No.265 東鷲宮病院 水原章浩 院長 後編:褥瘡をチーム医療の力で治す

インタビュー

前編に続き水原先生に、看護師をはじめとするコメディカルスタッフの教育体制、看護師への期待、先生のご趣味などを語っていただきました。

 

「朝勉」と「褥瘡基金」で看護師のスキルアップを支援

 

久保:チーム医療の推進にはコメディカルのスキルアップが欠かせないと思います。貴院はどのような工夫をされていますか。

 

水原:週2回朝の短い時間を利用して各病棟で勉強会をしています。

朝の勉強会ということで「朝勉」と称していますが、

私が循環器やキズのレクチャーをしたり、各部署のスタッフが持ち回りで抄読会をしています。

ここでさまざまな情報や新しい知識を共有できます。

 

 

最も重要なのは毎週金曜午前中に行っている褥瘡回診です。

各部署のスタッフ総勢十数人で50カ所以上の褥瘡を処置しながら診ていきます。

褥瘡回診は当院の最大のイベントで、ここで治療の良否の判断や方針が決められます。

希望があれば見学できますので、毎回どなたかが参加しておられます。

みなさん“目から鱗”と満足して帰っていきますね。

 

 

一方、常に臨床研究を行っていて学会発表、論文発表を重ねています。

2003年にはじめて褥瘡学会で発表しましたが、以降看護師、リハビリ、管理栄養士、検査科スタッフからの学会発表はいままで150題にのぼります。

昨年の褥瘡学会では計8題の演題を出しましたが、一施設からではもちろん全国トップです。

新しい医療材料の治験にも積極的に協力しており、いただいた治験料で「褥瘡基金」を立ち上げ、

スタッフが学会参加する際にそこから援助するようにしています。

 

 

久保:ところで、かつては貴院も褥瘡のある患者さんばかりだったというお話をなさっていましたが、

今はいかがですか。

 

水原:今は予防対策が徹底しており、患者さんに応じた体位変化や体圧分散マットレスの使用、

適切な栄養管理等を施した結果、院内発生はほとんどなくなりました。

最近はシーネ固定やマスクなどで生じる潰瘍

いわゆる医療機器関連損傷(MDRPU)やスキンテアの発症に注意を払っています。

治療に関しては、当院のやり方を行なえば大多数のキズは改善し、治癒傾向となります。

 

 

久保:栄養介入は管理栄養士が担当されるのでしょうか。

 

水原:はい。当院ではNST(栄養サポートチーム)が充実しており、

褥瘡患者さんには管理栄養士が一緒にケアにあたっています。

当然ながら褥瘡の予防、治療には栄養が重要ですので管理栄養士の存在はきわめて大きいのです。

また当院は嚥下訓練士(ST)を中心に嚥下リハビリにも力をいれており、

必要なら胃ろう造設を行うなど積極的な栄養管理をしています。

また理学療法のスタッフからは通常のリハビリはもちろん、

負荷が集中しないような車イスへの移乗法やシーティングに関するアドバイスをしてもらっています。

当院では褥瘡患者を中心とした完璧なチーム医療が行われていると思います。

 

ルーチン化した看護ではいけない

 

久保:そうした中で看護師はどのような存在ですか。かつて「褥瘡は看護の恥」と言われていましたが。

 

水原:そのように言われていたのは、医者があまりにも褥瘡に無関心だった時代のことではないでしょうか。

先ほど言ったように私自身、褥瘡にまったく関心なかったことを反省しています。

いま少なくとも当院では、看護師さんは医師と一緒になって患者さんの治療に当たるチームの「同志」です。

 

 

久保:これからの看護師にどのようなことを期待しますか。

 

水原:ルーチンワークだけ、つまり目の前のことを毎日同じように繰り返していては絶対ダメです。

自分の目でしっかり観察して、よく考えて処置をする、頭を使って看護をすること、この姿勢が大切です。

 

 

