No.172 病院長 関根信夫様(JCHO東京新宿メディカルセンター)後編:病院全体で取り組むチーム医療

インタビュー

前編に続き、特色あるチーム医療「糖尿病診療チーム」についてや、

全人的医療における看護師の役割などをお話しいただきました。

チーム力をパワーに

中:先生のマネジメントに対するお考えが非常に面白く、もう少しお聞かせください。

組織を横に見ますと、部門ごとに強い部分や弱い部分が見えてくるかと思います。

それをミックスして一つのかたちに作り上げパワーに変えていくには

ビジョンのようなものか必要かと思いますが、いかがでしょうか。

関根:例えば多くの患者さんが集まる「名医」または「カリスマ医」と呼ばれる医師がいたとします。

しかし当然ですが、一つの病院にそのような「名医」ばかりが揃うわけではありません。

もちろん医療を行うためには、医師ひとりの力では不可能で、様々な医療スタッフの補助が必要です。

だからこそ、当院では先ほど申しましたように、

単科ごとでなく多職種がチームとなって総合力を発揮できるような体制を作っています。

「名医」は永遠に勤めてくれるわけではなく、異動や引退もあるわけですしね。

チーム医療の利点は、患者さんの立場になって考えると、よく理解していただけると思います。

自分が治療してもらう時、診てもらいたいのはその疾患の専門科だけではないことが少なくありません。

主訴以外の症状のために他科の医師に診察をしてもらうこともありますし、

医師だけでなくさまざまな職種の方に助けていただきたかなければなりません。

また高齢であれば介護・福祉のニーズもあります。

ですから病院には、そのような機能をできるだけ多く備えていることが必要で、

当院としてはそれを強みに変えていくことが、今後目指すべき方向性だと考えています。

中:その方向性を貴院ではどのように具体化されていらっしゃいますか。

全てにおいてオールマイティに優れるのは無理ですので、

ある程度限られた部門での充実を図るべきなのでしょう。

当院では、先ほどご紹介したように脳血管障害の超急性期から回復期の医療を充実させています。

また、整形外科部門では運動器を中心とする整形外科とともに

脊椎脊髄外科/脊椎脊髄センターも開設しています。

いずれも高齢化社会のニーズに十分対応しうるものだと思いますが、特にそのような分野では力を発揮していきたいと思います。

いずれにしても、疾患を一診療科に限るのではなく、

多診療科・多職種でトータルに診ていくことを、病院としての戦略としています。

看護師中心の糖尿病診療チーム

中:そのような先生のお考えを院内のスタッフや組織に、どのように浸透させていらっしゃいますか。

関根:私の専門である糖尿病を例にお話しします。

現在、多くの病院で、医療安全や感染制御(ICT)、栄養管理サポート(NST)など

色々なチームが病棟横断的にラウンド(回診)をしていると思います。

最近では高齢化に伴う誤嚥性肺炎の増加に伴い、摂食・嚥下サポートについても

同様の活動をされている病院も少なくなく、当院もその一つです。

当院ではこれらに加え、糖尿病の管理についても同じようにラウンドしているのです。

おそらく他院ではまだほとんど行われていないのではないでしょうか。

と言いますのは、これは私が当院に就任した約10年前に、当院オリジナルの発想で

始めた取り組みだからです。

このラウンドの中心は、実は医師ではなく、看護師、特に認定看護師です。

中:看護師が中心となり入院患者さんの糖尿病を管理されているのでしょうか。

もちろん、いわゆる診療責任は医師が持ちますが、

チームをまとめて活動をマネジメントする中心は認定看護師です。

少なくとも当院では、糖尿病だけでなく全てのラウンドにおいて、

それぞれの専門的知識を持つ看護師が中心となって活動しています。

なぜ認定看護師が中心かというと、ラウンドで病棟に回った時に、連携して業務を行う対象が、

実は病棟看護師だからです。

一般的には、何かしらの疾患で入院した患者さんに糖尿病が見つかると、

その管理は専門医に往診を依頼します。

往診を依頼するということは、その時点から糖尿病の診療については専門医に任せてしまう、

言い替えれば自分はそれ以上関わらない、ということになります。

でも、糖尿病患者さんのケアに関わるのは病棟看護師の仕事であり、他者に任せるわけにはいきませんよね。

ある病棟、例えば外科系の病棟に糖尿病の患者さんが入院されたら、糖尿病診療チームは

病棟看護師から得られた情報をもとにアセスメントを行い、糖尿病の管理方針を決めます。

主治医とも連絡はとりますが、ある意味、

それ以上に病棟看護師と連携を密にとり合って糖尿病ケアを進めていくことになるのです。

糖尿病専門チーム内だけでなく、これこそが入院治療における真のチーム医療のあり方だと考えています。

ラウンドを始めてから既に10年になりますので、この活動は当院では完全に根付いています。

