より正確で迅速な血液ガス検査を可能にする動脈血サンプラー

コラム

手術室や集中治療室など、さまざまな場面で迅速診断を要求される血液ガス検査。

その測定結果は直ちに治療方針の判断に活用されるため、当然、測定結果が正確であることが大前提。

ところが血液ガスの測定誤差は決して稀とは言えず、かつ、

誤差が生じる原因の大半は検体の取り扱いに原因があるようです。

血液ガスキット取り扱い上の注意ポイントを改めて確認すべく、ラジオメーター社をお訪ねしました。

お答えいただいたのは、同社の動脈血サンプラー「safePICO Aspirator」担当の

ドンカーカーチスジェニファー様です。

 

ビールのpH測定から始まり、ポリオの臨床に対応

 

まず、貴社の沿革や業容を教えていただけますか。

 

当社は1935年の創立で、デンマークのコペンハーゲンに本社があります。

現在、血液ガス分析装置では全世界で40パーセント以上のシェアを持っており、

血液ガス分析におけるリーディングカンパニーと自認しています。

日本法人の設立は1990年ですが、それ以前から代理店経由で国内販売をしておりました。

 

ラジオメーターという社名にはどんな由来があるのでしようか。

 

よく「ラジオを作っている会社ですか?」と言われるのですが、

確かに設立当初は通信機器も製造していたようです。

それがある時から、デンマークのビール「カールスバーグ」の品質管理のために

pHを測定する装置を作るようになりました。

その後、ヨーロッパでポリオによる小児麻痺が流行した時に、呼吸状態の把握のため

ヒトのpHを測れないかという要望がコペンハーゲン大学から当社に寄せられたとのことです。

そこから医療機器製造に舵を切ったと聞いています。

 

血液ガス検体取り扱いの二つのポイント

 

ポリオの臨床からの要望に応えるかたちで、製品開発を進められたという歴史があるのですね。

それでは本題に入ります。

血液ガス検査で測定誤差が問題になることがあるそうですが、

測定誤差が生じる主な原因を教えていただけますか。

 

主な原因は二つあります。

一つは検体への気泡の混入です。

空気中の酸素濃度は血液中の濃度よりも高いため、血液検体に気泡が入り込むと、

実際の患者様のpO2よりも高い値が出てしまいます。

それにより患者様が酸素投与が必要である状態であるにもかかわらず、

それが行われないといった判断につながる可能性が否定できません。

もう一点は、撹拌が不十分なことです。

臨床検査に関する国際規約(CLSIガイドライン)では、

手動であれば最低1分間、撹拌することを推奨していますが、

一刻も早く結果を知ろうとするため、この撹拌が十分に行われていないことがあるようです。

実際、1検体あたり1分間の撹拌作業は、手術室やICUなど極めて多忙な状況では、

医療スタッフの方々にとって、かなり負担になるのではないかと思います。

 

医療現場で血液ガス検体を取り扱うのは、どのようなスタッフでしょうか。

 

やはり看護師の方が多いようです。

その他、救命救急医、麻酔科医、検査技師といったスタッフの方々にお使いいただいています。

 

毎年4月に測定結果に対する問い合わせが増加する

 

測定値について、医師から問い合わせを受けることもあるのでしょうか。

 

そうですね。

特に4月など、スタッフの入れ替わりが多い時期に、そのようなお問い合わせをいただくことがあります。

血液ガスに関しては、いま申しましたような注意点があります。

採血から30分以内に測定しなければいけないことも、注意点の一つです。

そこで医療スタッフの皆さまのご負担を減らしながら、

より正確な測定値を得られるようにするために開発したのが「safePICO Aspirator」動脈血サンプラーです。

 

新製品でしょうか。

 

いえ、もう10年以上前に発売した製品です。

お使いいただいている医療機関が増えてきてはいますが、さらに普及させることで、

医師や看護師、検査技師の方々のお役に立てるものと考え、今でも訴求に力を入れています。

 

血液暴露なく、容易な気泡除去

 

