No.89 佐藤 美子様(川崎市立多摩病院)後編:専門的アプローチのできる看護

インタビュー

前編に引き続き、川崎市立多摩病院の佐藤 美子副院長のインタビューをお送り致します。

聖マリアンナとしての質の高い看護を

こちらの病院は、聖マリアンナ医科大学の系列ですね。

佐藤:そうです、聖マリアンナ医科大学には、大学病院と川崎市立多摩病院、東横病院、横浜市西部病院の4病院がありまして、それぞれに特色を持っています。

例えば、大学病院は地域と連携しながら急性期を扱っていますし、東横病院は駅から近く、100床ぐらいの規模で、消化器センターや循環器センターなどがあります。

当院の場合は、名前が「川崎市立多摩病院」となっていますように、中身はマリアンナですが、川崎市が建てた市立の病院でもありますので、多摩地域の方々との連携を図ることをすごく大切にしています。

4病院は、どのようにお互いに連携を図っているのでしょうか。

佐藤:聖マリアンナ病院のホームページを見ていただくと分かると思いますが、4病院の看護部は「ナースサポートセンター」を通して連携を図っています。

4病院の看護部長会を組織的にして、それぞれの特色を生かしながら、標準も図りましょう、という形です。

聖マリアンナ全体として看護の質、量を保っていくために、やはりそれぞれで好きなことをやるのではなく、お互いに情報を共有し合い、研修会も行っています。

具体的には、どのような取り組みをされていますか。

佐藤:看護の量という部分では、看護師の採用や応募を取りまとめていますし、4病院の中での人事交流も行っています。

例えば、大学病院の脳外科病棟と地域の脳外科の病棟では患者さんが違いますので、「あちらの病院の脳外科病棟で働いてみたい」という場合に移動することができます。

全体を見ながら看護師のキャリアをマネジメントしてサポートする、という形です。

看護の質という部分では、看護技術を含め同じ手順書も使っていますので、看護の質を一定にしながらサポートするということです。

「ナースサポートセンター」を通していろんな知恵を出し合えるので、組織力としては強くなります。

看護師のキャリア開発をサポート

こちらの病院の看護部の理念についてお聞かせください。

佐藤:聖マリアンナの看護部の理念は、「個人を尊重し、専門的アプローチによってあらゆる健康レベルの患者さんの治癒・回復を促進する」です。

この「専門的アプローチ」というのは、やはり患者さんそれぞれの疾患や状態を理解して、その一番大切な部分に対し、看護師としてどのように寄り添うか、ということになると思います。

現在は、認定看護師が中心になって、研修や事例の勉強会を数多く開いて、参加する人たちを育てていくようにしています。

また、それぞれの現場、病棟の中で起きることに対し、看護師が患者さんの相談にのったり具体的なケアを提供したりできるような教育や研修を整備しています。

研修の中で看護の事例について振り返ることを大切にしておられるのですね。

佐藤:はい、やはり自分の中で考えているだけでは、煮詰まったり行き詰まったり、面倒になることもありますので、事例について人と話し合うことは大切です。

当院では、プリセプターではなく、新人看護師にはあえて「メンター」という言葉を使い、先輩看護師が後輩に看護を伝えていくための「メンター制度」を取り入れています。

メンター制度についてもう少し詳しく教えてください。

佐藤:外国式のメンター制度というのは、自分と合う先輩を見つけて「お願いします、メンターになってください」というものらしいです。

ですが、当院でのメンター制度では、事前にメンター研修を行い、レディネスを高めることに力をいれています。

ですから、本当に合うか合わないかは入職後一緒に働いてみないと分からないというところが、一つの弱点です。

師長たちにしてみると、力量がある人がメンターにふさわしいと考えるかもしれませんが、理想のメンター像と、新人看護師やスタッフそれぞれにとっての実際のメンター像は違う場合もあります。

私のメンターについて考えると、本当にいい先輩に恵まれました。3人のメンターのうちお二人は亡くなりましたが、病院を辞めようが変わろうが、自分の節目のときに自分のキャリアについて相談することができました。

そういう自分のいいところ、悪いところも丸ごと受け止めてくれる人がいるのは、とても大事なことです。

新人看護師たちには、ぜひ若いうちにそういうメンターを見つけてほしいと思います。

ここまでお話をお伺いしまして、やはり看護師のキャリア開発を重視しておられると感じました。

佐藤:そうですね、特に師長や部長の立場に就く人は、キャリアコンサルテーションができるようにならないといけない、とすごく思います。

例えば、新人看護師が、急性期ではなく慢性期の患者さんと、ゆっくりベッドサイドで関わりたいと言ってやってきますが、実はそれは耳で聴いた慢性期のイメージだけで、「慢性期って何をするところなのか」とか「どういう知識が必要なのか」というところまで、踏み込んで考えていないことがほとんどです。

