前編に続き立澤先生に、看護師に必要な資質、マネジメントにおける信条、
看護師への期待などをお聞かせいただきました。
テクニックの手、観察する目
中:ここで話題を変えて看護師についてお尋ねしたいのですが、
先生がお考えになる看護師の役割、イメージといったことをお聞かせいただけますか。
立澤:まず、私が医師になった頃は、本当に看護師さんに教えていただくことが多く、助けられました。
特に当時は今のようなしっかりした研修制度がありませんでしたから、
患者さんとの接し方などは看護師さんを見て覚えていったように思います。
これからの看護師について申しますと、期待の一つは認定看護師など、
高度な技術を持った人材が増えることです。
実は4月から前任の関東労災病院で始まる看護師特定行為研修のOSCE(客観的臨床能力試験。
objective structured clinical examination.オスキー)をお手伝いすることになっていて、
少しお役に立てるかもしれません。
中:そうしますと、医行為と言うべきかどうかということとは別にして、
看護師に対してかなり高度で重要なテクニックを研修されていくのですね。
教える側として不安はございませんか。
立澤:私自身も初めてのことですし、4月から稼働するのでまだ準備段階のため、
未知数的な部分はあります。
しかし、例えば特定行為38項目の中にPICC(末梢挿入型中心静脈カテーテル。
peripherally inserted central venous catheter.ピック)の挿入があります。
このPICCの挿入は、海外では既に看護師がかなり行っている行為であり、
きちんと指導し注意して行えば、医師とそれほど変わらずにできるだろうと思います。
このようなテクニック的なことに加え、看護師へは別の面での期待もあります。
それは、患者さんを目で見た時に「この患者さん、いつもと様子が違うな」といったことに
すぐに気づくような「看護師の勘」ともいうべき能力です。
看護の「看」は「手」と「目」ですね。
手を使う技能と目を使う観察力、その二つが大切だと思います。
患者さんは多くを語らない
中:特定行為に該当するような新たな技術を身に付けるだけではなく、
やはり看護師の原点である、患者さんをきちんと観察することを求められるということですね。
2025年問題との関係ではいかがでしょうか。
高齢者の割合が一層増えることで、何か看護のスタイルにも変化が起きるとお考えになりますか。
立澤:少し難しいご質問ですね。
2025年問題の本質が高齢化ということであれば、みんなが高齢化していくわけで、
患者さんだけでなく医師も看護師も歳をとっていくわけです。
それが直接的な要因で何か特殊なことが起きるのかどうか、私にはわかりません。
しかし、患者さんは医療者に言いたいことがたくさんあっても、
そのうちのほんの少ししか表現できていないという点に、一層の注意が必要になるだろうと思います。
辛い症状があるのに、歳とともに的確な言葉が出にくくなったり、認知機能が低下したりして、
苦しみを伝えられない人が増えるかもしれません。
患者さんは多くを語らないけれども、何を伝えたいと考えているか、
それをしっかり推測して思いやることが、いま以上に大切になるでしょう。
この点は看護師さんに求められる資質だと思います。
始動する変革
中:2025年問題にかかわらす、看護を生業とする人にとって重要なポイントですね。
ありがとうございます。
ところで、先ほど「勤務医時代に、院長になったらやってみたい医療があった」とおっしゃいましたが、
それは具体的にどういったことでしょう。
実際に院長に就任されて、どのようなことを始められましたか。
立澤:過去に当院で働いていた経験がないものですから、院長就任後の最初の数カ月は、
まず病院を知ることが第一でした。
その後で、足りていないと感じたことの中から優先順位をつけて対策を始めました。
最初に考えたのはやはり医療安全でした。
元々、医療安全管理委員会やマニュアルはありましたが、昨年末までに大枠の見直しが終わりまして、
現在は院内各種マニュアルの改訂を進めています。
これは、数年毎に行われている各疾患領域のガイドライン改訂に準拠した診療体制を整えるために
必要なことです。
また、以前に認定されていた病院機能評価の更新ができていないため、その準備を進めています。
