前編に続き林先生に、病院改革の取り組み、これからの看護師へ期待すること、
医師と看護師の働き方改革の方向性などを語っていただきました。
まず、患者数を増やす
中:病院長ご就任後、初期の重点課題はどのようなことでしたか。
林:とにかく患者数を増やして病院を元気にするという点でした。
そのためには提供する医療内容も見直さないといけないだろうと、かなり乱暴なようですが、
循環器内科医を一挙に5人雇用し体制の活性化を図りました。
また2016年には、地域貢献策を模索する横浜市交通局と病院が連携して
通院に特化した新バス路線を開設しました。
この結果、来院される方の便はとても良くなりました。
その他、脳神経外科の充実を図ったり、リウマチ科を新設したり、さまざまな工夫の積み重ねの効果だと
思いますが、患者数がだいぶ増え、当院の知名度も高くなったように感じています。
中:素晴しい手腕ですね。
林:当院の周辺には大規模病院が多く、地域医療に貢献するためには、
我々も将来を見据えて経営していかなければなりません。
各診療科にもう少し頑張ってもらい、その間に病院の体制を充実させていく方針です。
2年遅れの2025年問題
中:2025年問題が迫りつつあり、疾病構造も大きく変わるようですが、どのような対策をお考えですか。
林:横浜市の高齢化率は日本全国の平均値よりも若干低く、
全国で起こる2025年問題の影響は約2年遅れで来るだろうと言われています。
他地域の状況をじっくり見据える時間はあるわけですが、心臓や脳の血管性疾患が増えることは
予測されていますので、それらをしっかり診ることができる体制を構築しています。
心臓も脳も24時間365日体制を敷いて救急の応需率も増えています。
私が院長に赴任した当時から救急車の年間受け入れ台数は1,500台ほど増え、今は5,000台を超しました。
中:すでに受け入れ台数はかなり増えているのですね。
林:各科の先生方の協力が必要で、ずいぶん無理を言って当直などを担当していただいています。
今は働き方改革の時代ですから、今後は少し考えなくてはいけないと思っています。
看護師の職域を他職種へ、医師の職域を看護師へ
中:今おっしゃった医師の働き方改革に関係があるかもしれませんが、
ここで少し看護師についてお尋ねいたします。
先生がお考えになる看護師像をお聞かせいただけますか。
林:看護師については自分の経験からしか話せませんが、私が長く勤務していた聖隷浜松病院は、
比較的進歩した考え方の看護部でした。
専門看護師のように勉強されている人たちが、
医師とは違う視点でバックアップしてくれる仕組みを「とてもいいな」と思っていました。
私が研修医時代の“看護婦”は医師の「お手伝い」のような存在でしたが、今はもちろんそうでなく、
一つの独立した職種です。
さらに近年、医療に関わる多くの職種の機能が充実してきて、
それぞれが専門性を発揮して働くようになってきました。
このような環境の変化とともに、
これまで看護師が担っていた仕事が他の専門職に移行しているように感じます。
このような流れの中、やはり看護師でなければできない仕事が、今後明確になっていくことでしょう。
それは患者さんの精神的なサポートかもしれませんし、ナースプラクティショナーのような、
より高度なスキルかもしれません。
看護師の職域が徐々に他職種に移行したように、医師の職域の一部を看護師に移行することは、
私は悪くないと思っています。
中:医師、看護師、その他のスタッフによるタスクシフティングですね。
林:異論は当然あると思います。
しかし何から何まで医師がやることに固執する必要はありません。
最近、EBMやクリニカルパスが普及し、ある程度、手順が標準化されてきましたから、
現在医師が行っている手技の一部は医師でなくても行える可能性があるのではないでしょうか。
中:アメリカではナースプラクティショナーにかなり裁量が移譲されているようですが、
どのようにお考えですか。
林:私の専門の耳鼻咽喉科で言えば、例えば「のどが痛い」と訴える患者さんに、
迅速診断キットを用いのどからペニシリン感受性菌が検出された場合に、
体重に見合った用量のペニシリンを処方するという行為が考えられます。
この行為自体は、訓練された優秀な看護師であれば十分に可能だろうと思っています。
応用編にトライするには基礎が必須
中:そうしますと看護師の職域は今後もまだ変化していく可能性はあるということでしょうか。
林:そう思います。
ただ、看護師として基本的な事柄はしっかり身につけておくべきでしょう。
いきなり応用編にトライすると、思わぬ障壁にぶつかるかもしれません。
例えば今、国の方策もあり訪問看護に力を入れる医療機関が増えています。
そのため訪問看護に憧れる若い人が増えるのは無理もないのですが、
看護学校を卒業していきなり訪問看護をするよりも、
最初のうちはある程度の規模の病院でさまざまな経験を経た上で、その領域に進むべきではないでしょうか。
その方が患者さんへより的確なアドバイスができるはずです。
中:さまざまな示唆に富んだお話を伺いました。
ありがとうございます。
最後に貴院の今後へのビジョンをお聞かせいただけますか。
林:現在300床の規模で急性期医療を中心に行っていますが、このまま急性期中心でいくのか
あるいは需要に見合った病床に変えていくのか、現在検討中です。
やはり臨機に判断していくことになります。
ただし、聖隷福祉事業団の理念は大切にし、当院を利用される患者さんのために最高の医療を提供し続け、
未来を志向する姿勢を忘れないようにしていきたいと考えています。
横浜は看護師の自己実現に最適な土地
中:では、看護師に向けてメッセージをお願いいたします。
林:聖隷横浜病院の院長の林です。
当院は、横浜の市街中心部から約4㎞に位置する300床の病院です。
患者さんの多くはご高齢の方です。
スタッフは総勢500人ほどです。
みんな元気が良く、毎日明るく楽しく仕事をしています。
このような当院に、若い方にぜひ来ていただきたいと、いつも考えています。
また横浜は大規模病院が多く、看護師としての自己実現をできる最適な場所だと思いますので、
ぜひ皆さんのお出でをお待ちしています。
どうぞよろしくお願いします。
インタビュー後記
横浜の街を一望出来る素敵な立地にある聖隷横浜病院 。
現在、病院の建物を新築、移転するため施設内には建築中の新病院が目に飛び込んできました。
林先生からは、病院の未来構想を含め、看護師に対しても明るいご示唆をいただいたと感じます。
経営者としての経営安定化というミッションを着実に達成しつつ、
患者さん、地域住民の方々の健康を守るという強い意志のもとで院長職を全うされていらっしゃいました。