No.174 村田千幸様(荏原病院)前編「患者さんの意思決定を支える説明力」   

インタビュー

今回は荏原病の看護部長、村田千幸様(※2020年10月現在はご退職なされています)にインタビューをさせていただきました。

村田看護部長の手腕と魅力に迫ります。

父の入院

看護師になったきっかけを教えてください。

村田:私が子どもの頃、父が病弱でよく入院することがあり、

面会のため病院を訪れると、父に優しく接している看護師の姿をしばしば目にしていました。

看護師に喀痰吸引をしてもらった後など、父は楽になったためか、とても穏やかな表情をしていました。

その様子を見て「人の苦痛を取り除くことができる仕事って素晴らしい」と思い、

迷いなく「自分も看護師になろう」と決めました。

また、祖母が昔の言葉で言うところの付き添い婦あるいは看護補助者として働いていて、

常々「看護の仕事は良いよ」と聞かされていたのも意識の根底にあったと思います。

この記憶が中学生の頃のことです。

地元を離れて看護学校に進み、看護師になりました。

最初の就職先はどのように決められましたか。

村田:看護学校が都立でしたので、都立病院に就職しました。

私は当時から医療は公平であることがとても大事だという信念がありまして、

公立病院なら患者さんに対しても職員に対しても公平性を大切にしているのではないかと考えたことも、

都立病院に勤めた理由の一つです。

8回の転勤

働かれてみて、実際はどうでしたか。

村田:イメージ通りで働きやすかったです。

主任になった時や師長になった時などの節目や病院の建て替えのタイミングなどで、

都立病院内での転勤があり、これまで8回転勤しました。

では、さまざまな診療科を経験されてきたのですね。

村田:最初は小児科でした。

当時は今より子どもがたくさんいて、ベッドが常に満床でした。

ご苦労がおありでしたか。

村田:楽しかった記憶が多いです。

もっとも私の場合、過去はすべて楽しい思い出になりますから。

ただ、小児科は本当に楽しかったような気がします。

小児科の次は救急外来に勤めました。

小児科とはガラッと異なる雰囲気でした。

救急外来ですと、一人の患者さんを長く看護するということは少ないですね。

村田:確かに救急外来の看護は入院につなげるまでの短時間で終了し、

患者さんが入院後にどのような経過をたどったのか、あまり把握できません。

当時は電子カルテもありませんから「あの患者さん、あの後どうなったかな」と気になることも

しばしばありました。

一方で毎日さまざまな疾患や治療を知ることができ、勉強になりました。

救急外来に勤めた後は、内科やICU、精神科などに勤務しました。

病院も総合病院や小児科専門病院などいろいろありました。

真の理解につなげる説明力

いろいろお勤めされる中で常に大事にされてきたことは、先ほどおっしゃった公平性でしょうか。

村田:大事にしていたことは説明力です。

患者さんに対する説明は、看護師にかかっているからです。

少し詳しくお聞かせください。

村田:一般に、患者さんがもっている情報と、私たちがもっている情報の量が違いすぎます。

この状態は良くありません。

おっしゃるように、公平性とも少し関係するかしれません。

病気の予後や治療の副作用、手術の合併症について、

患者さんはほとんど理解されていない状態で、医療者が「どうしますか?」と尋ねることがありますが

「それなはいでしょ」と私は思います。

そのギャップを埋めるのは、やはり看護師の説明力です。

私が看護師になった後の父の入院時の話です。

術後にMRSAに感染したらしく、医師から説明を受けたものの全然理解できず、

それでも「どうやら自分の状態は良くないらしい」とわかったようなのです。

そして私が枕元に呼ばれ「自分の身体に何が起きているのだろう」と尋ねられました。

浸出液を吸収するために傷口にガーゼが入れられていたのですが、

それもなぜされているのかもわかっていませんでした。

お父様は不安だったでしょうね。

村田:私たちがふだん使っている言葉で患者さんに説明しても、ほとんど伝わりません。

「患者さんがわかる言葉で説明できているだろうか」。

日頃、この反省を繰り返しています。

説明力は私にとって永遠のテーマです。

意思決定支援

それはいま看護部長としての取り組みにも関係していますか。

村田:いろいろな場面で患者さんの意思決定の支援を強化していきたいと思っています。

いま高齢の患者さんが増えていますが、高齢者の場合、完全な治癒を望めないことも多く、

治療方法や、退院後の生活を視野に入れた選択をしなければならない場面が多くあります。

また、高齢の方は、例えばがんと聞くと即、死を考える傾向があり、慎重に説明しなければ

必要な治療をも差し控える判断につながりかねず、注意が必要です。

このような患者さんの意思決定支援を病院全体で進めていきたいと考えています。

院内の会議や研修でそういったことをスタッフにお話しになられるのですね。

村田:私が話をしますと、みなさん頷いてはくれます。

しかし現場からは「どこまで治療すべきか、ご本人やご家族の考えがいま一つ分からない」と相談されます。

そういう時こそ、最も説明力が求められるシーンなのですが。

ご家族の意思と患者さんの意思が違う時もあります。そんな時はどうされるのでしょうか。

村田:ご家族に「その選択はご本人が望まれていることですか」と確認します。

治癒を望めない場合、ご家族はどのような結果になっても、必ず多少後悔されるものです。

「あの時、別の方法を選択していれば、もう少し良い結果になったのではないか」と。

どんな結果になっても最も後悔が少ない方法は、やはり

「本人の意思でこの治療法を選んだのだ」と、ご家族が信じられることだと思います。

後編へ続く