No.173 病院長 相馬正義様(杏雲堂病院)前編:御茶ノ水という立地を味方に

インタビュー

今回は佐々木研究所附属 杏雲堂病院の相馬先生に、大学病院に囲まれた立地で病院の魅力を

生かすための施策などをお聞かせいただきました。

 

大学病院が密集する地域

中:今回は東京、御茶ノ水にある杏雲堂病院、病院長の相馬正義先生にお話を伺います。

先生、どうぞよろしくお願い致します。

相馬:よろしくお願いします。

中:まず、貴院の特徴を教えていただけますか。

相馬:一番の特徴は近隣に特定機能病院の大学病院が密集していることです。

そのような環境の中で、当院も急性期医療を手がけていますが、

方向性としては地域に密着したケアミックス型の病院を指向しています。

中:急性期専門ではなく、回復期のニーズにも応えていくということでしょうか。

相馬:当院の運営母体は癌研究で歴史のある佐々木研究所です。

ただし現在、高度な癌治療は周辺の大学病院の守備範囲で、当院は緩和ケアの受け入れを企図しています。

そこで今年の4月、20床の緩和ケア病棟を立ち上げました。

今後、このようなニーズが増えていくだろうと予測しています。

また、昨年は40床の地域包括ケア病棟を開設しました。

今でも主体は急性期病棟ではあるものの、このように多様な病床をミックスした形で

病院を発展させていこうとしている段階です。

中:院内を拝見させていただいたところ、リハビリのスペースが広く、

スタッフの数も充実しているように感じました。

相馬:リハビリにも力を入れています。

主に、近隣の大学病院に入院されリハビリが必要な状態で退院される方が、当院へ転院してこられます。

中:御茶ノ水という立地が病院経営にかなり関係しているのですね。

相馬:大学病院に囲まれているということのほか、この地域は将来的に日本で最後まで

人口が減らないと予測されています。高齢化は進みますが人口は減らないというかなり特殊な場所です。

中:外国人の患者さんも多いのではないでしょうか。

相馬:中国の方は増えてきましたね。

日本人の通訳では診療がスムーズにいかないこともありますので、中国人の通訳者を配置すべきかどうか、

現在検討中です。

医療インバウンドに応えるという政府の方針もあり、かつ当地は日本の中心ですから、

ぜひ協力していきたいところです。

医学部卒業直後に結婚

中:では続けて先生ご自身のことについてお尋ねしたいのですが、まず、

医学生時代のエピソードなどをお聞かせください。

相馬:学生時代は学問自体を面白いと感じていました。

勉強の合間に時間ができれば読書に熱中したりと、生活は充実していました。

ただ、エピソードと言えば、今の家内と知り合ったことが一番大きな出来事ですね。

中:奥様と同じ大学に通われていたのですか。

相馬:大学は違います。

学生時代に知り合い、卒業後のフレッシュマンの時期に結婚しました。

中:素敵なお話ですね。

先生が卒業された当時は、ご卒業前に専門領域を決めていらっしゃったと思うのですが、

どのようにご専門を選ばれたのでしょうか?

相馬:2年生の終わりの頃に急性腎炎で入院したことがあるのです。

それがきっかけで「腎臓でもやろうか」と思い、第2内科に入局しました。

腎臓内科から内分泌内科へ

中:ご自身のご病気の体験がきっかけで腎臓内科からスタートされたのですね。

相馬:最初は腎臓が専門なのですが、ある副腎皮質癌の患者さんを診たことを契機に、

次第に興味の対象が変わっていきました。

副腎皮質癌は稀なタイプの癌で、クッシング症候群という内分泌疾患を呈してきます。

その患者さんは、小さなお子さまがいる30代の女性でした。

私は内分泌科のドクターに相談しながら、

当時の新薬や治験中の薬剤などを駆使して治療にあたっていました。

その経験を端緒に、次第に内分泌領域に魅力を感じるようになり、内分泌を専門とすることにしました。

中:そうでしたか。

内科、特に内分泌内科のどういった点を面白いと思われたのですか。

相馬: 内科の面白さを一言で表現するのは難しいのですが、

例えば、疾患が悪化する前に手を打つことが、外科にはない特徴だと思います。

患者さんを診た時に、その時点で把握し得た情報をもとに将来を予測することが、

内科医として非常に重要です。

診て予測を立てられることがプロだと思います。

私自身は、内分泌の側面から高血圧にアプローチすることに興味をもち、それを研究テーマとしてきました。

医師のプロフェッショナル

中:予後予測の正確性という能力が、医療の中で最も必要とされるのはどのような場面でしょう。

相馬:例えば、ある患者さんが入院されたときに「私が主治医です」と患者さんに会いますね。

その時、患者さんが最も不安に感じていることは

「自分はどうなるのだろう。いつ退院できるだろう」ということのはずです。

その不安と疑問に的確に答えられるようになれば、プロだということです。

それを可能とするための能力を常に磨いていくことを、私は非常に面白いと感じています。

中:予後を予測する能力というお話は今まであまり伺ったことがなかったもので、

たいへん興味深く拝聴しました。

ところで先生は臨床医としてそのような経験を重ねられた後、今は病院長の任を務められています。

病院長になられた背景をお聞かせください。

相馬:今年3月で日大板橋病院の総合内科の教授を定年になり、4月から当院の院長として赴任しました。

大学勤務時代の学問も非常に楽しかったのですが、病院経営もまた面白いのではないか思い、

お引き受けしました。

 

チャレンジする楽しさ

中:臨床医と病院長では、職務や責務に大きな違いがあるかと思います。

その違いを面白いと思われたとのことですから、先生は新しいことに抵抗を感じずチャレンジを楽しまれる

タイプなのでしょうか。

相馬:そうかもしれません。

人と会うのも楽しいですから。

今もいろいろな所へ顔を出すようにしています。

病院の中だけでは人脈が限られてしまいますので。

65年間このように生きてくると、意外な情報やチャンスに出会うことがあり、何かと‘得’です。

新しい人と会ったりミーティングに出席することは苦になりません。

後編に続く

Interview Team