No.211 足利赤十字病院 小松本悟 病院長 前編:移転を機にアメニティを大幅向上

インタビュー

7年前に移転新築し新病院となった足利赤十字病院

移転から現在までの病院運営には、

院長である小松本悟先生の経営ロジックが最大限反映されているようです。

 

555床すべて個室の病棟

嶋田:今回は、足利赤十字病院院長の小松本悟先生にお話をお伺います。

先生、どうぞよろしくお願いいたします。

まず、貴院の特徴を教えていただけますか。

小松本:当院は以前ここから3kmほど離れた場所にあったものを、7年前に当地へ移転してきました。

ここは元競馬場で、病院の敷地が5万7000平米、周囲の公園と一体化していますので

トータルでは8万7000平米という広大な土地です。

病床は555床すべて個室とし、患者さんに快適な療養環境を提供しています。

エントランスを入りますと170mのホスピタルモールがあり、

外来棟、中央診療棟、管理棟、病棟がモジュールのように連結され、

あたかも宇宙ステーションのように配置されていて、患者さんには大変好評です。

嶋田:続いて、医学生時代のエピソードなどをお聞かせいただけますか。

小松本:私は昭和44年に慶應大学に入学したのですが、

当時は学園紛争の時代で授業は半分ぐらいしかありませんでした。

しかも「医学生も体育会に入って鍛えるべきだ」と言われ私もボート部に入りました。

医学部のボート部としては強豪として知られ、年間200日合宿するほどです。

入学時に50kgだった体重が80kgまで増えました。

結局、普段は全く勉強せず、テストの日だけ信濃町に行き答案用紙に「ボート部合宿中」と書くと

「A」をいただけました。

さすがに6年生の1年間は一生懸命勉強し、なんとか無事に国家試験に受かったというところです。

ロジックで診断する神経内科の魅力

嶋田:ではボート部の練習で、医師に必要な体力を養われたのですね。

ご専門の神経内科へ進まれたのはどのような理由でしょうか。

小松本:ロジックで疾患を診断する診療科であることに魅力を感じました。

患者さんの訴える症状や徴候、経過から考えられる疾患を鑑別していき病巣を突き止める、

つまり採血検査等のデータからではなく、

患者さんをしっかり観察しなければ診断できないことが神経内科の特徴です。

しかも当時はCTもなかった時代ですので、患者さんの直接的な診察が今以上に重要でした。

嶋田:今はCTが普及していますが、神経内科の診断方法も以前と変わってきているのでしょうか。

小松本:変わりました。

それは私が憂える点でもあります。

診断における画像検査のウエイトが増すにつれて、

患者さんと医師との接点が減ってしまったということです。

それによって患者さんとの信頼関係を築く機会が失われてきているように感じます。

極端なことを言えば、当院ではもちろんあり得ませんが、患者さんに会わずに診断・治療し、

そのまま退院してしまうことがあるかもしれません。

また、ロジックによる診断力を磨く機会が失われることも心配です。

ただ、今は以前と違って臨床医がやるべきとことが増えて多忙ですから致し方ない面もあり、

指導医がフォローしなければいけないのかもしれませんね。

嶋田:医師でなくてもできる仕事を医師がしていて、負担が過剰になっているのではないでしょうか。

小松本:そうですね。

働き方改革が必要です。

「昔の医者はもっと働いた」などと言っていても仕方ありません。

社会が要求してきている以上、我々の働き方と後進の教育方法を変えなければいけません。

嶋田:先生のご経歴に戻りまして、ご卒業後はどのようなご経歴ですか。

小松本:大学院に行きまして、その後、ペンシルバニア大学へ留学しました。

嶋田:ご留学先ではどのようなご研究をなさいましたか。

小松本:サルやネコの中大脳動脈を閉塞させて脳虚血の実験モデルを作り、

神経細胞がどのように壊死し回復していくか、その過程を研究していました。

今では動物愛護のために行えない実験です。

病院経営のロジック

嶋田:先生の時代の動物実験がベースにあって、脳梗塞治療が今のように進歩してきたのですね。

ご帰国後は現在の足利赤十字病院にお勤めされたのでしょうか。

小松本:そうですね。

その後、副院長に就任し、2006年ごろになると移転の話が持ち上がりました。

医療情勢が年々厳しくなり、DPCも始まり、

医師も病院経営に無関心でいられなくなり始めたときのことです。

日赤は独立採算ですからより切実な問題でした。

そのような時にNHKの朝のニュースで、医科歯科大と一橋大が共同で

病院経営者を目指す人向けの経営大学院を設置するという情報を知り、すぐに申し込みました。

ですから私はあの大学院の一期生です。

嶋田:臨床医から病院長へとなられるに際しては、やはり経営について専門的に学ぶべきだと思いますか。

小松本:臨床を終えて幹部の道を進む人には、やはり学問、

ロジックとしての病院経営学が必要だと思います。

今の病院経営は論理に基づき体系化されていますので、ある数字がこう動くとどのような影響が現れるのか、

事務長だけでなく院長もイメージできた方が、院内のマネジメントに有利ですので。

後編に続く

Photo by Santos Izaguirre Jose Carlos