前編に続き平田先生に、留学からご帰国後、看護学校校長を務められご経験や、
その時にお感じになられた看護師への期待などを語っていただきました。
看護学校校長時代の思い出
中:看護学校の校長のご経験を「楽しかった」とおっしゃいましたが、
そう思われた理由をお聞かせください。
平田:理由は二つあり、一つ目は学生が熱心だったことです。
獨協医大には看護学部と看護学校という二つの看護師養成課程があるのですが、
看護学校は修業年限が3年に限られていますから、非常に熱心に学習する学生が多いと感じました。
医学部や看護学部と比較しても、講義中に寝ている学生はほとんどいませんでした。
私の任期中に国家試験合格率100%を達成できたことも嬉しい記憶です。
二つ目の理由は、栃木県という立地のためか東北出身の学生が多く、
とてもおとなしくて良い子が多いのですね。
3・11の時も三陸出身の学生にみんなが洋服をあげたりお金を工面したりと、優しく接していました。
私にとっても、たいへん貴重な経験でした。
中:看護学校の校長として、学生にはどのような看護師になってほしいと思われていましたか。
平田:仮にいま答えるのであれば「特定医療行為や認定・専門ナースなどを目指してほしい」という
答になるのかもしれません。
しかし当時はそういうことより、経済的に恵まれない学生が多かったので
「何よりも一発で国家試験に受かってほしい」ということでした。
性格が優しくナース向きなことはよくわかっていましたから、
とにかく全員が卒業後すぐに働けることを望んでいました。
看護師の働き方改革
中:先ほどおっしゃった「国家試験合格率を100%にできたことが嬉しい」という言葉には、
そういう背景があったのですね。
平田:その後、当院の副院長と看護学校校長を兼任していた時期に、
特定行為をできる人を養成するという話が出始め、看護学校から学部の4年生への編入が増え始めました。
今は高いスキルを持った看護師を育成して医師から看護師へタスクシフティングを推進していこう
という流れですが、なかなか大変です。
なぜなら看護師もかなり忙しくギリギリの状態で働いていますから。
また、「働き方改革」という前に、今の若い人たちは生きる価値観が我々の世代と違うのですね。
若い看護師は電子カルテのシステム刷新など技術の進化にすぐに対応して、
仕事を短時間で終わらせ早く帰宅しようとします。
しかし上の人たちの一部には新しい技術の対応に時間がかかっているため、
若い看護師も帰るに帰れないということもあるようです。
世界に誇れる日本の看護
中:これからの若い看護師は、どのように進化していくことが望ましいとお考えですか。
平田:一つはやはり特定医療行為、あるいは専門・認定などの資格を持つことだと思いますが、
それ以外にチューリッヒでの経験を通して感じた日本人ナースの良い点を失わないでほしいとも思います。
チューリッヒの病院は医師と同様にナースも多国籍でした。
大柄なナースが多く、患者さんを片手で持ち上げてしまうような人もいて、力強く働いていました。
そんな中で一人だけいた日本人のナースは、ひいき目なのかもしれませんが、
患者さんに寄り添い優しく接しているように感じました。
このような患者さんに優しい、世界に誇れるような日本の看護のかたちを
将来へ引き継いでいってほしいなと思います。
中:看護の専門性が高まり機能分化していったとしても、
ベースにはやはり看護師の優しさが必要ということですね。
平田:電子カルテなど新しい技術を次々にとり入れ更新して時間的な余裕を作り、
その余裕をもって患者さんに寄り添う、それが本当の意味での働き方改革ではないかと思います。
病院長のリーダーシップ
中:看護師の話題が続きましたので、病院長というお立場に関する質問に移りまして、
病院運営のマネジメントポリシーをお聞かせいただけますか。
平田:ご承知のように今は少子高齢化が進み医療費抑制が強く言われるようになりました。
このような状況で病院として利益を上げ、新しい設備を整え、
職員の給料を毎年上げてくことは実に大変です。
こういった課題に対応していくには病院長としてのガバナンスが重要だと考えています。
改革のために自分がいかに先頭に立って進めていくかという点を常々意識しています。
どうしても当院にそぐわない人には辞めていただきますし、有能な人は積極的に登用します。
例えば2年前に総合診療科を発足させた時、当時39歳のスーパードクターを教授として招きました。
研修医採用にも力を入れていて、今年のマッチングでは全国の大学病院中、中間発表で5位、
最終で基本プログラムフルマッチという結果を得ました。
中:そのような強いリーダーシップは、どのように磨かれたのでしょうか。
平田:それは以前、自分にリーダーシップが欠けていたからです。
周囲の意見に流されてばかりでした。
周囲に合わせて判断していると、気持ちは楽ですが成果が出ず、しかもいずれ辻褄が合わなくなってきます。
本当に駄目なものは駄目だと言った方が、結果的に良い状況になるはずです。
それを信じて今は取り組んでいます。
中:先生は一般の方には「頭痛の名医」として知られ、今でも外来を担当されているようですが、
院長職との兼務は負担が大きいのではないですか。
平田:以前学長にも「院長専任の方が良いのでは」と言われたこともありましたが、外来に出ていると
患者さんだけではなく、看護師や他のブースで診ている医師、それから患者さんが混雑している診療科、
空病床の状況など、病院運営に重要な情報をダイレクトに把握できます。
病院長の職は、デスクワークだけでは無理ではないかと思います。
再び1,000メートル泳ぐ
中:最後の話題ですが、先生のご趣味についてお聞かせいただけますか。
平田:以前はかなり泳いでいました。
クロールで1,000メートルぐらい泳げましたが時間がなくてやらずにいたら、
全然泳げなくなってしまいました。
自分でも情けないので、最近また始めて少しずつ距離を伸ばしている最中です。
中:健康づくりですね。
平田:健康のためもありますが、身体を動かさないと心が緩んできてしまいますので。
泳ぎのほかには走ったりもします。
「ゴルフをやろう」と誘われることも多いのですが、ゴルフは1日がかりになってしまうので、
なかなか始められません。
中:それでは改めて看護師にメッセージをいただけますでしょうか。
平田:看護師の皆さん、獨協医大病院長の平田です。
当院は緑の中に囲まれた病院です。
看護師さん達にとって一番良いと思うのは、非常に和やかな環境、
それでいて病院自体は非常にハイテクな設備を整え、いろいろなことを経験できるということです。
もちろんロボット手術なども導入済みですし、
ほかにはフライトナースとして活躍するといった先進的な働き方が可能です。
さらに、一番大事なポイントだと私は思うのですけれど、
この大きな所帯が和気あいあいとした感じでまとまっている点が特徴です。
是非よろしければ、見学に来ていただければありがたいと思っております。
インタビュー後記
広大かつ穏やかな環境で、最先端の医療を実践したいと思う看護師にはピッタリ。
施設と同様に、病院長である平田先生も広い心と穏やかさをお持ちでした。
周囲の意見を尊重しながら、理念をもとにリーダーシップを発揮されていらっしゃるお話や
世界に誇れる日本の看護は、勇気や希望に溢れていらっしゃると感じました。