前編に続き野村先生に、これからの看護師への期待や、医師に求めることなどを語っていただきました。
看護師が‘cure’を担う時代
中:ここで少し看護師についてお尋ねしたのですが、
先生は看護師という存在をどのようなイメージで捉えていらっしゃいますか。
野村:医療現場において通常、看護師は医師の指示に従うという立場です。
反対に我々医者は国家試験を通った途端に「先生」になります。
「先生」になりたての頃は点滴一つとっても看護師に教えてもらわなければできないにも関わらず、です。
このことに非常に違和感があります。
私は医師一年目から看護師と仲良くさせていただいて、いろいろなこと教えていただきました。
看護師に対する感謝や尊敬の念は若い頃から今に至るまで、ずっと持ち続けています。
中:これからの看護師には、どういったことを期待されますか。
野村:看護師の権限がまだ少なすぎると思います。
認定看護師などの資格を取得した人ができることをもっと増やしていくべきではないでしょうか。
例えば気管挿管の手技にしても、医師と看護師とで本質的に能力の差があるはずがありません。
同じように、教育システムを確立し質を担保すれば、
看護師に権限を移譲できることはたくさんあるはずです。
ただ「権限」は「責任」と等量で、その点は大切なことではあります。
中:そうしますと、海外のナースプラクティショナーのような制度もとり入れていったほうが良いと
お考えですか。
野村:個人的には、日本でも採用可能ですし、採用しなければいけない制度だと考えています。
これまで医師は主に‘cure’を担い、看護師は‘care’を中心にしてきましたが、
これからは看護師もどんどん‘cure’に関わるべきです。
現行の医療システムは医師用に作られてきたようなところがあり、
その医療システムがいま壊れ始めていて、作り直す時期にきています。
システムの再構築にあたり、看護師の皆さんにもぜひ頑張っていただきたいところです。
医師の働き方と医師の使命
中:確かに「2025年問題」と言われるように、医療システムの大きな変革が迫られているようですね。
先生は最近の医療に何か問題があると意識されていますか。
野村:今の医療を見ていますと、危ないことには近づかない風潮が顕著になってきて、
それが巡り巡って患者さんに不利益をもたらし始めているように思います。
昔であればリスクを冒してでも助けられる可能性があれば助けにいったところ、
最近はリスクがあると処置を避けるような傾向があります。
確かに、医療事故があたかも医療過誤のように取り上げられて大騒ぎになりますから、
仕方ない面もあります。
だからと言って医療者がリスク回避を優先する風潮は医療の損失です。
それから「医師の働き方改革」もどうでしょうか。
我々が医者になった頃は、病院に住んでいるかのように働いていました。
医療にはある程度そういう特殊性が必要なのかもしれません。
最近は医師も労働者だと考えるようですが、そうすると医師の使命感も失われていかざるを得ないでしょう。
医師の裁量権も非常に限られるようになりました。
これらが長い目で見て本当に良いことなのか、よく考えなくてはいけないと思います。
中:「医師の働き方改革」を進めたら、
救急の受け入れを控えなければいけなくなるといった話も出始めていますね。
野村:そうです。
基幹病院がそういうことになったら、結局、患者さん・市民が困ってしまうことになりかねません。
法人の理念のもとに人が集まる
中:次に理事長としてのマネジメントについてお尋ねします。
法人内の職員のみなさんをまとめていかれるポイントのようなものはございますか。
野村:組織は人が集まるところです。
我々はとしては、職員の皆さんが「何に対して集っているのか」との問に、
はっきりメッセージ出さなくてはいけません。
当法人の場合、この問の答は
「地域医療を担う。それも部分的にではなく、トータルで地域医療を担い、地域の方たちの命・健康をあらゆる場面で支える」
ということです。
このメッセージを明確にしていくことがポイントだと思います。
中:職員の方とはふだん、どのような方法でコミュニケーションされていますか。
野村:五つの事業部ごとの定例会議等々の機会がありますが、
おっしゃるような職員全員とのコミュニケーションはなかなか困難です。
一つの方法として、給与明細と一緒に、全職員へ配布する、「三思会通信」というお知らせを通して、
メッセージを毎月発信しています。
かつては看護師と一緒に遊びにも出かけました。
みんなでカラオケや花火などしたものです。
さすがに今は、時代的にも立場的にもそのようなことが難しくなっていますが、
当時遊びに行った看護師たちとは今も仲良くさせていただいています。
看護師へのメッセージ
中:最後に先生のお人柄を知るために、ご趣味の話などをお聞かせいただけますか。
野村:子どもの頃から生き物が好きで、今は昆虫、カミキリムシを集めています。
日本に900種類ほどのカミキリムシがいるのですが、そのうち約600種類集めました。
それに沖縄で捕まえてきたカナヘビというトカゲを2匹飼っています。
また大学時代の同級生とバンドをつくって音楽をやっています。
病院の副院長も富山時代一緒にやっていたバンドメンバーです。
忘年会でともに演奏したこともあります。
そのほか、釣りや山歩きも好きです。
中:いろいろ多趣味でいらっしゃいますね。
野村:あとは、大野麦風という人の版画のコレクションを少しですがしています。
平塚に新しい老健施設「なでしこの里リハビリひらつか」を建設し、2019年1月にオープンしますが、
その施設内に飾るつもりです。
中:ありがとうございました。
では先生、まとめとして看護師へメッセージをお願いいたします。
野村:当法人は、地域医療を中心に頑張っている法人です。
保健から、医療、介護、福祉、それらすべてに携わっています。
健診センター、外来クリニック、急性期を担う病院での入院から在宅まで、いろいろな展開をしています。
看護師の皆さんも、それぞれいろいろご興味を持つ分野が異なるかと思いますが、
すべての分野において、われわれは歓迎させていただきます。
ぜひ当法人の施設へ来ていただきたいなと思います。
インタビュー後記
どのような分野に興味を持っている看護師にも対応してくださるという野村理事長。
最初から専門性を見極めることが出来なくても、急性期から在宅まで挑戦出来る土壌があるというのはありがたいことです。
三思会の中でも今回訪問させていただいた東名厚木病院は光に溢れ、明るい雰囲気でした。
多趣味でもある野村理事長のバンド演奏も忘年会で聞くチャンスがあるかもしれませんね。