他院にはない活動かもしれませんが、当院看護師は

糖尿病ラウンドは‘あって当たり前’と思っているのではないでしょうか(笑)。

中:一般的な方法だけにとらわれず、オリジナルな活動も含めて、組織横断的に運営されているのですね。

関根:一般的な糖尿病のチーム医療というのは、

専門職者が集まった一つのチームが糖尿病の診療をするスタイルです。

それでは院内全体を見渡せず、自分たちの前にいる患者さんしか診ることができません。

「組織横断的」というのはそれと異なり、病棟看護師を自分たちの活動に巻き込んでいく活動です。

NSTや嚥下サポートも同様です。

このような活動を通して、自分たちも多くの情報を得られるなど色々なメリットがありますし、

病棟看護師はそれぞれのスキルを発揮し、積極的に患者のケアにかかわれるのです。

全人的医療に必要な看護師のスキルアップ

中:先生がこれからの看護師に求める「進化したかたち」は、どのようなものでしょうか。

関根:一つの方向性は看護師のスキルアップです。

看護師の特定行為の範囲はさらに拡大するでしょうし、

NP(Nurse Practitioner)導入の議論も活発になるでしょう。

その背景には、医師の働き方改革などの問題もあると思いますが、それは別にしても、

やはり看護の質を向上させることは高齢化社会において、より一層求められることと思います。

ただ、単に「看護師のスキルアップを」というのではなく、

チーム医療の中でより重要な役割を果たしていくことが求められるのではないでしょうか。

中:今までどおりではなく、一歩上の技術と知識を磨きながら、

医療全体を医師と一緒に組み立てていくっていうようなスタイルが求められているのですね。

関根:看護師がスキルアップして今まで医師がやっていたことを看護師がやるということですと、

ただ単に仕事の担い手を移しただけの話になってしまいます。

理想的には、それと同時に、いわゆる医療の質の向上につなげられるべきだと考えます。

医療の質向上のためには、おそらく看護師のスキルだけを上げるだけでは十分とは言えないでしょう。

例えば、チーム医療をさらに促進する結果につながることが期待される効果です。

我々医師は、患者さんに接する時に「人」よりも「病気」を見てしまいがちです。

しかし、いわゆる全人的な医療の実践のためには、

患者さんの家庭環境や社会的背景までをも把握していなければなりません。

そういった情報を得るのに最も適した人は、やはり看護師です。

あらゆる読書は勉強になる

中:ありがとうございます。

非常に力強いメッセージをいただいていると思います。

ここで、先生のご趣味についてお聞かせいただけますか。

関根:時間ができた時は音楽鑑賞や読書をします。

読書のスタイルは乱読で、ひところはミステリーに凝っていましたが、

最近では、マネジメントに関わっているせいでしょうか、歴史物やビジネス関係も読みます。

でも、時には全く関係のない分野、たとえば昆虫の本を読んだりします。

虫は決して好きではないのですが「虫を好きな人は何故、虫のどういうところが好きなのだろう?」

という疑問が、本を読むとわかってきます。

人が興味を持つ、好奇心を持つ、それ自体も面白いことですよね。

どんな本を読んでも、結局は人間あるいは自然について勉強することではないか、と感じています。

中:素晴しいお考えですね。

関根:いえいえ。

実はいま看護学校の校長も務めていまして、

入学式や卒業式、戴帽式などで式辞を話さなければならないのです。

糖尿病の話ならいくらでも話せるのですが、式辞はそうはいきません。

色々な本から、ネタになりそうなものを拾い集めているんですよ。

 

看護師へのメッセージ

中:最後に看護師に向けてメッセージをお願いします。

関根:当院では、チーム医療を大事に考えています。

いろいろなチーム医療がありますが、その中でも、やはり看護師さんの役割というのを大きく考えています。

ぜひ当院に来ていただき、一緒に仕事をしていただければと思います。

よろしくお願いします。

シンカナース編集長インタビュー後記

関根先生は爽やかな笑顔で、沢山のポジティブなメッセージをくださいました。

看護師に対しても温かい目で成長や進化を期待してくださっていると感じました。

先生は、医師の役割や得意とすることと、看護師の役割や得意とすることは違っていながらも、それをお互い切磋琢磨することで

「全人的な医療の実践」が行えるとお考えでした。

患者さんや家族のほうを見て、看護を行った結果、より患者さんのニーズを看護師が拾い上げることも可能です。

それを医師にフィードバックすることで、より患者さんに合った医療が提供できる。

そんな信頼関係を医師、看護師が今以上に作り上げることが出来ることを願っています。

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