No.157 野月千春様(JCHO東京新宿メディカルセンター)後編「スタッフの変化を見守る」 

インタビュー

前編に引き続き、JCHO東京新宿メディカルセンターの野月看護部長へのインタビューをお届けいたします。

プロフェッショナルとしての自覚

師長になられた時のご苦労などをお聞かせください。

野月:師長となったのは35歳でした。

先輩もたくさんいる中で師長という役割を与えられ、大変不安でしたが、

期待に応えたいという気持ちを強く持っていました。

「魚は頭から腐る」のたとえのようにならないよう、いつも背水の陣のような心境で病棟づくりに取り組んでいました。

私の病棟づくりに看護研究は欠かせません。

当時は泌尿器科・耳鼻科混合病棟でしたので、そこでも、自分達が行っている看護実践の中で

「患者さんにとって何が良い看護だったのか」をきちんと追求してスタッフと一緒にまとめる努力を続けました。

看護研究をスタッフと行うことの最も良いところは看護師長としての自分の看護観をスタッフに伝えることができることです。

また、研究としてまとめる中で、スタッフも看護の価値に目覚め、成長していくことを実感してきましたので、管理者としてのやりがいにつながりました。

「患者さんにとって何が良い看護だったのか」をきちんと追求し研究としてまとめることはとても意味があり、研究の過程で生まれる反省は病棟づくりにも生きてきます。

一例報告でも良いのです。

学会で発表し質問や指摘を受け、自分の方法が他院でも通用するのか否かを確認することに意義があります。

私たちは看護の実践者ですので、看護の現場からの報告がヒントになり、

そこから別の研究が行われて新たな知見が生まれる可能性もあります。

その結果、看護が学問として発展し、患者さんへの恩恵としてフィードバックできることが理想です。

臨床と研究のすべてが「患者さんのために」という目的につながっているのですね。

野月:プロフェッショナルとしての自覚というのでしょうか。

私が感じる看護の醍醐味は、変わっていく患者さんの姿を見て、自分の看護がどのように生かされたのか、

または生かされなかったのかを知り、次の看護に生かすことです。

そのために漫然と働くのではなく、振り返えり結果をまとめ公表し、

第三者の評価を受けることが欠かせません。

このプロセスの楽しさがわかると、たぶんやめられなくなると思います。

変化していく患者さんの姿に感動し、オーバーですがやりがいを超えて生き甲斐にもなるように思います。

看護部長になられた頃のご苦労をお聞かせください。

野月1年目は緊張していましたね。

トップマネジャーとして皆に認められるのか、成果を上げることができるのか、いつも不安でした。

しかし、皆温かく私を受入れ、新しい看護部作りに協力してくれました。

特に、嬉しかったのは、私が8年間教育担当副部長として育てた新人看護師たちがそれぞれ成長し、

各部署で中堅看護師として活躍しており、率先して目標達成に向けて協力してくれたことです。

組織は人なりですが、人を大切に育てることが組織の発展に欠かせないと実感しています。

これからも、当院の強みである教育的な風土を大切にし、人を育て、適材適所で活躍できるようにして、

自分を育ててくれた病院や地域に恩返ししたいと考えています。

社会に出ていく看護

研究面でこれから取り組みたいテーマはございますか。

野月:高齢化の進展により慢性疾患増えてきますから、疾患の重症化や再発予防に関心が向かいます。

看護師は患者さんの生活に近いところにいて、患者さんが日常生活の中で必要としていることを支援できる一番身近な存在です。

慢性病を持ちながら生きていく患者さんを支えるために看護師に期待されることは、

患者さんの持っている力を引き出すこと、つまり、セルフケア能力を高める支援だと考えています。

ですが「どのような支援が患者さんのセルフケア能力を高めるのか」ということは

十分に探求されていません。

私は大学の教員や臨床家と共にこのテーマで研究を続けています。

患者さんがどうありたいか、どうありたくないのかを大切にするセルフケア看護の追求し、

地域や社会に貢献したいと考えています。

