No.201 札幌厚生病院 狩野吉康 院長 前編:肝炎治療の最前線で

インタビュー

急性期病院の激戦区である札幌に位置する札幌厚生病院病院長の狩野吉康先生に、病院の特徴をはじめ、

先生が携われてきた肝疾患治療の歴史、医学生時代のエピソードなどを伺いました。

学生時代は夏もスキー合宿

中:今回は札幌厚生病院病院長の狩野吉康先生にお話を伺います。

先生、どうぞよろしくお願いいたします。

まず貴院の特徴を教えてください。

狩野:当院は24の診療科を持つ総合病院です。

なかでも特に消化器領域が非常に強いと認識しています。

また、がん診療に力を入れていて、がん診療連携拠点病院に指定されています。

緩和ケア病棟もあり、残念ながら治癒を望めない終末期にも最期までお世話をし、看取りもしております。

もう一つの特徴は、モットーとして「ホスピタリティ」を大事にしていることです。

中:ありがとうございます。

後ほど、より詳しい病院の特徴や先生の経営方針等をお尋ねさせていただきますので、

どうぞよろしくお願いいたします。

狩野:よろしくお願いします。

中:まず、先生のご経歴について伺いたいのですが、

医師になろうとされた動機や医学生の頃の記憶に残るエピソードをお聞かせいただけますか。

狩野:父が外科医で開業しておりましたので、医師という職業を自然に意識するようになり、

医学部に進学しました。

医学部時代の思い出はたくさんあります。

特にクラブ活動のつながりが多く、さまざまな所へ遊びに行っていました。

中:何のクラブに所属されていたのですか。

狩野:スキー部です。

北海道の大学ですから全国の医学部の中ではトップレベルの実力でした。

中:夏はどのような活動されていたのでしょう。

狩野:夏はもっぱら陸上部です。

走ってばかりいました。

ただし北海道ですから山に行くと夏でもスキーができるのです。

山に登って滑るという合宿もありました。

中:グラススキーでしょうか。

狩野:いえ、本当の雪です。

中:夏でも雪が残っているのですね。

狩野:高地に行くと万年雪みたいな所があります。

旭岳や黒岳などです。

もちろんスキー場として整備されているわけではないのでリフトも何もありませんが。

中:板を担いで登山するのですね。

狩野:登山兼スキーのようなものです。

肝炎治療の進歩とともに歩む

中:次に先生がどのようにご専門領域を絞り込まれていかれたか、お聞かせいただけますか。

狩野:卒業近くなった頃に消化器疾患を専門にしたいと思うようになりました。

外科か内科かはだいぶ悩みましたが結局、内科に決めました。

卒業後は大学に1年籍を起き、関連病院に3年ほど出向してから大学に戻った時、

肝臓のグループの先生に誘われるようなかたちで肝臓を専門にすることになりました。

中:肝疾患に対する内科的なアプローチの魅力はどのようなことでしょうか。

狩野:肝臓以外の消化器、例えば胃や大腸などは、

やはり目で見て確認することが診断の主要な部分を占めます。

それに対して肝臓は、人体で最も重要な臓器の一つで、さまざまな機能を担っており、

画像所見だけでなく、採血による生化学検査も重要です。

そして内科的にも多くの疾患を治療ができることが魅力です。

中:C型肝炎などに対する治療の進歩も目覚ましいですね。

狩野:私が肝臓の領域を始めた頃は、ちょうどウイルス性肝炎の治療がスタートした時期で、

まだC型肝炎ウイルスは同定されておらず、ウイルスを制御できる状況ではありませんでした。

それでも限られた手段を駆使し、困っている患者さんを助けることに、やりがいを感じていました。

中:治療が大幅に進歩する時代に、臨床の最前線にいらしたのですね。

狩野:大学に所属していた時から、多くの新薬の開発に関わることができました。

当院に赴任してからも臨床試験等により、まだ他の先生が使えない承認前の薬剤を使い、

治験データを示してきました。

それは非常に楽しく、医学への貢献にもなったと思います。

中:未来の患者さんに対して新しいものを生み出すという

喜びのようなものをお感じになられていたのでしょうか。

狩野:そうですね。

そして実際に目の前の患者さんを少しでも早く治すことができるという喜びもありました。

数年前、C型肝炎の治療が一気に進歩した時も、

当院の患者さんは他の施設より早くその恩恵を受けることができました。

肝臓領域の新たな課題「NASH」

中:これまでに長足の進化を遂げてきた領域であり、またこれからもさらに進歩していくのでしょうね。

狩野:C型肝炎はほぼ根絶という状況ですが、B型肝炎はまだそこまで至っていません。

北海道はB型肝炎が全国平均の2倍ほど多いところですから、その治療法の確立はより切実な課題です。

さらに最近急激に増えているのは、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)です。

当院において従来、肝臓がんの患者さんの9割はウイルス性肝炎からの発がんだったのですが、

現在はNASH由来の肝がんが増えてきていてウイルスとNASHがほぼ同数になっています。

全国的にも同じような傾向で、間もなくNASHが逆転することが確実です。

新たに取り組むべき医学的な課題が、また一つ現れたということです。

中:NASHに対する治療はどの程度、研究されているのでしょうか。

狩野:NASHの大部分は肥満を基盤に発症します。

実際、治療において減量が大きなウエイトを占めます。

しかし非肥満のNASH患者さんもいますし、減量しても肝繊維化の進展が抑制されない患者さんもいます。

つまり、肥満以外のリスクファクターの存在が示唆されます。

最近ようやくいくつかの薬剤の臨床試験が始まったところで、

近い将来、使えるようになるのではないでしょうか。

中:ありがとうございます。

先生のご経歴の質問に戻りまして、院長就任前後のことをお聞かせください。

院長になられる前、病院全体をマネジメントするための勉強などはなさいましたか。

狩野:いろいろな本を読むようにしました。

上に立つ人間はどういう態度をとり、何を示すべきかといったことです。

もちろん本に書かれている内容をそのまま実践できるわけではありませんが、

心構えをするには役立ちました。

後編に続く

Photo by Fumiya Araki