No.151 ツネヅカ ティエリ様(CLC Montreal Language School) 前編:日本語教育も日々進化

No.151 ツネヅカ ティエリ様(CLC Montreal Language School) 前編:日本語教育も日々進化

  • 2018年6月6日
  • インタビュー 海外
No.151 ツネヅカ ティエリ様(CLC Montreal Language School) 前編:日本語教育も日々進化
No.151 ツネヅカ ティエリ様(CLC Montreal Language School) 前編:日本語教育も日々進化

 

カナダのモントリオールにあるCLC Montreal Language Schoolにて、日本語教師のティエリ先生にインタビュー!

 

‘r’の発音の苦労

 

中:本日はよろしくお願いいたします。

 

ティエリ:こちらこそ。

 

 

中:まずお名前を教えていただけますか。

 

ティエリ:ツネヅカティエリと申します。

 

中:こちらで何年ぐらい日本語を教えていらっしゃいますか。

 

ティエリ:2年半ほどです。

 

中:どのようにして日本語を習得されたのでしょうか。

 

ティエリ:私は父がカナダ人で母が日本人です。ですからもともと家庭内では常時日本語で会話をしていました。また小学校低学年までは日本で暮らしておりました。

 

 

中:小学生の低学年まで日本で暮らされ、その後、モントリオールに来られたのですね。

こちらに来られて、文化のギャップのようなものをお感じになりませんでしたか。

 

ティエリ:それは、多々ありました。

一番大きかったのはやはり言葉の問題です。フランス語が全くできなかったもので。

父はもちろんフランス語を話しますが、日本で暮らしていた当時は仕事が忙しく、ほとんど会う機会がありませんでした。

こちらに来てからも「ボンジュール」など、簡単な挨拶をかわすくらいしかできませんでした。9歳前後のことです。

 

 

中:9歳から新たな言語を習得する上で、どういった努力をなさいましたか?

 

ティエリ:妹は年齢が低かっただけに上達が早かったのですが、私は少し苦労しました。

学校でもなかなか友達ができませんでしたし、発音もかなり困難でした。

日本人が外国語を学ぶときに‘r’の発音が難しいと言いますが、私もまさにそれと同じでした。

‘r’や‘v’の発音を直すためにオートフォニスト(発音矯正士)の指導を受けたりしていました。

 

 

日本語の学習熱

 

中:こちらで日本語を学ばれている生徒さんは何人ぐらいいらっしゃいますか。

 

ティエリ:今は約30人です。時期によって若干増減します。

カナダは多文化主義で移民が多いため、当校の生徒も母語がフランス語の方や英語の方はもとより、

その他の言語を母語とされる方もいます。

 

 

中:文化的背景が異なる方々が学ばれているのですね。

バックグランドの違う方々に対して言語を教える上で苦労なさることは何でしょうか。

 

ティエリ:生徒のバックグラウンドによって上達のスピードが異なることだと思います。

例えば母語がフランス語の人に特有の苦手な文法があり「私のペン」と言うべきところを「ペンの私」と間違えがちです。

同じように英語が母語の人特有のミスポイントもあります。

 

 

中:そういった個々のバックグラウンドが関係する特徴を把握することが必要なのですね。

冒頭で先生がおっしゃった、正に日本人の“r”などもそうですね。“rice”を“lice”と言ってしまうなどのように。

フランス語話者の方が日本語を覚える上で最も難しい部分はどのようなことでしょうか。

 

ティエリ:一つはいま申しました語順の問題です。

所有詞が前について「◯◯の××」と言うべき時に、それを逆にしてしまいます。

またフランス語の“h”は基本的に無音のため“h”の発音が困難です。

「はひふへほ」は「あいふえお」のようになってしまいます。

 

 

中:面白いですね。生徒さんのレベルや年齢の幅はどのくらい開いていますか。

 

ティエリ:語学力はビギナーと初中級、インターミディエイトぐらいが主流です。

年齢は幅広く10代から70代までいらっしゃいます。

 

中:70代の方もいらっしゃるのですね、素晴らしいですね!

みなさん何を目的に日本語を学ばれているのでしょうか。

 

ティエリ:年齢によってモチベーションは異なります。

年配の方ですと「日本文学に興味がある」とか「日本料理が好きで」という方がいらっしゃいます。

 

 

一方、若い方ではやはり日本のアニメやJ-POPが好きな方が多く、レッスンでもサブカル系の話がメインになることがあります。

日本のソフトパワーにはいつも感心しています。

モントリオール大学で教鞭をとっている友人によると、

アジア研究科では日本研究を希望する学生が最も多く、次いで韓国、中国だそうです。

日本が国際的に発信しているイメージが、それだけポジティブなのだと感じています。

 

中:みなさんさまざまな理由で日本語を学ばれているのですね。

10代、20代の若い方で、日本で働くために勉強しているという方もいらっしゃいますか?

