No.199 聖隷横浜病院 林泰広 院長 前編:隣人愛の理念のもとに

インタビュー

学生時代には落語研究会に所属されていたという聖隷横浜病院院長の林泰広先生。

院長就任後にはさまざまな問題に対して臨機応変、機知に富んだ対応をされてきたようです。

ご専門の耳鼻咽喉科の魅力についてもお伺いしました。

隣人愛を基盤に

中:今回は聖隷横浜病院、院長の林泰広先生にお話を伺います。

先生、どうぞよろしくお願いいたします。

林:こちらこそよろしくお願いします。

中:まずの貴院の特徴を教えてください。

林:当院は横浜市の中心から少し離れた保土ケ谷にあり、

今年で開設15年を迎えた病床数300の急性期病院です。

聖隷福祉事業団という社会福祉法人を経営母体とし、キリスト教精神の「隣人愛」を基盤に、

良質な医療の提供と地元への貢献を目指して運営しています。

中:ありがとうございます。

病院運営については後ほど、より詳しくお聞かせいただきます。

その前に、先生が医師になられた経緯をお聞かせいただけますか。

林:医師になろうと思ったのは四十数年前、中学生の頃のことです。

当時は深刻な医師不足で、日本各地で無医村の存在が問題になっていました。

そのような問題を解決する力になりたいと思ったことが、医師を目指したきっかけでした。

落語研究会に没頭

中:医学生時代はどのよう過ごされましたか。

林:山登りと落語の練習に夢中になっていて、あまり勉強しませんでした。

落語は中学生の頃から好きでだいぶ聞いていたのですが、大学で落語研究会に入りますと

自分以上に詳しい人がいて「人生のラクゴ者です」などと頓知を言うのには驚きました。

中:医学部の勉強に加えてスポーツや文化部の活動も両立されていたのですね。

林:私の大学時代は部活に打ち込んでいる友人が多くいました。

今の学生は、習得すべきことの量が本当に増えて、少しかわいそうだと思っています。

耳鼻咽喉科は老若男女を診ることができる

中:先生は耳鼻咽喉科がご専門とのことですが、どのように専門領域を選ばれたのでしょうか。

林:いろいろ気移りはあったのですが、最終的に

小さなお子さんから高齢者まで老若男女を診られる科を選びました。

また当時、罹患率が急速に増加し治療法も未発達だった、がんの診療に携わりたいという思いもありました。

中:実際に耳鼻咽喉科に進まれて、どのような魅力を感じられましたか。

林:私が耳鼻咽喉科医になった頃、耳鼻咽喉科領域のがんは治療法が確立しておらず、

ある意味、黎明期にあったと思います。

その黎明期から徐々に進歩して行く中を歩ませていただき、本当に面白かったと感じています。

QOL重視の草分け

中:少し具体的にお聞かせください。

林:私が医師になった当時はまだQOLという言葉がほとんど使われていませんでした。

しかし耳鼻咽喉科は感覚器やコミュニケーションをあずかる領域で、治療結果がQOLに影響します。

そのため、がん治療の際にも、以前から手術、抗がん剤、放射線を組み合わせて、

できる限り機能を保存しながら治すことを絶えず検討していました。

例えば、進行した喉頭がんでは今でも喉頭を取るので、命と引き換えに声を失います。

この問題に対して「喉頭を取らなくても良い治療法はないか」という考え方もありますし

「喉頭を取っても話せる方法はないか」という考え方もあります。

どちらの方法も現在に至るまで少しずつ進歩してきました。

また下咽頭がんでは進行例が多く、喉頭を含めて下咽頭、食道の一部まで切除しますが、その大きな

欠損部分を覆うために、前胸壁の皮膚や大胸筋皮弁などをはじめ、さまざまな再建方法に挑戦してきました。

現在では遊離小腸を用いた再建が標準的に行われています。

がん以外でも、難聴のお子さんへの対応もさまざまな工夫を重ねてきました。

中:難聴に対して現在は人工内耳も治療選択肢になりますね。

林:小児の難聴ではとにかく早期発見が重要です。

難聴児の親御さんには状況をよく理解してもらい、補聴器を利用して早期療育に結びつけます。

現在では人工内耳が普及していますが、聾教育の重要性は失われていません。

また、小児難聴児の補聴器装用のための経済的な助成制度の制定を求めて、

行政と交渉するお手伝いをしたこともあります。

臨機応変の運営

中:興味深いお話をお聞かせいただき、ありがとうございます。

次に病院長ご就任後のことをお尋ねします。

先生が病院経営や運営を進める上で大切にされているスタイルはございますか。

林:病院長就任の打診があった頃の当院は、まとまりに欠けていた部分があり、

修正の必要性を痛感しました。

ただし、今のご質問で「スタイル」という言葉を使われましたが、

私には組織運営上の得意なスタイルはありません。

そこで状況をよく観察して臨機応変にどうにかしようと考えていました。

そのとき思いついたのが、先ほど申しました当院の母体である聖隷福祉事業団の理念である「隣人愛」です。

この理念をそのまま生かして

「私たちは、隣人愛の精神のもと、安全で良質な医療を提供し、地域に貢献し続けます」という

病院理念を到達目標としてとにかく目指していこうと、毎日のようにスタッフに働きかけることにしました。

臨機応変と言いますと行き当たりばったりのように聞こえるかもしれません。

しかし常に状況を見渡して、その都度アドホックと申しますか、

重点課題を絞って改善を繰り返すという手法をとってきました。

後編に続く

Interview Team