No.269 昭和大学病院 板橋家頭夫 元病院長後編:「来て良かった」と思える病院をめざして

インタビュー

前編に続き板橋先生に、昭和大学のめざす医療・医療職のあり方について語っていただきました。

看護師に求めるもの

中:板橋先生は看護師をはじめとした他職種との関係構築を大切にされてきたということですが、

反対に看護師側に求めたいもの、期待することなどございますでしょうか。

板橋:私が看護師に求めたいのはプロフェッショナリズムです。

もちろんこれは看護師だけではなく、院内の全ての職員について言えることですが、

多職種との関係のなかで、自身の専門性を見出し、

アイデンティティを築いていくことが非常に重要だと考えています。

中:看護師としてのプロフェッショナリズムとはどういうものでしょうか。

信頼関係の構築

板橋:もちろん常に、専門的な知識をアップデートしていくことは重要です。

ただし、私が特に看護師に求めたいプロフェッショナリズムとは、

いかに患者さんと人間関係・信頼関係を構築できるかということです。

いくらスキルが高くても、患者さんが信頼をしてくれなければ、そのスキルを発揮することもできません。

例えば、ときどき注意することですが、

高齢の患者さんに対し、赤ちゃん言葉のような口調で、話しかけをすることがありますよね。

あれは、患者さんによっては、長年社会人として生活してきたプライドを著しく傷つけ、

信頼関係を損なう場合もあると思います。

患者さん一人ひとりは、それぞれ別の背景・人格を持っているので、

一律に考えるのではなく、個々に合った応対をし、信頼関係を築いて欲しいと思います。

また、その前提として看護師自身が、患者さんを受容することも大切です。

多種多様な患者さんと信頼関係を構築するには、

まずは看護師側がその患者さんを受け入れ、正しく理解する必要があります。

中:信頼関係を築くための能力は、どのように高めていくのでしょうか。

板橋:日々の生活の中で育まれるものだと思います。

医療職になる前から、家庭で教育を受けたり、社会での役割を自身で考えたりなど、

ある程度の積み重ねをしておくことは、医療職となる上で大きなアドバンテージになると思います。

後は、医学書以外の本を読むことも有効かもれません。

本を読み、考えることは、普段経験できないさまざまな経験や考え方・多様性への認識を与えてくれます。

そうやって育てた多様性は、患者さんを受容し、信頼関係を構築する基盤になってくれると思います。

私自身、小さい頃から本を読むのが大好きで、

今でも、良い音楽を聴くことと、良い本を読むことが何よりの楽しみとなっています。

最近、近隣の小学校で「いのちの授業」というのをやっているのですが、

その中でも、体格や性的マイノリティといった多様性への認識を育てるよう意識しており、

本を読んできた経験が活きているのではないかと思います。

中:その他に看護師に求めるものはございますか。

気づき、考える力

板橋:信頼関係の構築とともに重要なのは、気づく力・考える力です。

看護師の仕事では、患者さんのリスク予測し、早め早めに対処することが求められます。

そのためには、医療に対する知識とともに、細かいことに気づく力と自ら考える力が欠かせません。

私は日常生活でも、

スマホに集中して子どもへの注意が疎かになっていたり、車道側に子どもを置いて歩いている親や、

混雑する電車内でスペースを空けて座っている人などを見かけると、とても気になってしまいます。

そういった細かいことに気づき、考え、心配りができることは、とても大切だと思うのです。

看護師の業務においても、患者さんの心身の変化に細かく気づき、

適切な対応や心配りができることで、ケアの質は上がると思います。

例えば、入院中の患者さんのなかには、普段と違う環境に置かれることで、

細かいことに敏感になってしまう方もいらっしゃいます。

そのことに気づき、理解しないと、患者さんが理由なく不当に怒っているように、

看護師の目には映ってしまうこともあるのです。

中:なるほど。ここまで看護師に求めるプロフェッショナリズムについていくつか教えていただきましたが、

医師に求めたいプロフェッショナリズムというものもあるのでしょうか。

医師に求めるプロフェッショナリズム

板橋:大学病院である当院では特にですが、近年の医療は臓器別の専門医療が中心となっています。

しかし、高齢化が進む今の時代においては、臓器別の専門医療だけやっていれば良いというわけにはいきません。

高齢者は複合的な疾患を抱えている場合がほとんどですので、

特定の専門領域だけは知っているが、その他は分かりませんでは通用しないのです。

診療の基礎となる部分を正しく理解し、

専門領域はもちろん、それ以外の領域についても総合的にコーディネートできる、

そんな医師であって欲しいと思います。

当院では、初期研修を終えて専攻医になった1年目は、

救命救急センターやICUといった部署を3ヶ月以上ローテーションするシステムを採っており、

総合的な医療を改めて学ぶ機会としています。

中:ありがとうございます。

では、そういったプロフェッショナリズムを持つ専門集団として、

板橋先生はどのような病院づくりをめざしておられるのでしょうか。

めざす病院像

板橋:私はこの病院を、来院された患者さんが

「ここに来てよかった」と思える病院にしたいと思っています。

もちろん結果として亡くなる場合や、障害を持って退院される場合もありますが、

この病院を受診したり、入院したりしたことが

患者さんやご家族にとって良かったと思っていただければ嬉しいですよね。

そのためには、スタッフ一人ひとりが、自分の家族だったらどういう風に対応するかということを、

常に考えながら活動して欲しいと思います。

また、現在は、遺伝情報の解析や多様な薬・医療機器の登場など医療が進化するなかで、

個々の患者さんにあわせた、オーダーメードの医療が可能になり、

そのニーズは日々高まっています。

当院は特定機能病院として、個別化した医療への対応力を高めるとともに、

プロフェッショナリズムを基盤としたチーム医療にさらに磨きをかけ、

患者さんを中心にした、患者さんとともに歩む医療をめざしていきたいと思います。

中:素晴らしいお話。ありがとうございました。

それでは最後に、改めて看護師にメッセージをいただけますでしょうか。

板橋:看護師の皆さん、昭和大学病院元病院長の板橋です。

当院では約1,000名の看護職員が活躍しています。

私が看護師に求めるものはプロフェッショナリズムです。

当院は特定機能病院として高度な医療を提供する病院ですが、

最も大切にしたいのは、患者さんとの人間関係、信頼関係です。

ですので、豊かな人間性を持ち、ケアのプロフェッショナルとして、

患者さんと良い人間関係性を築ける看護師を、当院は求めています。

最後に看護師の皆さんにご紹介したい本があります。

クリスティ・ワトソンという作家の『わたしが看護師だったころ』という本です。

実話をベースに書かれた本で、看護師としての思いや成長過程に感動を覚える作品です。

読んでいただければ、私の求める看護師像も理解していただけるかと思います。

ぜひ一度読んでいただければと思います。

インタビュー後記

板橋先生から、昭和大学の伝統やポリシーが育む医療職の在り方を教えていただきました。

どのようなポジションにあっても、医療職はまず真摯に患者さんに向き合うこと。

当たり前のことが、案外意識しないと出来ないことは多いと感じました。

また、先生は看護部との関係もとても大切にしていらっしゃり、病院内をラウンド中も

元病院長に皆さんが笑顔で声をかけていらっしゃり、フラットでフェアな組織

であることを体感させていただきました。

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Photo by Carlos & Araki