No.249 テルモ株式会社 佐藤慎次郎 社長 前編:総合的な質の追求を一途に

インタビュー

テルモ株式会社は2021年に発足百周年を迎えます。

体温計の製造から始まり今は、血管内治療デバイス、輸液ポンプシステムなど幅広い製品群を抱え、

看護師にとっては馴染みの深い企業の一つです。

社長の佐藤慎次郎様に、会社の特徴や社長のご経歴を伺いました。

まもなく設立100周年

中:今回はテルモ株式会社、代表取締役社長の佐藤慎次郎様にお話を伺います。

社長どうぞよろしくお願いいたします。

佐藤:こちらこそどうぞよろしくお願いします。

中:看護師にとりまして貴社は非常に馴染み深い企業ですが、幅広い事業展開のすべてが

知られているとは限りませんので、最初に貴社の事業概要をご紹介いただけますか。

佐藤:当社は1921年設立で、まもなく百周年を迎えようとしています。

当初は体温計からスタートしました。

設立から40年ほどは、ほぼ体温計オンリーでしたが、戦後、

医療の進化に歩調をあわせて当社も多角化を進め、現在に至っております。

今は大きく分けて三つの事業を営んでおります。

一つはまさに、医療の現場で看護師の皆さんにお使いいただいているような、穿刺針やシリンジ、

あるいは輸液ポンプといった製品群で、当社では「ホスピタルカンパニー」と呼んでいる部門です。

もう一つは、いわゆる血管内治療・検査に用いるカテーテルやステント、

人工心肺を中心とする「心臓血管カンパニー」、

そして、日赤さんなどで使っていただく輸血関連製品を扱っている「血液システムカンパニー」という、

以上三つの事業から成り立っています。

現在、世界160か国以上でお仕事をさせていただいており、

売り上げに占める海外比率は7割近くに達します。

大学では落語研究会に

中:ありがとうございます。

後ほど貴社製品を使う看護師に伝えたいことなどをお聞かせいただきます。

まず、社長ご自身の経歴についてお尋ねいたします

学生時代から、将来は経営者になろうといったことをお考えになっていらしたのでしょうか。

佐藤:正直に申しますと、そこまで明確に自分のキャリアターゲットを持っていたわけではなく、

がんばっているうちに今の状況にたどりついたという感じです。

中:大学ではどのように過ごされていましたか。

東大ご出身と伺いましたが、勉強一筋の学生時代だったのでしょうか。

あるいはクラブに熱中していらっしゃいましたか。

佐藤:残念ながら勉強一筋というわけではありませんで、どちらかというと、

のんきな学生生活を過ごしていたと思います。

落語研究会に入り、高座に上がって皆さんの前で一席演じたりしていました。

日本の大学は入るのは大変ですが、入ってからは結構時間があります。

私も入学後は「中学高校時代にできなかったことや、大学生でなければできないような経験をしよう」と

決め、思い切って落研に入り4年間を過ごしました。

米国でMBAを取得

中:卒業後は、どのような道を歩まれてきましたか。

佐藤:私は今58歳で、1984年の卒業です。

当時はバブル経済が始まる前夜です。

日本経済が迷走した時代と自分の人生とが重なっている世代かもしれません。

卒業した年に就職したのは医療とは異なる、エネルギー関連の業界でした。

そこで十数年働き、後に経営コンサルティングの仕事などをして、当社に入ったのは2004年でした。

医療の世界に身を置く者としては少し変わり種かもしれません。

中:海外でMBA(経営学修士)を取得されていらっしゃいますね。

佐藤:1980年代、ちょうど日本の社会が急速に国際化していく中で、

たまたま運良くアメリカのデューク大学に留学する機会に恵まれ、MBAを取得しました。

日本とは異なるアメリカの学生たちの思考法や社会のスタイルを若い時期に学べたことは、

その後の自分のビジネスに役立ちました。

医療産業の外から業界構造を見るメリット

中:貴社に入社されたのは、どのような経緯だったのでしょう。

佐藤:最初に飛び込んだ業界がどちらかというと成熟段階にある産業で、

可能であればそれまでの経験を踏まえて、これから伸びていく産業で

グローバルに活躍できるチャンスがある会社に勤めてみたいと考えるようになりました。

幸い当社との縁があり入社いたしました。

そのころ当社はすでに世界を目指してビジネス展開をしておりましたし、

何より医療関係には、まだまだできる仕事がたくさんあるように感じておりました。

中:入社時はどのようなポジションでしたか。

また、他業種からの転職で、戸惑いはありませんでしたか。

佐藤:最初は経営企画室という部署で、まず会社全体の仕事を覚えることからスタートしました。

戸惑いがあったかと言えば、もちろん医療関係の知識不足や医療業界独特の慣習、

あるいは規制などを勉強していく過程で、驚かされることはありました。

しかし、当時はちょうど、閉ざされた特殊な業界と思われていた医療の分野が、

ふつうの産業、ふつうのビジネスに転換しようとしている時期でもありましたので、

逆に私のように過去の習慣に馴染んでいないことはメリットでもありました。

自分にないものを憂えるよりは、貢献できる部分を生かしながら知らないことを身につける、

そういうかたちで自分のキャリアを積んでいったところはあります。

トータルクオリティーの向上

中:社長に就任された現在、貴社をどのように成長させようとしていらっしゃいますか。

佐藤:テルモを際立った特徴のあるグローバルなブランドに成長させていくことが目標です。

その際、最も大切なポイントはクオリティーです。

当社は、品質をもって医療現場の皆さまに愛されてきた会社ですから、

それをさらに磨いていきたいと思っています。

かつて「クオリティー」と言いますと、主に製品の品質が問われていました。

しかし今は、製品が必要な日時にきちんと届くか、メンテナンスに速やかな対応をするか、使用法等の

トレーニングのサポート体制はしっかりしているか、といったことも評価されるべき重要なポイントです。

この点については恐らく、看護師の皆さんに首肯いただけるものと思います。

製品と供給、サービス、この三つが統合されたクオリティー、

私はこれを「トータルクオリティー」と呼んでいるのですが、

それが評価されて医療現場の皆さまに満足していただける会社にしていきたいと思います。

後編に続く

Interview with Toan & Carlos