前編に続き、薬剤師でもある松浦社長から、医療や看護に対する考え方をお聞かせいただきました。
社会から求められる事業
中:先ほどから経営上の素敵なお話を聞かせていただき、ありがとうございます。
社長はそのような経営哲学を、どのように培われたのでしょうか。
松浦:やはり震災直後、会社がなくなっても社会は困っていないと知ったときのショックですね。
それが原体験です。
自分がやりたいことをするのではなく、社会が必要としていることをして、
お客様に認めていただけることが、本当の良さなのだと気づいたことが大きいです。
もう一つは、私が薬剤師で経営の素人だったことが関係しています。
素人だからこそドラッカーの経営学書などを読んで懸命に勉強しました。
さまざまな改善の結果、当社は日本経営品質賞を2回いただけるまでになりました。
同賞は、顧客志向と従業員重視、独自能力の開発と社会貢献というこの4つをスパイラル状に成長させて、
社会に必要とされる会社に与えられる賞です。
中:震災直後から比べますと、格段に成長されたのでしょうね。
松浦: 経営学部を出た友人に聞きますと、私がバイブルのように読んだドラッカーなどは
あまり大学で教えないそうですね。
しかし私は薬を扱っていますから「私こそドラッカーだ」などと冗談を言っています。
ありがたいことに売上は震災後から約100倍に成長し、直近の6年でも2倍の20億になりました。
グループ内企業は7社を数えます。
さらに今は上場を目指しています。
数々のアイデアを実行
中:貴社の業容拡大の背景には、社員のみなさんの成長もあるのではないかと思います。
ここで社内のマネジメントについて、工夫されていることなどお話しいただけますか。
松浦:医薬品をお客様のブランドで供給するには、非常に高度の品質管理が求められます。
そこでエラーの発生を極限まで抑えるため、
アポロ計画のために開発されたモジュールシステムという教育システムを採用しています。
すべての作業を小さな単位で区分けして、それぞれをマニュアル化するという手法です。
そして社員ごとの習熟度を定期的に0〜12点で評価します。
貯まったポイントは1点200円で、業績にかかわらず会社が買い上げ、社員のポテンシャルを高めています。
最も高得点がつくのは他者にノウハウを教育することです。
それによりノウハウのある社員が自分だけの得意分野として包み隠すことなく社内全体に共有されます。
ポイントが一定レベル以上になった人は、自ら部署の異動を申告できます。
「ジョブローテーション」と名付けたこの制度を利用して、毎年4割ほどの社員が好きな部署へ異動します。
また「学歴なんかいつでも変えられるプロジェクト」では、
放送大学の受講料の半額を会社が補助しています。
さらに「プチコミファミリー制度」といって、コンピューターが無作為に作成したグループに分かれて
食事会や旅行を企画していただきます。
1人あたり10万円と1週間の休暇をプレゼントします。
その他「読書感想文コンテスト」には、応募した社員にはもれなく1000円の図書カードを配布しています。
人事面では「プチリーダー」という社内限定の役職を作り、係長の下で3人ほどの
小単位のリーダーを経験していただき、リーダーシップの基礎を学んでいただいています。
中:たいへんユニークな数々の取り組みをなさっているのですね。
これからの将来に向けた戦略はいかがでしょう。
何か新しいことをお考えですか。
松浦:製品関連では、例えば80歳でも女子高生のような肌みたいになれる商品を作れたら面白いと思います。
人間は「見た目が9割」などと言われます。
見た目を作るのは、表皮の緊張です。
それをなんとかできないかと。
ほとんど妄想ですね。
いつも頭の中は妄想ばかりで楽しいです。
もちろん妄想にとどまらず、1年で50個、毎週1つのペースで新製品を送り出しています。
もう少し真面目な発想では、皮膚科外用剤に医療用接着剤の成分を混合し、
塗布する回数を減らして患者さんの利便性を高められないか考えています。
爪白癬のような治療期間が長期に及ぶ疾患の治療薬として、ニーズが見込まれます。
切迫する医療問題
中:ここで少し話題を変えまして、医薬品業界全体のことをお尋ねしたいのですが、
近年の急激な環境の変化をどのようにご覧になっていますか。
松浦:本庶先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されてニュースになっている抗がん剤は、
日本発の極めて画期的な薬剤で、とても明るい話題です。
一方で非常に高額な薬価が問題になっています。
薬剤費が国家財政を揺るがしかねないと危惧され始めました。
実際に今年から薬価が年に4回改訂されることになりました。
特に今年4月の改訂では総額8,000億円も下がりました。
これは国内のOTC医薬品市場とほぼ同額です。
これほどまで急激に医薬品の価格が下げられることに関して、
もっと国民全体の議論があってしかるべきだと感じます。
問題は薬剤費にとどまりません。
そう遠くない将来、平均寿命が100歳に至るといわれています。
しかし現在の社会保障制度は人々が70代後半に亡くなることを前提に設計されています。
となると、この先、亡くなるまでの相当長い期間、多くの人が生活保護対象になり、
国家財政は成立しません。
その結果「尊厳死」ならぬ「選択死」などという言葉が必要になるかもしれません。
看護師のみなさんにお伝えしたいこと
中:私どもは看護師・看護学生対象のWebサイトなのですが、
最後に看護師に向けてメッセージをいただけますか。
看護の世界では離職率の高さがよく指摘されます。
社長に冒頭お話しいただいた震災のダメージを克服された体験などから、
何かアドバイスをいただきたいのですが。
松浦:その点は明確な考え方を持っています。
震災後、全く知らない場所で創業した時、唯一の支えは、自分が薬剤師だったということです。
妻も薬剤師免許を持っていました。
つまり、会社の事業がうまくいかなければ、
調剤薬局に勤める、製薬会社に入社するなど選択肢がたくさんあったわけです。
国家資格を持っていなければ、こういう考え方はできなかったでしょう。
いざともなれば次がある。
だからこそ、10年の結果を5年で出す、5年の結果を3年で、3年の結果を1年でと、
スピード感を持って生きてこられました。
この経験から、このメディアをご覧の看護師のみなさんに言えることは
「あなたは看護師という立派な国家資格を持った方です」ということです。
職場環境に関係なく、あなた自身の人生としてキャリアを作っていくという気持ちで
毎日お仕事をされるとよいと思います。
職場が自分に合わなければ違う職場を試せばよい。
大切なことは自分の看護師としてのスキルを、人生を通じてずっと高めていくことです。
決して「離職=良くないこと」と私は考えません。
医療機関の方々からすれば「そんな無責任なこと言わないでくれ」ということになるかもしれませんが、
私の経験から言えるヒントはこういうことです。
アニメのワンピースではありませんが、
「看護師女王に私はなる!」、男性の方であれば「看護師王に俺はなる!」と、
ご自身の人生をクリエイトする、ご自身で人生を作り上げていくという目標をお持ちになってください。
中:ありがとうございます。
本日はほんとうに哲学がつまった素晴らしいお話をたくさんお聞かせいただきました。
ありがとうございました。
インタビュー後記
情熱的でエナジー溢れる松浦社長。
理念を持ち、ゼロから大成された方のお話には、学ぶべきポイントがいくつもあると実感いたしました。
好きなことに全力を注ぐというのは、仕事も趣味も境目を持つ必要がなく、何に対しても同様なのだと
改めて教えていただき感謝いたします。
看護師も自分で選んだ仕事に、誇りを持ち、人を支える良い仕事なのだと気づけることが大切ですね。