これは結構たいへんな作業で、31年度に受けられればいいかなと思っています。
加えて当院は災害拠点連携病院に指定されていますので災害医療体制を整えるのは喫緊の課題です。
院内の防災委員会と協力しBCP(事業継続計画。business continuity plan)をブラッシュアップし、
各部門のアクションカードの作成と訓練を進めています。
院長回診
中:たいへんお忙しいですね。
院内の情報収集というのは、やはりスタッフの方とのコミュニケーションをとられながら、
進めていらっしゃるのですか。
立澤:そうですね。
それから、多くの病院でも行われていると思いますが、当院も院長回診を行っています。
看護部長と事務担当者と私で、水戸黄門のように各病棟を回っております。
これをすると、患者さんやご家族のいろいろなご希望や、病棟の雰囲気がよくわかるのですね。
私の勤務医時代にも院長回診がありましたけれど、自分がするようになってその必要性が実感できました。
まず、信頼することから始まる
中:院長に就任され1年目から多くの取り組みをなさっていらっしゃいますが、
院内をまとめて士気を高める上で、何か「秘策」のようなものがあれば教えてください。
立澤:やはり医療関係者は志と言いますか、自分の考えを持って常に上を見ている人が多いですね。
当院に来てみて私が強く感じたのは、
スタッフやコメディカルの人達がものすごく努力をしてくれているということでした。
そういう意味で、素地はありますから、あとはそれをどういう方向に持っていくのか、
船で言えば針路を決めるということさえしっかりやれば、それなりに動いていくだろうと思いました。
中:相互の信頼関係がなければ、なかなか思った方角へ一緒になり向かっていけるとは
限らないようにも感じます。
それでもまずは信頼してみることがスタートになるのでしょうか。
立澤:こちらが信頼して何かをしてもらうというスタンスでなければ、やはりスタッフは努力しません。
当院のスタッフはしっかりやってくれていて、とてもありがたいと思っています。
スキー歴50年以上
中:最後に先生のプライベートな時間の使い方をお伺いさせてください。
茶道はいまも続けていらっしゃいますか。
立澤:大学を出てからはもうほとんど茶筅を握っていません。
続けていることと言えば、中学から始めたスキーです。
もう50年以上です。
日本国内のスキー場はだいたい長野県から北に広がっていますが、それらのほとんどは行ったのではないか
というくらい、いろいろな所に行きましたが、最近は全く行けておりませんので非常に残念です。
中:そんなたくさん行かれているのですか。
立澤:山形の病院に勤めていた頃は、6時に勤務が変わり、
すぐに移動して7時から蔵王で滑っていました。
ナイターで3時間ぐらい滑れました。
中:危なくないですか。
転んで怪我などされたら診療に影響しませんか。
立澤:それはまあ、普通にゲレンデで滑っているだけですから。
中:ゲレンデで転ぶようなレベルではないのですね。
「自分は何を期待されているのか」考えながら生きる
中:では、まとめとして、先生から看護師へアドバイスをお願いいたします。
立澤:看護師の採用面接を現在私は行っていませんが、以前には研修医の面接を行っていたことがあり、
私が最も聞きたいと思うことは「あなたが今、一番大切にしているものは何ですか」という質問でした。
あなたが一番大切に思っているもの、「これは譲れない」というもの、
あるいは「自分は何のために生きているのか」など、そういったことを考えてもらいたいと思うのです。
自分が行っていることを通じて、自分は何を表したいと思っているのか、
そして、そういう自分はいったい何を期待されて生きているのか、
そういうことを常に考えながら生きている人は、やはりいいことがあるのではないかと思います。
中:奥の深いメッセージですね。
本日はたくさんの有意義なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
インタビュー後記
スタッフ向けのトレーニング施設の充実ぶりには大変驚きました。
病院に勤務しながら、健康維持やボディメイクを施設内で行うことが出来る有難い施設です。
立澤先生は、本年より看護師への特定行為の指導者にもなられるということで、看護師に対する理解も
深く、看護師の未来における活躍にも期待していただいていることが感じ取ることができました。