前編に続き、経営改善及び組織に対するお考えなどを伺いました。
CSとESを高めて戦略的目標を目指す
院長になられて、新しくとり入れられた施策はございますか。
亀山:CS(顧客満足)やES(従業員満足)を意識するようになりました。
病院において最大の顧客は患者さんであり、CSを高めるためには従業員である医師、看護師、コメディカルの満足度も高める必要があります。
その結果として、患者さんに選ばれる病院になり、医療者の友達や後輩が「この病院いいよ」と推薦されて、一緒に働いてくれるような病院にしたいと常々考えています。
施策の内容をより具体的に述べますと、医療の質の改善と医療安全のために、JCI(Joint Commission International)の審査をパスすることと、他にも第三者機関による各種の評価を受けること、そして経営の立て直しが挙げられます。
このうち病院経営の改善という点では、2014年にDPC算定病院になって以降、救急応需率、紹介率・逆紹介率の向上、新入院患者数増、手術件数増等のKPI(key performance indicator)を設定して、総合的な取り組みを推進しています。
今後より重要となる改善のポイントはどのようなことでしょうか。
亀山:5年ほどかけて、さらに改善を推し進めていくべく戦略的中期目標を立てています。
柱は四つあり、一つは高度急性期医療を担う急性期病院としての機能の充実です。
二つ目は低侵襲治療を売りにしたがん治療の充実。
当院は、がんの地域連携拠点病院であり、この4月からは東大グループの中のがんゲノム医療連携病院の一つにもなっています。
三つ目は医療連携、そして四つ目は国際化対策です。
国際化対策については、当院が位置する品川区には在留外国人が多いことや、オリンピックやパラリンピックを目前に控えていることから、今後より重要になると考えています。
また、主に東南アジア系の富裕層のインバウンド需要への対応もポイントです。
既に、院内の掲示板を多言語にし、海外からの渡航者の受診を推奨しているJIH(Japan International Hospitals)の認証を受けるなど、ハード・ソフト両面での対応を進めています。
四つの柱の土台は医療安全と財務基盤
亀山:以上四つが中期目標の柱です。
しかし、これらの柱を支える土台は、やはり医療の質と安全、そして健全なる財務基盤です。
財務基盤をしっかりしなければ人材への投資もできませんし、高額な医療器械への投資もできません。
人材育成の一例を挙げますと、医療者のコーチングやチーム医療のコミュニケショーン力を養成するための各種研修会があります。
その企画には様々な手間暇がかかります。
さらに、その企画が果たして病院にどの程度の効果を生み出したかを評価するのには、さらに時間を要します。おそらく年単位の時間がかかるでしょう。
その時間とコストを惜しむことなくかけ、教育や研修を続けていかなければいけません。
経営という面では近年、KPIの達成が重視されますが、私はそれよりも、このような四本柱を支える土台が何よりも大切だと考えています。
しかし実際のところ、質と安全の確保の重要性を職員全員に理解してもらうことは、なかなか難しいと感じています。
医療における品質改善の必要性をいかに皆さんに理解してもらい推進していくか、今はそこに力を注いでいるところです。
職員の中で最大数を占める看護師に対しては、医療の質と安全、財政基盤の重要性をどのように伝えていますか。
亀山:現在、医師が200人ぐらいで、一方、ナースは720人ぐらいで職員数は最大勢力ですが、組織の改善はもちろん看護師だけでできることではなく、医師の参加は不可欠です。
先ほど申しましたJCIの審査をパスするための努力をはじめとするここ数年の歳月を経て、安全を尊重する文化や改善のための工夫が、院内に徐々に培われてきました。
当初、そのような意識を持っているのは看護長クラスに限られていましたが、最近は主任クラスにまで浸透してきたと感じています。
この変化をもう少し、各部署、スタッフまでに押し広げられればと考えています。
2020年にJCI の4回目の審査を受けるのですが、ハードルはそれほど高くないと感じています。
組織を愛する人こそが、組織にとって大切
先生のご趣味についてお聞かせください。
亀山:本をよく読みます。
佐伯泰英さんの時代小説のようなジャンルが好きで、読むことで気分をリフレッシュしストレスを解消する手段になっています。
旅行や山登りも好きで、今も行きたいと思うのですが、当院は災害拠点病院でもあるため万一へ備え、あまり遠方に行くことが難しいのです。
国内の学会参加もほとんど日帰りです。
短い時間でのストレス解消がお得意なのですね。
亀山:嫌なことは引きずらないように気をつけています。
院長という立場上、生産的ではない意見や批判を受けることもあります。
そのような時には組織を愛する人こそが組織にとって大切な人だと考えています。
看護師へのメッセージ
亀山:これからは、超少子高齢社会という非常に難しい時代になろうとしています。
看護師の皆さんの役割も、おそらく激変するのではないでしょうか。
専門性を高めることは非常に大切ではありますが、やはり、社会的な視野をもって活動していただきたいと思います。
現状では、病院に勤務される看護師が60%、クリニックで勤務される方が20%ぐらいを占めています。
これからの医療介護連携と言われている時代において、地域における皆さんの役割が非常に期待されます。
病院にお勤めになっている人は、決して病院という城に閉じこもらずに、病院の窓から外を見て欲しい。
地域に向かって心を開き、患者さんが生活している場を見据えていただきたいと思います。
シンカナース編集長インタビュー後記
病院名を聞けば、誰でもイメージがわく企業立病院。
医師として、経営者として日々邁進されていらっしゃる亀山先生は、病院経営の改善にも取り組んでいらっしゃいました。
救急応需率、紹介率・逆紹介率の向上、新入院患者数増、手術件数増等のKPIを設定されているという点は、とても勉強になりました。
企業立であったとしても、将来的な医療の継続を行うためには安定経営が必要とされる時代なのだということもわかりました。
また、改善に向けた具体的な数字を関係者が把握することにより、真の改善に繋がるという意味では、看護師も自分に関係のあるKPIを理解し、意識することが大切なのだと痛感いたしました。
「組織を愛する人こそが組織にとって大切な人」
という亀山先生のお言葉に心から共感いたします。