結局、介護老人保健施設や回復期リハビリテーション等に異動しても、「いやいやあそこには看護がなかった」と言って戻ってくることも、辞めてしまうこともあります。

ですから、もし慢性期を見るのであれば、「ケアマネージャーの資格を取ってみよう」とか「訪問看護を見に行ってみよう」とか、出口のところ、つまり退院の支援にも興味を持てるように、師長や部長がコンサルティングしてあげる必要があるのです。

意見を出し合えるチームとして

こちらの病院の看護補助者についてお聞かせください。

佐藤:看護補助者はモチベーションがなかなか高まりません。

ですから、人の役に立ちたいとか、この仕事が好きでやっています、という方に長く勤めていただいています。

当院では、看護補助者が夜勤に入ることもありまして、ナースコールが鳴ったら飛んで行ったり、自分でトイレに行けない人の身体の向きを変えたり、おむつを替えたりという業務をしていただいています。

看護補助者の方の指導もやはり看護部でされているのでしょうか。

佐藤:そうです、病院で働いた経験のない方が応募してくるので、入職されるとすぐに「自分の普通の生活の感覚を大事にしてください」とお伝えしています。

医師や看護師は、治療や回復を支援する立場から、患者さんに対し「治療するから我慢をしなさい」「病気が治るのだから痛くても我慢しなさい」という見方になってしまいがちですが、看護補助者のみなさんには「家だったらこんなことないよな」とか「うちの中だったら、ここにこういうものが置いてあったら便利だな」という普通の人の感覚を大事にしてほしいです。

現場では色々なことがありますので、お医者さまが偉いというのではなく、看護師や看護補助者の立場で、忌憚なく意見を出して話し合えるチームになりたいと思っています。

認定看護管理者会の会長として

お話は変わりますが、今年から認定看護管理者会の会長に就任されましたね。

佐藤:成り行きで会長になりました、というと誤解があるかもしれませんが、ほとんどの仕事は断らないように基本的に受けるようにしています。成り行きというのも引き寄せる力の結果かもしれません。

研修学校にいたときの恩師からも、「チャンスは欲しいと思っても来るものではないから、人から言われたら、必ず『はい』と言って大変な仕事も受けなさい」と教わりましたし、自分ができなかったり嫌だと思ったりしても、評価は周りの人がするので任せましょう、という気持ちでやっています。

現在、認定看護管理者会は、それぞれ地区のブロックに分けて活動してもらっていまして、先週も九州ブロックの研修会に参加しました。

本当に日々お忙しくされていますね。その様な中で、趣味や息抜きとしてなさっていることはありますか。

佐藤:実は演劇が好きです。

高校のときは演劇部にいまして、女子高でしたので男役をしました。

今でも、時間を作って劇を観るようにしています。

あと、絵を見るのが好きなので、美術館に行くこともあります。

金曜日ですと、夜の8時までやっている美術館もありますので、そういうものを楽しもうと心がけています。

働きやすい病院を目指して

聖マリアンナの看護専門学校を卒業してそのままこちらの病院に就職される方が多いのでしょうか。

佐藤:卒業生のだいたい8割が聖マリアンナ病院に就職して、あとは進学もありますし、他の病院に行きたいという方もいます。

当院では、不足している場合に既卒の看護師を募集することはありますが、ほぼ9割は新卒です。

では新卒の方に向けて、こちらの病院の看護部をアピールをお願いします。

佐藤:当院は地域の病院で、376床あります。

産科の病棟や小児科の病棟もあり、「とても働きやすく、規模があまり大きくなく、みんながチーム・仲間」という病院です。

「聖マリアンナの病院」ということで、愛ある医療を目指しております。

患者さんに優しい医療・ケアが提供できるようにするため、また働く人も「自分の病院」という意識を持ち、共に働きやすいようにしていくために、様々な意見を出し合えればいいと思っています。

ぜひ、一度遊びに来ていただいて、看護体験をしてもらえるとうれしいです。

よろしくお願いします。

シンカナース編集部インタビュー後記

「チャンスの女神は前髪しかない」とよく言われますが、チャンスを掴み取れる人はどのくらい居るのでしょうか。

また自分でチャンスを作れる人はどれだけ居るのでしょうか。

新人看護師と中堅看護師に求められている役割の違いに気付き、その気付きを勉強するチャンスへと変えられたご経験をもち、また仕事も出来る限り断らない、と仰った佐藤副院長はその両方を出来る方なのではないかと感じました。

そして、その習慣を支えているのはメンターからの「チャンスは欲しいと思っても来るものでは無い」という言葉だそうです。

川崎市立多摩病院では、新人看護師にもそうしたメンターを見つけて貰いたいという気持ちからメンター制度が取り入れられています。

そこで働く看護師の方々は、そうした価値観や知恵を受け継ぐ機会に恵まれているため、これからの時代で求められる看護師の道を切り開き、力強く歩んで行けるのではないかと感じました。

佐藤副院長、この度は貴重なお話を有難うございました。

川崎市立多摩病院に関する記事はコチラから

No.89 佐藤 美子様(川崎市立多摩病院)前編:看護管理のスペシャリストとして

病院概要

川崎市立多摩病院