No.135 病院長 中村敬様(慈恵会医科大学附属第三病院)前編:今日一日を充実させる

No.135 病院長 中村敬様(慈恵会医科大学附属第三病院)前編:今日一日を充実させる

  • 2018年5月12日
  • 病院長 インタビュー
No.135 病院長 中村敬様(慈恵会医科大学附属第三病院)前編:今日一日を充実させる
No.135 病院長 中村敬様(慈恵会医科大学附属第三病院)前編:今日一日を充実させる

総合診療とチームワークが強みである慈恵会医科大学附属第三病院

中村先生のご専門である精神医療について、病院の現状と未来についてお話しいただきました。

 

 

哲学から精神科へ

 

貴院の特色をお聞かせください。

 

中村:東京慈恵会医科大学附属第三病院は、581床を有する急性期の総合病院です。

大学の附属病院として、先進的な医療を推進すると同時に、調布市、狛江市、世田谷北部の地域中核病院としての役割を担っております。

特にこの地域は高齢の患者さんが多いので、高齢者に優しい病院、共感と思いやりに基づく医療を目指し教職員一同、努力しております。

 

 

医師になろうと思われた動機を教えてください。

 

中村:高校卒業後、大学の哲学科に入学し、学校の教員を目指していました。在学中に抽象的な思考よりも、人間に対する興味や関心が強くなり、医学部に再入学しました。

両親が小児科医ですので、将来医師になるかもしれないという意識もあったのだと思います。

 

医学部を卒業後、精神医学を専攻しました。精神医学は、理科系と文科系の重なり合う領域です。

つまり、生物学的な視点で、人間を理解すると共に、心理的な、社会的な存在として人間を理解します。

哲学での学びが、専門科の選択に影響したと思います。

 

哲学と医療の違いについて教えてください。

 

中村:哲学の一つの領域に、現象学という学問があります。

精神医学にも現象学的な精神医学があり、人間の心に対して、何らかの理論を通してみるのではなく、心の動きそのものに目を向け、そのまま捉えていく発想です。

 

 

精神医学は「人と人の関わりの中で起こる現象を理解すること」です。

生身の人間を相手にするという意味では、哲学と全く異なります。医学の道に進み「やはり私にはこの道だった」と確信した瞬間はありません。

常に迷いながら三十何年間取り組んできました。

 

患者さんに対して「こういう理解でいいのだろうか」と常に半信半疑です。

患者さんには私の理解を伝え,ずれていないかどうか教えてもらうようにしています。

患者さんに関して、仮説は立てますが、その仮説が絶対なものではなく、絶えず検証し見直していくことが必須だと思っています。

 

 

不安を受け入れる

 

精神科の中で、どの領域に注目されていますか。

 

中村:私は心理・社会的な精神医学を専門にしており、森田療法を専門にしています。

1919年頃、当時の神経症や神経衰弱の患者さんに対して、創始された日本独自の精神療法で、入院治療を基本にした治療法です。

 

特徴的なのは、最初に「絶対臥褥」という、何もせずに横になり過ごす時期があり、その後に軽い作業から始めて、徐々に日常生活に必要な作業に打ち込みます。

それらを通して、自分の不安や症状と闘う態度を捨てて、自分の不安をそのまま持ちながら、行動に取り組んでいく姿勢を培う治療です。

現在、通院治療でも、このアプローチは行われています。

 

 

神経症の好発年齢は、思春期から青年期、成人期の早い時期です。

森田療法も他の精神療法も同じように、基本的に若年層を対象にしていましたが、最近は中高年の方々も治療の対象としています。

当病院では入院治療も行なっており、70代以上の方も、入院されています。

 

治療が必要だと気付くためのアドバイスはございますか。

 

中村:中高年になると、「自分自身で何とかしたい」と思う人が非常に多くなります。

そして、近年、高齢層が以前よりも10歳ほど若い気持ちを持っています。

60代以降も生活を充実するためや人生の最期の生き方など、様々なことに悩みます。

たとえば体の不調が気になり始めると、「このままでは、今後の余生をいきいきと過ごすことができない」と感じ、あちこちの医療機関を受診します。

 

 

異常がないと言われても,万が一の可能性を考えてばかりで、ますます不調にとらわれてしまいます。

病気を恐れることで、病人の生活に陥ってしまうのです。また、健康面の不安に圧倒され、鬱的状態が長期にわたる方もいます。

まず、そのような方は入院や外来治療より、より良く生きていきたいと思う気持ちが自分の中に存在することに気付くことです。

不安や不調との闘いに浪費していたエネルギーを、日々の生活をいきいきさせることに使用すると、活力が戻ってきます。

 

「あるがまま」を受入れる

 

精神科へ受診に至る段階を教えてください。

 

中村:普通は体の不調であれば、内科に受診すると思います。

様々な診療科を受診したが、根本的な原因が不明であり、解決しないと生活できない方がいましたら、一度精神科に来ていただきたいですね。

特に中高年の方は直接、精神科に受診されず、他科を受診してから来られる方が大多数です。

症状としては、不眠、不安、抑うつ気分ですが、中高年の方に多いのが、不安と鬱、そして自分が健康な状態であることを疑う

「健康へのこだわり」です。

これらが入り混ざった状態が多くみられます。

 

 

今後の精神科医療についてお聞かせください。

 

中村:早期発見、早期治療は二次予防ですが、一次予防は、発症自体を減少させる予防策のことです。

つまり、病気になる前から健康を考え、実践する。又は、その知識がある状態にすることが大事です。

森田療法のキーワードは『あるがまま』ですので、今に生きる、今日一日を工夫して充実させることに力を注ぎます。

また不安の考え方が独特で、コントロールするものではなく、人間の欲望の裏面だと考え、不安の状態のまま、生活を工夫していきます。

病気になる前から、心がけることのできるヒントでもあると思います。

 

後編へ続く

 

Interview Team

中 友美
A-LINE株式会社 代表取締役社長 シンカナース編集長
東洋大学文学部国文学科 明治大学大学院グローバルビジネス研究科 経営管理修士(MBA) 日本大学大学院総合社会情報研究科 総合社会文化博士(Ph.D.) ニュージーランド留学 帝京大学医学部附属病院 東十条病院 三井住友銀行 A-LINE株式会社/代表取締役社長 東京医科歯科大学非常勤講師 同志社女子大学嘱託講師 著書『わたしの仕事シリーズ2 看護師』新水社