No.234 特定医療法人社団若林会  湘南中央病院 長田博昭 理事長 前編:地域の幅広い医療ニーズに応える

インタビュー

急性期から終末期医療、そして健診と、幅広い医療ニーズに対応する特定医療法人社団若林会 湘南中央病院

その理事長である長田博昭先生に、病院経営のコンセプトや看護師への期待などを語っていただきました。

一つの病院にあらゆる種類のケアをまとめる

中:今回は特定医療法人社団若林会 湘南中央病院 理事長の長田博昭先生にお話を伺います。

先生、どうぞよろしくお願いいたします。

長田:よろしくお願いします。

中:まず、貴院の特徴を教えてください。

長田:手短に言いますと「あらゆる種類のケアを一つの病院にまとめた構造」が特徴です。

急性期から回復期、慢性期の療養も含め緩和医療等のターミナルケアまで、

7階建てのフロアごとに機能を振り分けています。

地域の幅広い医療ニーズに対応していこうというコンセプトで作られた病院です。

中:急性期あるいは慢性期に特化せずに幅広く対応するという貴院、貴法人のコンセプトは、

どのように継承されてきたのでしょうか。

長田:特定医療法人社団若林会としてスタートを切ったとき、

中核となった3人の医師メンバーの医療に対する考え方がもとにあります。

理事長を務めていた医師が高齢のために交代するという話が出た時、

折あしくもう1人が亡くなってしまい、残っていた私が引き継ぐことになりました。

私にとっては、3人の当初の主張に背かないように医療を展開することが宿命と申しますか、

当法人の髄となっています。

中:先生ご自身も診療を続けていらっしゃるのでしょうか。

長田:若手外科医が減っていますので、私もまだ働き続けています。

教授会と団体交渉の合間に勉強

中:先生は外科をご専門とすることを、どのようにお決めになられたのですか。

長田:私の在学中は日本全国の医学部が紛争状態にあって、非常に混乱した事情の中で卒業しました。

ですから志望先をどう決めるかということより、まずその紛争状態からどう生き延びていくか

ということの方が重要でした。

結局、誰もが好き好きに領域を選んで進んでいったというところだと思います。

中:そのような時期ですと、在学中も勉強の時間を確保するのが難しいような状態でしたか。

長田:その頃、洋書の海賊版が安く販売されていて、それを購入しチャプターごとに千切って

ポケットに入れておき、教授会と団体交渉の合間合間に読んで学ぶということをしていました。

中:医師になられて新人の頃の思い出はございますか。

長田: 卒業後3~5年目の時期に勤めていた岐阜の民間病院でのことです。

院長は高名な外科医で腕の立つ先生でした。

助手として手術に付きますと、次に同様の症例が発生した時

「長田君、この手術をやれますか?」と尋ねられましたので、勧進帳の弁慶よろしく

「やれます」と答えますと、「ではお願いします」となり、それからどんどん手術をしていきました。

もちろん手術書で十分勉強をしておいたのでそう申し上げたのですが。

私1人と看護師2人で当直にあたり、当直の晩に手術もするような状態でした。

もちろん麻酔も自分でかけました。

中:今の研修医制度とはだいぶ異なりますね。

病院経営に関して質問させていただきます。

先生の経営スタイルといったものがおありになれば教えてください。

長田:経営スタイルと言えるかどうかわかりませんが、とにかく「話をすること」しかないと思います。

議論や説得、相談とさまざまですが、人と話をしながらプランを編み出して、

合意に達すれば実行していくということです。

文学が欠如した看護

中:看護部についてはいかがでしょうか。

先生は看護師という存在をどのように考えていらっしゃいますか。

長田:看護師の世界は非常にレベルを気にする世界ではないでしょうか。

その養成過程も、看護学校から大学へ、大学から大学院へと、

学歴レベルの高さにこだわっているように見えます。

その一方で、看護学校以上の教育は専門的な内容が多く、詰め込み教育になっているように、

私には思えます。

結果として、専門の勉強を深くしているために能力はあるのですけれども、例えば

患者さんとのトラブルの対応が人情的な意味で十分にはできないなど、少し残念に感じることがあります。

中:看護教育が実臨床に即していないということでしょうか。

長田:私は「文学の欠如」だと常に言っています。

文学には人間のあらゆる生き様や考え方の違いが散りばめられているのですが、

文学作品をたくさん読んでいる看護師にあまり会わなくなったような気がするのです。

看護師の養成期間を長くするのであれば、文学にもっと重きを置いてくれれば良いのに、

というのが私の願望です。

中:患者さんに接する時に、もっと俯瞰して見られるような対応力が不足しているということでしょうか。

長田:不足しているというと語弊があるでしょうが、フレキシビリティ、あるいは弾力性でしょうか。

そのような能力を必要とする場面が看護には結構多いのです。

中:弾力性をつけるために文学に触れる必要があるということですね。

長田:文学を中心にした文科系教養、もっと言えば、その人の成り立ちです。

今の看護師は看護の領域だけをずっと突っ走っている印象が強いのです。

こういうことを言いますと、お叱りを受けるかもしれませんが。

中:具体的にお薦めの文学作品を挙げていただけませんか。

長田:いえ、それは皆さんがお選びになることです。

大衆小説や週刊誌から入っていっても全く構いません。

私は物事の概念化の表現に優れている夏目漱石が好きです。

中:どんなものでもいいので、まず文学に触れる機会を持つということですね。

長田:それに重きを置かないと看護教育が受ける人にとって面白くないだろうと思うのです。

私も看護学校の講師をお引き受けしていた時期がありましたが、

その時も話すように依頼された内容は専門的なことのみでした。

そのような話を生徒が面白がっているのを聞いたことがありません。

中:看護学生が授業に面白さを感じないと、

看護師になってからも看護を面白いと思えないかもしれませんね。

長田:そう思いますね。

私が卒業したての若い看護師と話をしても、全く価値観が合いません。

ですから患者さんとも通じる話がないのではないでしょうか。

もちろん多くの看護師が親身になり患者さんのお世話をしていることは、見ていてよくわかるのですが。

後編に続く

Interview with Carlos & Araki