社会に出ていく看護ですね。

野月:私達は病院で患者さんと出会い、ケアを行うわけですが、これからは施設内に止まるのではなく、

看護部長として外を向いて、看護が地域で貢献できるような体制を整えたいと考えています。

そして、当院で働くひとりひとりのスタッフが看護のやりがいを実感できるような職場にしていきたいと思っています。

そのためには私自身がいつも活き活きと楽しく活動していなければいけないと心がけています。

患者さんの笑顔が、自分たちの笑顔になる

そのお考えは貴院の看護理念とも関係がありますか。

野月:当院看護部の理念は『私達は、いつも笑顔で真心こめた看護に努めてまいります』です。

私たちが笑顔になれる時はどんな時かと言えば、多くは患者さんの笑顔をみた時だと気づきます。

患者さんがどんな時に笑顔になるのかと言えば、病に打ちのめされそうな不安を乗り越えたり、

病気になったことで今までの人生を振り返り、より健康的な生活を送れそうだと実感したり、

家族との絆を深めることができた・・・など、

私達のケアの結果が患者さんの笑顔に繋がっていると考えます。

患者さんのあふれる笑顔が私達の笑顔になるんです。

私たちの笑顔で患者さんを元気づけ、患者さんの笑顔が私たちの笑顔になる、

そういう温かい病院作りをしたいと思います。

普段からそういった理念をスタッフに伝えているのですか。

野月:理念は大切ですから、新人や中途採用者、また看護補助者の皆さんにも同じような話をします。

看護補助者についてお聞かせください。

野月:看護補助者は全部で55人いて50:1体制をとっています。

掃除の際の声のかけ方や、気配り、目配り、そういう配慮に行き届いた方が多くいらっしゃり助かっています。

また環境整備だけではなく直接ケアに入る方もいます。

看護師は交代勤務であるのに対して看護補助者は週に5日勤務していますので、

患者さんにとってはより身近な存在のようです。

看護補助者を会して患者さんからの声が届き、改善すべき看護のポイントが浮かび上がることもあります。

趣味などはありますか。

野月:趣味とはいえませんが、副看護部長になってから空手を始め、現在5級です。

元々武道に関心がありましたが、

夫が空手道の師範で自宅に道場を開いたことをきっかけに習ってみようと思いました。

最近は中々稽古に出られませんが、空手道は「礼に始まり礼に終わる」とか

「人に打たれず、人打たず、事なきをもととするなり」など特に子供が社会性を身につける上で、

日本古来の武道の精神を学ぶことの意義を実感しています。

いずれ黒帯となり、近所の子供たちに

「その人らしさを大切にする」という看護の心を持って空手を教えることができればと思っています。

看護部長からのメッセージ

野月:当院では看護理念に『私達は、いつも笑顔で真心こめた看護に努めてまいります』とうたっています。

いつも笑顔で患者さんがどうありたいか、どうありたくないかをきちんと考えて、

患者さんに寄り添う看護を行っております。

当院は急性期病院ですが、緩和ケア病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟、

訪問看護ステーションと、急性期以外の機能を併せ持ちシームレスな医療を提供しています。

急性期から慢性期、在宅までを視野に入れて、幅広くキャリアを積み重ねることができますので、

当院で一緒に働いていきたとお考えの方は、ぜひ来ていただきたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

シンカナース編集部 インタビュー後記

女性が自立して生きていくことに憧れて看護師になった野月看護部長。

一生懸命であるからこそ自分にも他人にも厳しかったと仰っていました。

そこから1年間学校で教育を学び、現在では看護研究や教育にも力を入れているそうです。

柔らかい雰囲気からは想像できない情熱を感じました。

野月看護部長、この度はお忙しい中、貴重なお話しをして頂き、誠にありがとうございました。

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