 

 

ティエリ:もちろんです。今も日本の大学の法学部を目指している16歳の生徒や、

日本で医療関係の仕事に就こうとしている二十歳の生徒がいます。

 

中:そうですか。日本で働くことを目指している方は増えているのでしょうか。

 

ティエリ:実はこれまでにも日本ブームが何年かおきに起きてきました。

ですから日本語学習熱は今に始まったわけではないのですが、生徒の数は年々増えています。

 

 

中:心強いというか、嬉しい言葉です。

ところで、せっかく日本語を学ばれてもカナダでの日常生活ではどうしても母国語を使うことが多いと思います。

そのため徐々に日本語を忘れてしまうのではないでしょうか。

 その辺りのフォローに有効な手法はございませんか。

 

ティエリ:当校では、文法はあまり教えずに、その分、会話に多くの時間をあてています。

文法を説明し始めますと時間がかかりますし、たくさん聞いても混乱して結局忘れてしまうことがありますので。

 

 

アウトプット優先の語学教育

 

ティエリ:仏教に、筏の譬(いかだのたとえ)という説話があります。

弟子たちが「教えをどう考えたらいいか?」と釈迦に尋ねると

「教えというのは筏のようなもの。陸に上がったら後は持ち運ぶのではなく、捨てなくてはいけないのだよ」と諭したという趣旨の説です。

語学の習得もそれに近いのではないかと感じています。

レッスンではもちろん文法も教えますが、文法にとらわれて会話が進まないようでは本末転倒です。

 

 

中:やはり日本人の外国語教育とは少し違いますね。

日本人はどうしても文法から覚えるスタイルが多く、構文はできても会話ができないとよく言われます。

その点、貴校の教育では会話というアウトプットを重視し、

そのアウトプットに適宜インプットを追加するというスタイルを取られているのですね。

 

ティエリ:その通りです。日本語教育も日々進化しています。

最近は、生徒に何かしらの目標を持たせ、レッスンの時間内でそれに到達させるという進め方をしています。

 

 

中:目標達成型のスタイルに切り替わりつつあるのですね。

目標を達成したという満足感をモチベーションに勉強を継続するという素晴らしい方法だと思います。

やはり語学習得には一度始めたら終わりはなく、いかに継続するかが大切なのでしょうか。

 

ティエリ:そう思います。

その点、日本語のクラスは恵まれているのかもしれません。アニメを日本語で楽しみたいとか、

日本の文学を日本語で読みたいといった高いモチベーションを持って学び始める方が多いですから。

仕事で必要だからという理由で始める方が多い英語やフランス語のクラスより、明るく楽しく学んでいけるようです。

 

 

日本人の日本語の特徴

 

中:日本語を伝える、あるいは日本語を教える上で、大切にされている文化的側面はございますか。

日本のこういうところをもっとしっかり伝えたいと思われるような点は、どんなことでしょうか。

 

ティエリ:日本人は良くも悪くも、互いに相手のことを察して強く主張しません。

例えばレッスンで「今日は友達を遊びに誘ってみよう」というテーマを出し、その誘いをどうやって断るかというところで違いが表れます。

教科書に「いや、火曜日はちょっと…」と文が書かれていた時、日本人ならそれだけで「ああ火曜日は都合が悪いのだ」と察します。しかしこちらの人たちは「えっ?‘ちょっと’って‘少し’のこと? どういう意味?」となります。

そういった日本人の微妙なコミュニケーション法を、うまく伝えていけたらと考えています。

 

 

中:なるほど。ところで先ほど「語学教育は進化している」とおっしゃいましたが、

言語そのものも常に同じではなく変化していると思います。

例えば日本語にも新しく生まれてくる言葉があります。

そのような「新語」を先生ご自身はどのようにして吸収されていますか。

 

ティエリ:ほとんどインターネット経由です。

ネット上の新聞に掲載される「最近の流行語紹介」のような記事を読んだり、日本語のスレッドやブログを見て見慣れない言葉を見つけて調べたりしています。

 

 

新しい言葉を見かけたら、それがスラングであっても古語であっても語源や歴史を確認しています。

それが日本語教師としての私のモチベーションにもなっています。

カナダに住んでいると、何もかもが日本とは違いますから、

日本で暮らしている方よりも「日本にはなぜこのような文化があるのだろう?」と興味が湧くのだと思います。

 

後編へ続く

 

Photo by Fumiya Araki

 

 

中 友美
A-LINE株式会社 代表取締役社長 シンカナース編集長
東洋大学文学部国文学科 明治大学大学院グローバルビジネス研究科 経営管理修士(MBA) 日本大学大学院総合社会情報研究科 総合社会文化博士(Ph.D.) ニュージーランド留学 帝京大学医学部附属病院 東十条病院 三井住友銀行 A-LINE株式会社/代表取締役社長 東京医科歯科大学非常勤講師 同志社女子大学嘱託講師 著書『わたしの仕事シリーズ2 看護師』新水社