前編に続き中村先生のお考えになる「チーム医療」についてなど、お話しいただきました。
もっと地域へ
経営者としての取り組みについてお聞かせください。
中村:副院長の頃から管理業務に携わり、長期にわたり医療連携部門を担当していました。
その経験から、病院は単独で成り立つものでなく、地域の医療システムの中で、他の機関との連携によって、初めて機能すると思っています。
大学附属病院は地域医療から、距離があるように感じていました。院長に就任後、常に強調してきた点は
『もっと地域へ』ということです。
患者さんの日々の生活に目を向け、患者さんと直接関わる中で、初めて医学が生かされます。
地域の中での医療を行なう!をモットーに邁進します。
医療連携には特に力を入れています。
まだ試行的な段階ですが、当病院の外来と連携している地域のクリニックが病院の検査や処方履歴などをWebにて参照可能なシステムを構築しています。
その目的は情報共有されることで、クリニックと大学病院をそれぞれ受診した際に、患者さんが安心できる医療を提供するためです。
また、患者さんにも、かかりつけ医と病院医師の二人主治医制を推奨しています。
この地域は高齢の患者さんが多いので、複数の病気を抱えており、様々な科に受診されています。
そのため、総合診療力が問われています。当病院には、内科に総合医療部があり、優秀なドクターが揃っています。
慈恵の4つの附属病院中,研修基幹病院は基本,本院ですが、総合診療医に関しては、第三病院に総合診療研修センターがあり、研修基幹病院として、専門医の研修プログラムを構築しています。
対等な関係を構築する
貴院の強みは何でしょうか。
中村:一番の強みはやはり総合診療力だと思います。そして、チーム医療です。
チームの捉え方に関して、ピラミッド的なチームではなく、各職種が対等なパートナーとしてチームを組んでいます。
そのためにメンバーの成熟、つまりオープンに自分の意見をどの職種にも伝えることと、批判時に耳を傾けることが大事になります。
横の繋がりを作る中で、一番大事な役割を担っているのは看護師だと思います。
職員数の半分以上が看護師で占めていることと、一番直に患者さんに接し、一つの病気だけでなく、様々な不調や背景を理解できるのは看護師だからです。
その看護師が発言力を持つことが対等なチームを作るのに大きな原動力になると思います。
看護師に期待することは何ですか。
中村:知識はもちろんですが、観察力が大事です。
実際に地域と関わりながら、観察力を身に付け、成熟させることですね。当院は
「共感と思いやりに基づく医療」を推進しています。
院長だけが思っていても何も変わりません。
看護師と意見を出し合い、共有することで、はじめて目標が共通のものになります。
そのため行動目標は看護部と私が一緒に考え、作りました。
新人看護師のオリエンテーションでは病院の細かい紹介よりも
「共感と思いやりに基づく医療のために具体的に、行動目標に沿ってやってもらいたい」と呼びかけています。
共感力をつけるには習慣が大事です。その人の立場で想像するという習慣を常に意識することです。
職員の質向上に関する取り組みを教えてください。
中村:「共感と思いやりに基づく医療を推進するために」と書かれたカードは職員全員が所持しています。
毎年、教職員に対しては病院の選考委員会から救急医療功労表彰、チーム医療功労表彰と、ホスピタリティに対する表彰を授与しています。
2018年の診療報酬改定となった現在も、7対1の基準は維持できます。
新規に力を入れることとして、抗菌薬の適正使用に対し推進チームを発足しました。
そのチームが様々な診療科にアドバイスし、適正使用を推進していきます。
更なる取り組みについて教えてください。
中村:一つは、総合診療と救急医療を強化することです。
当病院は2022年に新病院に生まれ変わる予定です。
新病院が完成するまでに救急と総合診療が正真正銘、要となる体制を作りたいと思います。
また、地域包括ケア、包括医療に関して、東京都内で充分に機能しているところはあまりありません。
まず地道にこの地域では病院も、クリニックも、行政も、訪問看護ステーションも、緊密なネットワークの基に情報共有を行うことを望んでいます。
老々介護や、高齢者の一人暮らしが非常に多くなりましたが、今後ますます増加します。
在宅の受け皿になるような、訪問スタイルの医療のみでは、人的資源は限られます。
急性期以降のシームレスな医療が、必要になります。新病院では、急性期が要ですが、ある程度の非急性期の治療機能も担うことになると思います。
看護師へのメッセージ
中村:共感と思いやりに基づく医療を当院では推進していますので、それを一緒に実現できる人材を大いに歓迎したいと思います。
当院に就職する看護師は慈恵看護専門学校あるいは慈恵第三看護専門学校の卒業生が大勢いますが、その他の学校からも志がある方々の応募をお待ちしています。
いつでも当院の管理課にご連絡ください。
シンカナース編集長インタビュー後記
大学付属病院という既存イメージからはギャップのある『もっと地域へ』という中村先生の言葉には衝撃を受けました。
今や、大学付属病院であっても「待ち」の医療ではなく、患者さんの生活に目を向け直接関わる「地域に根ざした医療」へ変革の時なのだと学ばせていただきました。
チーム医療に対する中村先生の考えは「各職種が対等である」ということでした。
この「対等」という言葉には重みを感じます。
看護師は看護師の立場でプロフェッショナルになれなければ、この「対等」は構築できません。
医学的知識の差異を埋め、指示待ちから脱却をし、状況を正確に伝えるための伝達力を鍛えることなどによって初めて「対等」となることを認識する必要性を感じます。
各職種が信頼し協働出来る対等関係は、患者さんにとって多くの利をもたらすことに間違いはありません。
そうした期待をしていただいていることは看護師にとって有難いことです。