前編に続き、院長というお立場で患者さんやスタッフとの接し方や、
これから求められる看護師像などを語っていただきました。
相手の表情と雰囲気を読み取る
中:お話を伺っていて、チャレンジを苦にされないお人柄も医療従事者として重要なことなのかなと
感じました。
病院の医療従事者を職種別に見ますと人数的には看護師の数が最も多いと思います。
その看護師が先生のようなスタイルで患者さんやご家族に接することができれば、
看護の幅が広がり医療の質が向上すると考えられないでしょうか。
相馬:それは当然のことで、医療は看護師がいないと成立しません。
例えば私なども結構、勘違いや見落としを看護師に教えられながら仕事をしています。
中:看護師、あるいは患者さんと良好なコミュニケーションをとるために、
先生が気を付けていらっしゃることはございますか。
相馬:あまり意識はしませんが、表情には気を使っているかもしれません。
相手が患者さんであれば、診察室に入ってきた瞬間に何か様子がいつもと違うと感じたら、
まず「どうされましたか」、あるいは「元気そうですね」といった声をかけます。
中:患者さんの雰囲気などから、変化のサインを読み取られるということですね。
先生ご自身も表情に気を使われますか。
相馬:そうだと思います。
たた一つ欠点があり、空腹の時は「機嫌が悪そう」と言われます。
ですから慣れている人は、私が不機嫌そうだと何か甘い物を持って話かけてきます。
もう本当に子どものようで、完全に見透かされています。
患者さんから見たベストの医療
中:それもまた先生のお人柄で、院内のコミュニケーションには役立っているのでしょうね。
先生はいま院長として病院作りにあたられていらっしゃいますが、
運営上のモットーや意気込みのようなことを教えていただけますか?
相馬:まず、病院は患者さんのための存在ですから、患者さんのことを考えます。
現在、高度医療を提供する病院がたくさんありますが、患者さんの側から見ると
「医療内容が高度であればそれで良い」というわけではありません。
それぞれの患者さんにあった治療、その方が受けたいと思う医療が、患者さんにとってはベストです。
当院はそのような医療を提供することを目指しています。
一方、労働環境という視点では、スタッフが楽しく働ける雰囲気が一番大切だと考えています。
それでこそ、高いモチベーションを維持できます。
中:そのような院内の雰囲気は、やはりより良い医療に繋がっていくとお考えですか。
相馬:そうですね。
看護師が多少忙しくても、いつもニコニコして働ける、そういう病院を作りたいと思っています。
ただ、既にそのような雰囲気はだいぶ形成されているのではないかと考えています。
実際、患者さんから「この病院は看護婦さんがいつも声を掛けてくれる」とよく言っていただきます。
また私自身が当院に赴任した当時「大学の看護師とは違うな」と感じました。
高度急性期病院よりも当院のように比較的こじんまりした病院の方が、
患者さんとスタッフの間、あるいはスタッフ同士の距離もより近いのではないでしょうか。
「看護師の幅の広さを楽しんで欲しい」
中:話題を貴院の看護師から、看護師全体に広げたいと思います。
これから2025年問題や医師の働き方改革などの動きの中で、
看護師に求められることも変化していくのではないでしょうか。
その辺りについて、先生がお考えのことお聞かせください。
相馬:海外ではナースプラクティクショナー(NP)の活躍の場が広がっていて、
これを日本にも導入しようという動きがあります。
いまだ議論があるところではありますが、一定のニーズはあると思いますので、
そこに限定して導入していけば良いのではないかと思います。
私は以前、東京都医師会の理事を務めていた頃、NPについて海外からいろいろ情報を集めていました。
当時の雰囲気は、外科医は「NPがいればとても助かる」、一方の内科医は「そうでもない」といった感じでした。
こういった情報は大学にいた当時に国際化プロジェクトを推進していた関係で、
定期的に海外から医師を招いて意見交換をする機会が多かったことから入手できたものです。
