうか。

そのほか、救急受け入れを続ける一方で、年間400人以上の看取りをしています。

このようなことは診療所時代から行ってきたことですので、当院としては当然のことなのですが、

それを今後も続けていくということです。

嶋田:ここで話題を変えまして、先生が看護師に期待することをお聞かせいただけますか。

鋤柄:皆さん良くやってくださっていますが、期待する事はたくさんあります。

ひと言で言えば、患者さんとご家族が満足されること、それに向かって努力してほしいということです。

そのためには、人を思いやる心、寄り添う心で見つめることが大切です。

患者さんやご家族の方が

「ここに来てよかった。このケアで本当に慰められた」という言葉を発してくださった時、

本当に充実感を味わえます。

ですから、そういう言葉をいただくにはどういうケアをしたら良いのかを常に考えなくてはいけません。

もう一つは現代の最先端の医療を身につけること、この二つだと思います。

嶋田:先生ご自身のことをお尋ねしたいのですが、ご趣味はございますか。

鋤柄: 以前は山登りをしていました。

最初の家内が亡くなってから11年間、よく山に入りました。

遠方に往診に行き近くに山があると、そのまま数時間、山の尾根を歩くといったこともしていました。

休日には本格的な登山です。

北は利尻、礼文、南は屋久島と、日本列島を北と南から挟むように踏破していました。

その途中に今の家内と出会い結婚しました。

結婚して子どもができると本格的な登山はできなくなり、

今は家に隣接した畑で有機農業、山で林業をしています。

自然の中で体を動かすことが好きですので。

嶋田:こちらに暖炉がありますね。

鋤柄:暖炉の薪も山で作って集めます。

灰がたまったら畑に撒きます。

生ごみも畑に入れて腐らせます。

嶋田:それが肥料になって野菜が育ち、上手に循環していますね。

聖書の教え

嶋田:それでは最後に、看護師に向けてメッセージをお願いします。

鋤柄:私どもの病院はキリスト教主義の病院です。

チャペルで祈って賛美する、これを外部から見ますと、ある意味、

美しい理想的な姿に見えるかもしれません。

しかし我々スタッフは人間です。

人間は非常に弱い存在です。

毎朝「患者さんのために尽くそう、患者さんを愛そう」と祈るのですが、

その一方で我々は自分の弱さに気づいています。

自分には、それを簡単にはできないことに内心で気づいています。

そのため時に、理想に届いてない自分に失望したり燃え尽きてしまったりすることもあります。

しかし、聖書の本当の教えは、自分と全く同じようには患者さんを愛せない自分、そういう自分を、

実は神が受け入れて愛し許してくれているということです。

ここが最も大事な部分です。

我々は弱い人間で、時に職員相互間でいがみあったりしても、あるいは自分を駄目な人間だと思っても、

そういう自分を大事に包み込み許してくれる存在が神様だと、そこを知って欲しいのです。

それをずっと職員に伝えたいと思っています。

ちょっと看護師から話が飛んでしまいました。

ごめんなさい。

嶋田:いいえ、奥深いメッセージだと思います。

本日はシャローム病院院長の鋤柄稔先生にお話をお伺いいたしました。

先生、どうもありがとうございました。

インタビュー後記

シャローム病院は埼玉県の東松山市に位置し自然豊かな環境にありました。

院長の鋤柄先生は大変穏やかに私たちをむかえてくださり、隅々まで丁寧に案内をしてくださいました。

院長先生が一から築きあげた病院は壁に優しい色使いで木が描かれ

小児科には月やうさぎがストーリー付きで描かれ、心が温まる優しい病院でした。

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病院紹介

鋤柄院長インタビュー前編

鋤柄院長インタビュー後編

Photo by Carlos