No.223 PRAヘルスサイエンス株式会社 小川淳 社長 前編:設立2年目のCRO

インタビュー

医薬品の臨床開発を代行している海外大手CROと日本の製薬企業のパートナーシップにより発足した

PRAヘルスサイエンス株式会社の代表取締役社長である小川淳様に、

CROという業態について解説いただきました。

グローバルなパートナーシップから誕生したCRO

中:今回はPRAヘルスサイエンス株式会社、代表取締役社長の小川淳様にお話を伺います。

社長どうぞよろしくお願いいたします。

小川:こちらこそよろしくお願いいたします。

中:まず貴社の事業内容や特徴をお聞かせください。

小川:当社は薬剤の臨床開発を行う会社です。

新薬を世の中に送り出すためのお手伝いを製薬会社に対して提供する

CROContract Research Organization.治験の受託・代行)」と呼ばれる業態です。

CRO 大手のPRA Health Sciencesとグローバル展開している日本の製薬企業とのパートナーシップの一環で、

昨年6月に「PRAヘルスサイエンス」として発足しました。

PRA Health Sciences自体は世界で社員1万5,000人以上を擁する大規模なCROです。

このようなパートナーシップで誕生した当社の特徴を生かして、

臨床開発に関しては何でも任せていただける会社となることを目指して今、鋭意に取り組んでいます。

CROへのニーズ拡大

中:本日は貴社の業容や社長ご自身のキャリアなどについてもお伺いさせていただきます。

その前に、私どもは看護師・看護学生対象のWeb媒体であるため、治験やCROについてあまり馴染みがない

読者もいると思われますので、少し噛み砕いてご説明いただけますか。

 

小川:開発中の薬剤が新薬として承認され発売されるには、

安全性と効果を科学的に立証する必要があります。

それが臨床試験、治験です。

現在、多くの領域で「ビッグデータ」を活用するデータサイエンスが活発に行われるようになっていますが、

臨床研究もデータサイエンスの一領域です。

かつて治験は製薬企業が自社で行っていました。

しかし近年は弊社のようなCROが受託するケースが増えています。

新薬を世に送り出してたくさんの人に使っていただくという「創薬」の過程に貢献できる、

非常にやりがいがある仕事だと感じています。

中:製薬企業が自社でなく、貴社のようなCROに治験を委託するようになってきたのには、

どのような背景があるのでしょうか。

小川:製薬に限らず多くの産業で今、水平分業が活発に行われるようになっています。

例えば自動車産業をみても、かつては自動車メーカーが系列の部品メーカーを持ち、

そのグループ内で新車を開発していましたが、今では系列がほとんどなくなって、

部品メーカーは複数の自動車メーカーに自社製品を納めています。

そのような仕組みにすることで自動車メーカーも部品メーカーも、それぞれの強みをより発揮しやすくなり、

かつ新車開発にかかるコスト全体を抑えられます。

中:同じことが製薬業界にも起きているということですね。

小川:私は当社の社長に就く以前、海外、特にアメリカでの勤務が長かったため、

新薬の開発スタイルが急速に変化していることを肌で感じていました。

アメリカでは、大学の研究室やバイオテックと呼ばれる創薬ベンチャー企業が

新薬候補物質の探索や合成を行います。

ひと昔前は、それを大手製薬企業にライセンス提供し、

製薬企業が臨床開発を進めるというスタイルが主流でした。

しかし今では「せっかく良い薬ができたのだから自分たちで開発しよう」とするベンチャーが増え、

そこへの投資も旺盛です。

ただし、そういったベンチャー企業は臨床開発の専門性を持たないことが多いため、

我々のようなCROに対する需要が生まれます。

海外勤務を通して得たこと

中:詳しく解説いただきありがとうございました。

今のお話で社長は海外での勤務が長かったとのことですが、

ここで貴社社長になられる前のご経歴をお聞かせいただけますか。

薬学ご出身でしょうか。

小川:薬学部を卒業し製薬会社に就職しました。

入社後はほぼ一貫して臨床開発部門で働いていました。

まず取り組んだのは胃酸分泌抑制薬のプロトンポンプインヒビター(PPI)です。

PPIは強力な酸分泌抑制作用があり副作用も少ない画期的な薬剤として

胃・十二指腸潰瘍の治療に使われていましたが、

それを潰瘍による消化管出血という緊急時の救命領域に適応を拡大するための開発に携わりました。

初めの2年間は国内での開発でしたが3年目からはグローバルに開発することになり、

そのプロジェクトマネジメント業務を担当し、アメリカやイギリスで通算7年ほど海外勤務しました。

中:海外への赴任には大きな決断が必要でしたか。

小川:それまでにも海外のパートナーと仕事をする機会はありましたし、海外に住むことに

とても興味がありましたので、発令が出たときは「良い機会をいただいたな」と嬉しく感じました。

ただし実際に働きだすと、英語がわからずに困りました。

外国人同士が話す英語はスピードが速く、聞き取りに慣れるまで数か月かかりました。

相違点より先に一致点を確認する

中:アメリカでは社員も多国籍でダイバシティーが豊かな環境だと思います。

そのような中でプロジェクトマネジメントのためリーダーシップをとる時、注意されたことはございますか。

小川:意見の相違が出た時に、ほとんどワンパターンのようにある方法で解決していました。

それは、意見の相違について話をする前に

「互いに相違がない部分について確認・再合意する」という手法です。

この確認を経て確実な共通認識ができると、それだけで問題の80%が解決しているように感じます。

あとは皆さんで知恵を出し合い、解決に向かっていくことがほとんどです。

中:そのアドバイスは医療の現場でも参考になるのではないかと感じました。

いまは多職種によるチーム医療で治療を進めていく時代ですので、

その中で看護師がうまくチームを回していくためにも、そういった手段が有効かもしれません。

小川:それぞれに与えられている役割が違うチーム、恐らく医療でもそうだと思いますが、

そういうチームで動いていると、立場によってものの見え方が変わってきます。

その結果、互いに同じことを別の表現で話しているといったことが起こりがちです。

看護師になろうとされる方は他人に対する共感度が高い方が多いと思いますので、相手の気持ち、

相手の立場に立って考えることができ、問題の解決や調整に向いているのではないでしょうか。

後編に続く

Interview with Kubo & Araki