No.126 小澤美紀様(鶴巻温泉病院)後編:与えられた試練は必ず越えられる

インタビュー

前編に引き続き、鶴巻温泉病院の小澤美紀看護部長へのインタビューをお届けいたします。

みんなが力を貸し、みんなで越えてきてくれた

看護部長になり苦労したことはありますか。

小澤:看護部長1年目の時、引き継ぎが2週間ほどで、何をしたらいいのか分からないような状況でした。

科長たちに色々なことを教えてもらいながら、よく分からないまま進めていかなければならないという感じで、次々やってくる目の前のことに追われて、「明日のことすら分からない」という1年間でした。

本当に1日を終えるのに精一杯でしたが、「誰でもできる事ではないところにあなたは選ばれたのだから、向き合えることはいいのではないか」というお言葉や、職員が私に話をしてくれる、その思いをしっかり受け止めようと思いました。

投げ出すのは実はとても簡単ですが、そうすべきではないと葛藤する日々でした。

投げ出そうと思ったときに浮かんでくるのは、看護部の職員の顔や職員のご族で「私はもう何百人の人の管理をしなければならない」と自分に言い聞かせていました。

2年目で、副部長という立場を作ったことで、仕事が回るようになりました。

その都度、みんなが力を貸してくれて、みんなで乗り越えました。

常に前向きでエネルギッシュですね。

小澤:「神様は、その人に越えられない試練は与えない」というのが私のポリシーです。必ず越えられると思って取り組んでいます。

看護部の中で科長会があり、科長たちが様々な発言して活性化してきており、それはとても良いことだと思っています。

こだわらず、いろいろな事を受け入れていく

3年目の今、何を意識して取り組んでいますか。

小澤:慢性期の病院ですが、病院自体も大きく動いており、4月に地域包括ケア病棟を立ち上げるために、昨年12月までは一つの病棟を休床するための準備をしてきました。

また診療報酬改定により、医療療養病棟を介護医療院に変えていく方針も出ており、「看護部としても積極的に対応しよう」と考えています。

私はチャンスがあるならば何でもやってみようと思うので、昨年12月にはベトナムでの看護師候補生受け入れ説明会に参加しました。

このように外から受け入れることもありますし、特定行為研修には今45人目が行っていますが、一期生から「チャンスがあればどんどん出てちょうだい」と、機会は逃さず、先駆的に、色々なことにこだわらないで取り組んでいます。

心がないと看護はできない

看護理念の「患者の声を心で聞き感じ、思いやり寄り添いながら見て考えることができる。そしてその手で技術が実践できる看護介護を提供します」を実践するために心がけていることはありますか。

小澤:理念は職員に浸透しにくいので、ラダー教育など様々な研修会に私も出席するようにしています。

研修によって出席するメンバーが異なるので、必ず研修の前に「看護部の理念を知っているか」と投げかけて、虫食い状態にして「ここに入る言葉は何か」とクイズを出し、答えを出して理念を復唱させています。

また日々ラウンドに行き、職員を捕まえて「看護部の理念とは何か」と問いかけることもあります。

新人の入職者向けや採用活動の際は、理念について自分の言葉できっちり伝えるようにしています。

知識と技術は必要ですが、人を相手にする仕事なので、「心の部分がないと絶対に看護はできない」と考えています。

患者さんは「痛い」「苦しい」とご自身で言うことが難しい方が多いので、患者さんが「どんな思いでいるのか」をまず心の声で聞いて、より知るために寄り添って思いやる、そして専門職として大事なことは、患者さんの異常を早期発見すること、頭の上から足の先までいつもと変わりないかと「観る」ことです。

ケアを提供するために、集めた情報と知識を使って看護計画を考えます。

そして計画は立案して終わりではなく、「患者さんが安全で安楽にいられるような技術を提供して差し上げるということ、これを大事にしている」と私は言っています。

ひとつひとつ質のよいものにしていく心がけ

小澤:去年母を亡くし、患者家族になって分かった事がありました。

2年前にガンだと判明し、なかなか会いに行くことができませんでしたが、1カ月に1度はできるだけ帰るようにしていました。

病院に入院していた時、看護師は母に付いているポンプや排液などは見ていきますが、寄り添った言葉はあまりかけてもらえていないと実感しました。

「看護」とはやはり技術が多少劣っていても、まずは「患者さんのいまの気持はどうなのか」と同じ高さに立つことがとても大事だと感じました。

私が理念を話すときは、看護とはこういうものだと話しています。

現場で職員が理念からくる看護を実践するためにはどうしたらよいかと考え、質の良いものにしていくために心がけています。

雑なケアをする人がいると聞いた時には所属長に注意を呼びかけ、患者さんに名指しでお褒めいただいた時などには「本当に良かったね」となるべく多くの人の前で伝えています。

介護福祉士は生活支援のプロ

看護補助者についてお聞かせください。

小澤:当院では120名ほどの介護福祉士が病棟で働いています。専門資格を有さない40名ほどの看護助手が業務として洗いものや入浴介助を担っています。

介護福祉士は生活支援のプロなので、自分の介護に自信を持って取り組んでおり、きめ細やかなケアを提供しています。

「看護師さんが忙しそうだから言えないよ」という患者さんの訴えを介護福祉士が吸い上げることもあり、食事の環境を整える時などにも、介護福祉士は様々な発想が出てきます。

メリハリをつけて自分自身をきっちり管理する

看護部長からのメッセージをお願いします。

小澤:看護は人相手、特に病気を持っている人を対象に仕事をしていますので、私はまず自分自身の、特に心が健康でいないと病気の方を看護することは難しいと思っています。

では自分自身が健康でいるためにはどうするかというと、おいしいものを食べたり、遊ぶときには遊んでメリハリをつけるなどして自分自身をきちんと管理することがとても大事だと思っています。

まずは患者さんを看護していけるように、普通の常識を持った人であってほしいと思います。

経験を積んでいくとたくさん学びは増えていきますが、忘れていく事や見失いそうになることもたくさんあるので、「何故自分が看護師になろうと思ったのか」、「看護師になったらこんなことやりたい」という夢を忘れずに持ち続けてどんどん成長していってほしいと思っています。

シンカナース編集部 インタビュー後記

鶴巻温泉病院は、神奈川県秦野市にある回復期、生活期、維持期、終末期のリハビリを提供している多機能な慢性期病院です。

神様は、その人に超えられない試練は与えない。

与えられた試練は必ず超えられる!という小澤看護部長のお言葉がとても印象的で力強さを感じました。

常に前向きでエネルギッシュな小澤看護部長。

そのような看護部長の姿勢は、スタッフにも浸透し、皆さんの力で試練を乗り越えられてきたといいます。

与えられた機会は逃さず、様々な取組みにこだわらずに受け入れていく姿勢にますます貴院の看護部が進化されていくと確信いたしました。

小澤看護部長、この度は素敵なお話をどうもありがとうございました。