例えば「昨日と同じ処置しました」ではなく、

処置が同じでも

「傷を観察した結果、滲出液は中等量のままだったので昨日の処置でよいと判断しました」という報告を期待します。

これができなければ、プロフェッショナルではないと思います。

それから言いたいのは、一日ひとつは新しいことを覚えるようにしてほしい。

医療はどんどん進化しているので、つねに勉強し続けていただきたいですね。

 

地域連携の中で、ホームドクター的病院であるために

 

久保:院長というお立場に関連した質問で、

褥瘡を積極的に診るほど在院日数が長くなると思いますが、経営的な影響はございませんか。

 

水原:確かに褥瘡患者さんをすべて急性期として診療するわけにはいきません。

その点、当院には一般病床のほか地域包括ケアや回復期リハといった比較的長期に診ることができる病床があり巧妙にベッドコントロールしています。

 

 

一方、近隣の医療施設との密接な連携を活用して、キズを持ったまま患者さんをお返しして、

経過を知らせていただくといった切れ目のないシームレスな治療を実現しています。

冒頭に「地域連携がモットー」と申しましたのには、このような背景もあります。

 

 

久保:患者さんやご家族から感謝されることも多いのではないかと思いますが。

 

水原:近隣の病院や施設から手に負えないと多数の褥瘡患者さんが紹介されてきます。

当たり前ですがどんなキズでも断りませんので、その点信頼されているなと感じます。

また「どこも褥瘡を診てくれないのです」と言って直接来院されるケースも少なくありません。

このような患者さんたちに、私は「絶対治りますよ」と言って元気付けるようにします。

 

 

久保:昨年、新築移転されたばかりですが、病院経営上の次の一手は何でしょうか。

 

水原:それはやはり患者さんに当院に来ていただくことですね。

そしてさらに大切なのは救急を断らないことだと考えています。

地域医療の構築には救急隊との信頼ある連携も必要不可欠ですので当院もそれを指向していきたいところです。

 

 

また、例えば肺炎で床ずれがあって食欲のない高齢者などは、

ややもすれば急性期病院では受け入れに消極的になるかもしれません。

しかしそのような患者さんこそ当院で分け隔てなく積極的に受け入れたいと考えています。

そのためにも「地域のホームドクター的な病院」でありたいと願っています。

 

看護師へのメッセージ

 

久保:最後に、先生のご趣味をお聞かせください。

 

水原:ずっとゴルフを楽しんでいて、所属しているゴルフ倶楽部で月例会などに参加しています。

年平均のスコア80台を目指して練習しています。

あとは音楽ですね。

子供のころからクラシック、ロック、ジャズなどジャンルを問わず聴いています。

学生時代はロックバンドでキーボードをやっていました。

最近はジャズピアノに興味があります。

 

 

久保:今も弾かれるのですか。

 

水原:ときどき大宮のジャズライブハウスに行って腕試しで飛び入り演奏することがあります。

 

 

あとは毎年院内のクリスマスコンサートや七夕コンサートで、ジャズ仲間と患者さんの前で演奏しています。

ボケてると思っていた患者さんが手拍子して喜んでいるのを見てびっくりです(笑)。

 

 

久保:では、看護師へのメッセーをお願いします。

 

水原:看護師さんはコメディカルを代表する存在です。

そして医療のプロフェッショナルです。

プロフェッショナルとして日々勉強をし、そして頭を使って頑張って仕事を続けていってください。

当院には、看護師さんが研鑽を積むための機会が十分用意されています。

褥瘡回診はどなたでも見学できます。

興味のある方はぜひお問い合わせください。

 

 

インタビュー後記

信念を持ち、研究そして仕事を行うことをモットーとしていらっしゃる水原先生。

何事も最初に開拓される方は、苦労も多いということが伝わりました。

一方で、惜しみない努力の先には、達成した時の喜びや、

仲間の大切さを知ることが出来るということも教えていただきました。

諦めず、信念を持ち、最後まで貫く姿勢は、褥瘡ケアだけでなく、

病院長としての取り組みにも通じていらしゃるのだと感じます。

 

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Photo by Fumiya Araki

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