中:そういった新たな情報の吸収にも、先ほどおっしゃったコミュニケーション能力が
生かされているのですね。
病院長というご職業は、やはり人とのコミュニケーションが苦手な方よりも
オープンな方の方が向いているお仕事と思われますか。
と申しますのは、看護師の中にもコミュリケーションが不得意で
ネットワークに入ることを躊躇する人もいるようですので。
相馬:なるほど。
最初のご質問の病院長については、おっしゃる通りだと思います。
求められる資質は、研究者とは少し違うようです。
二つ目の看護師についてですが、私は基本的に看護師の皆さんはとても勉強熱心だと感心しています。
一般的な話になりますが、これからはもう人生100年の時代ですよね。
女性はもっと長寿になるかもしれません。
とすると、自分が辛いと思う仕事をそんなに続けられるはずがないのです。
これからの人は20代の初めに就職し、恐らく70歳になるまで50年間は働くことになりますから。
そうであれば、楽しい仕事をするのが一番です。
なにも一つの仕事にこだわらなくていいので、いろいろやってみることです。
たとえ看護師として働くにしても、看護にはさまざまなジャンルがありますから、
いろいろ試してみてその中で自分に一番合ったジャンルを極めれば良いと思います。
中:「毎日の仕事が辛いから看護師を辞める」のではなく「別の分野の看護をしてみよう」と
発想を切り替えれば、看護という職業自体を辞めるには至らないですむということですね。
相馬:そう思います。
看護師になるために勉強したことと全く異なる仕事をするという選択肢もありますが、
それはかなりタイムロスをすることになります。
仮に病院勤務があわなくてもクリニックとは相性が良いということもあります。
あるいは産業保健師になるなど、学んだことや経験を生かして医療に貢献する道は多々あります。
たいがいのことは続けていくと面白みが出てくるのではないでしょうか。
先ほど申しましたように、楽しく仕事をしていくことが基本です。
自己研鑽が心の余裕につながる
中:先生ご自身は、どうやって楽しく仕事をなさっていますか。
相馬:あまり忙しくし過ぎないことですね。
実際は忙し過ぎるのですが、そこを工夫して心に余裕を持って取り組むようにしています。
看護業務もそうではないでしょうか。
例えば看護記録を入力することに長時間とられていたら「なんて忙しいの」となりますね。
しかし経験を積むと要領よく短時間で記録できるようになります。
そういったスキルアップのためには、ある程度の期間、
時間を惜しまずに続けることが必要なのだと思います。
いったんスキルを身につけてしまえば、心に余裕が生まれます。
中:自己研鑽で技術を習得していくと、仕事もまた楽しくなっていくということですね。
ところで先生のご趣味は何かございますか。
相馬:趣味に当てる時間があまりないのですが、健康のために週に1回ほど運動をしています。
日曜日の午後にジムに行き、ランニングから筋トレ、水泳というメニューをこなしています。
中:それでは最後に看護師に向けてメッセージをお願いいたします。
相馬:杏雲堂病院の院長の相馬です。
杏雲堂病院は136年の歴史があります。
看護部長は「寄り添う看護」をモットーとし、患者さんにやさしく寄り添っていくことを基本にしています。
ぜひ杏雲堂病院にいらして一緒に働けたらなと思います。
優しくて笑顔のある看護師さんにいらしていただけることを心からお待ちしております。
よろしくお願いします。
シンカナース編集長インタビュー後記
御茶ノ水の駅からほど近い病院です。
同駅の周辺には大学病院が3つもあるので、まさに医療のメッカとも言える場所です。
この環境下で医療を提供されていらっしゃる杏雲堂病院は、周辺の病院との連携も取りつつ、地域医療を守っていました。
相馬先生は、看護師という仕事にも幅があるという意味のお話をしてくださいました。
ひとつの場所がダメだからと言って、看護師が向いていないと決めつける必要はない。
違う部署、違う分野と考えれば、看護はとても幅広く、社会のニーズもまだまだある。
有難いお話です。
看護師はこうした恵まれた環境にある仕事なのだと改めて気付かせていただきました。