前編に続き、医療安全への取り組みや病院建て替えプランなどをお聞かせいただきました。
ミスがなく間違いを起こさない人間はいない
中:医療安全についてもう少しお聞かせください。
先生が医療安全を重要課題とされ、院内へ定着させていこうとされる背景は、
どのようなことでしょうか。
池田:人は事故やミスを必ず犯すものだからです。
「それは仕方がないだろう」という声も確かにあります。
しかしその危険を少しでも回避する、頻度、影響を少しでも減らさなければ、
場合によっては患者さんの命に関わります。
病院としてはしっかり脇を締めていかなければいけません。
具体策として、院内のインシデントは毎日のように報告を受けています。
リスクが高いと思われるものは情報をオープンにし、
全員で実効性のある改善策を検討しています。
中:そのように情報の風通しが良い環境を維持するには、
職員同士の良い雰囲気を醸成することも必要かと思いますが。
池田:そうですね。
当院では我々医師だけでなく、
必ず他の職種のスタッフからも報告を上げてもらうようにしています。
例えば、医師が「この程度は大丈夫だろう」と思っても、他の人から見て
「これは報告しておきましょう」と言えば、リスクマネジメント会議に上がってきます。
中:何か起きても、また次に同じようなことは起こさないという、
学び続けるオープンな組織作りをされているのですね。
池田:先ほど申しましたように、
ミスがなく間違いを起こさない人間はいないはずですから。
中:先生はいま左腕に「手指衛生推進スタッフ」と書かれた腕章をされていますが、
それも医療安全の一貫でしょうか。
池田:これもそうです。
感染制御も医療安全の一つです。職員には常に手洗いをするように指導しています。
中:院長のお立場にある方が腕章をしている姿を初めて見ました。
池田:実は、あまり格好いいとは思わないのですが、
私も腕章をすることで、職員全員の意識を高められると考えました。
患者さんと、職員と、病院
中:先生が病院長になられたときに
「こういった病院作りをしていこう」といったご決意はございましたか。
池田:一つは働いている人たちが、
やりがいと生きがいを感じられるような環境作りをしなくてはいけないと思いました。
もちろん患者さんが第一です。
Patient first、そして次が職員ファーストです。
そして三番目が病院です。
最初に申しましたように、当院は開設から38年たっていますので、
新しい病院に建て替える時期だと考えています。
それには当然、経営が伴っていないといけません。
そこでプライオリティとしては、患者さん、職員、病院という順に位置付けています。
中:少し話題を変えまして、看護師についてお伺いいたします。
先生が今後、看護師はこのようになってもらいたいという希望はございますか。
池田:常に思っていることが一つあります。
それは、やはり患者さんに寄り添い、患者さんの痛みがわかる看護師に、
まずなってほしいということです。
もちろん、ある程度の高い専門知識もないと、それこそ先ほどの話ではないですが、
インシデントのリスクを増やしてしまいますので、
大変ですけれども学習を怠らずに続けていただきたいです。
楽をしたら高い境地を目指し得ない
中:ありがとうございます。
お話の中で、病院の建て替え構想がおありとのことでしたが、
2025年を控え医療環境が変化し、
地域における病院の立ち位置も変わってくるのではないかと思います。
先生がお考えになる2025年対策をお聞かせください。
池田:今おっしゃったように2025年に向けて人口構成が大きく変わってくるでしょう。
この南多摩医療圏においても、高齢化は止むことなく進んでいます。
その中で、救命救急センターを備え、大学の附属病院として高度急性期医療を
提供している当院は、より周辺医療機関と連携を強固にしていき、
急性期を乗り越えた患者さんが一人でも多くご自宅に戻れるような体制を築くことが
理想だと考えています。
中:先ほど、これからの看護師には患者さんに対する愛情とともに、
高度な知識が求められるというお話をいただきました。
2025年問題との関連で、もう少しアドバイスをいただけるとありがたいのですが。
池田:具体的なアドバイスはなかなか難しいですか、
若いうちにありとあらゆるものを広く経験していただければと思います。
それは恐らく、忙しい病院であればあるほど困難なことでしょう。
しかし、一度楽をしてしまったら、それ以上のことをもう望まなくなってしまいます。
若いうちは辛くても多くのことを経験したほうが良いと思います。
中:新しいことにチャレンジすることを拒まずに、
続けて行いくことが必要ということですね。
池田:いろいろなことに興味をもっていただくことが重要だと思います。
4時半起きで弁当作りとジム通い
中:ありがとうございます。
先生のご趣味についてお伺いしたいのですが。
池田:今はジム通いをしています。
週2回、朝6時に始めます。
料理も得意で、自分で弁当を作り持ってきて、学生と一緒に食べています。
今日もこのインタビューの後、学生と食べます。
朝食も作るので、朝は4時半起きです。
中:院長としてお仕事をされながら、お身体もきちんとメンテナンスされ、
家事もされ、素晴らしいですね。
では先生、最後に看護師へ向けてメッセージをいただけますでしょうか。
池田:当院は都心から電車で30分、都会の雰囲気もありながら、
周辺は緑に囲まれた自然豊かな場所にあり、働く環境は非常に良いと考えています。
実際に多数の研修医が我々の病院に応募してきます。
看護師さんへのメッセージとしては、先ほど申しましたように
当院は急性期病院であり、いろいろな重症患者さんを看てケアできる病院ですから、
とても充実した職場になるのではないかと思います。
興味のある看護師さんがいらっしゃったら、ぜひ来てください。
チーム医療を大切にする病院でもありますので、
我々の仲間になっていただければと思います。
よろしくお願いいたします。
インタビュー後記
麻酔科医療の変遷や、医療職を繋ぐブリッジ的な役割など興味深いお話しでした。
麻酔科医のお仕事は看護師にとっても、手術室勤務や外来勤務以外だと中々知り得ない分野かもしれません。
それが故に、とても良いチャンスをいただいたと感じています。
麻酔科として、手術室での連携を行うことも、
ペインクリニックで疼痛コントロールを行うことも池田先生にとって、
患者さんを中心に考えることに変わりはないとのことでした。
これは、病院長となった今も常に意識されていることでもあるようですが、
一方でスタッフのことも同様に大切にされている。
それもまさに麻酔科医としての一部なのかなという気がしました。
トップでありながら医療職、そして患者さんとのブリッジをされる池田先生から、
人を大切にすること、職位におごらず謙虚である姿勢を学ばせて頂きました。