製品の特徴を挙げてください。

測定誤差を生む原因の一つは検体内の気泡とのことでしたね。

 

特徴の一つはキャップにあります。

キャップを取り付け、気泡をシリンジ上部に集めた状態でプランジャーを押し上げることで、

検体内に混入している気泡だけを除去できる仕組みです。

短時間で確実な撹拌

 

撹拌の手間に対しては、いかがでしょうか。

 

もともとなぜ検体の撹拌が必要かと言いますと、その大きな理由は血液の凝固を防ぐためです。

これに対し、当社の製品はシリンジ内にヘパリンを塗布したディスクを入れてあり、

これにより凝固を抑制します。

もちろんこのヘパリンは電解質への影響を最小限に抑えるための電解質バランスヘパリンであり、

血液の希釈を防ぐ目的で乾燥ヘパリンを用いています。

また、同じくシリンジ内にミキシングボールが入っていて、撹拌の効率をより高めています。

以上は「safePICO Aspirator」の特徴ですが、当社では自動撹拌装置「safePICO Mixer」も提供しています。

これらをセットでお使いいただくことによって、手動では1分(60秒)かかるところを、

7秒という短時間で確実な撹拌が完了します。

この自動撹拌装置も発売して既に10年ほどたちます。

効果について、エビデンスはございますか。

 

45件のさまざまな検体を用いて行われたご施設様での検討では、

自動撹拌で得られた結果は汎用シリンジで手動撹拌した場合と比較し、良好な相関が確認されています。

また、従来型の動脈ライン用シリンジに比べてsafePICO Aspiratorではクロット(凝血塊)の発生が

有意に少ないというデータが第64回日本医学検査学会にて発表されました。

加えて凝血塊の発生による分析装置の故障頻度が減ったとのデータも、

第28回日本臨床工学会で報告されています。

 

凝血塊による装置の故障も抑制

 

凝血塊による装置の故障というのは、頻繁にあることなのでしょうか。

 

やはり全血検体を使用する検査ですので、血清検体と比べると凝血塊はある程度つき物のようなものです。

当社にメンテナンス依頼の連絡をいただき訪問して調べますと、

凝血塊が原因とわかることが少なくありません。

血液ガス分析装置は臨床におけるその重要性から、

メンテナンスのために使用できないという状況はできるだけ減らさなければなりません。

そのためにも、確実な撹拌の重要性をご理解いただきたいところです。

 

医療現場への情報提供はどのようにされていますか。

 

学会展示を通し、訴求しています。

ご興味をお示しいただいた医療機関様へは直接訪問し、

先ほど申しましたような検体取り扱いの重要性や、製品の使用方法をお伝えしております。

実際に手技をご覧いただきますと、気泡除去の際に血液暴露の可能性を低減していることが、

医療安全の面からもご評価いただくことが多くあります。

 

医療現場からの評価

 

製品を導入された医療機関の評価はいかがですか。

 

学会展示をしておりますと、ブースにお立ち寄りいただいた看護師の方に

「これを使って楽になりました」とか、あるいは医師からシンプルに「これ、いいよね」と

おっしゃっていただけることがあります。

 

仕事をされていて良かったと感じる瞬間ですね。

 

そうですね。

そういった声を伺った時は、製品を紹介できてよかったなと思います。

自動撹拌をご活用いただくことで、

「患者様のケアなど他の業務に集中でき、現場の流れが効率化できた」という声もあり、うれしくなります。

 

血液ガス検体の取り扱いを今一度チェックしてほしい

 

では最後に、看護師へのメッセージをいただけますか。

 

看護師の皆さまは日々の業務において、患者様のケア等で大変お忙しいことと思います。

そのお忙しいところに、さらに血液ガス検体の取り扱いに配慮をお願いすることは、

非常に心苦しいことではあるのですが、測定精度を確保していただくために、

先ほど申しました気泡除去・撹拌に関するポイントを今一度ご確認いただければと思います。

日々の看護師業務の負担を少しでも軽減できるように当社も努力していきたいと思います。