前編に引き続き、小さき花の園の髙橋祐子看護部長へのインタビューをお届けいたします。
少しの反応から意思表示を理解する
病院からこちらの施設に異動され、看護部長として感じたことはありましたか。
髙橋:私は病院しか知らなかったので、衝撃的に感じることがたくさんありました。
まずは病院と施設の役割の違いです。
ここは病院機能を持っていますが、「施設」なので「利用者さんの生活の場」です。
そしてもう一つは経営に関してです。
このような施設では診療報酬だけではなく福祉の収入や介護報酬が関係するので、その仕組みを理解するのにも少し時間がかかりました。
看護部長としての仕事は事務的なことが多く、多職種とも話し合いながらまずは看護部長の仕事を整理することから始めました。
病院には医局、看護部、検査科など様々な部署や科がありますが、それらは全て医療職です。
しかし、ここでは看護部の他に、療育部という生活支援をする部があります。
療養部の職員の役割は看護補助者とは少し違います。
利用者さんの日々の充実を図る
聖テレジア会で共通の理念があると思いますが、小さき花の園の独自のものはございますか。
髙橋:小さき花の園看護部としては、『心身ともに重いハンディキャップを背負って懸命に生きる利用者を尊重し、こころを聴く看護サービスを提供します。』という理念を掲げています。
「こころを聴く」看護サービスを提供しますとはどういう意味でしょうか。
髙橋:重症心身障害者の方はほんの少しの反応しかありません。
もちろん、意思を伝えられる方もいますが、それでも普通の患者さんとは違います。
瞬きでしか答えられない方や指先を少し動かせるだけの方もいらっしゃいます。
その少しの反応を私たちが理解し、喜んでいる反応なのか、または苦しいという訴えなのか確認しながらコミュニケーションをとります。
思い込みではなく、本当にこの利用者さんは今どうしてほしいのだろうということを考えながら、どこかに意思表示が見えないかな、としっかり見ていく気持ちが大切なのです。
それを理解するには時間がかかるのではないでしょうか。
髙橋:初めは難しいです。
病院には意思表示ができない患者さんもいらっしゃいますが、看護師は意思表示のできる患者さんと接することの方が多いと思います。
やはり細かな変化から利用者さんを理解する力は、ここで数年働いて培われていくのだと思います。
そして、それができるようになった時、重症心身障害の看護の魅力がわかるのだと思います。
小さき花の園の利用者さんは、長くおられる方が多いのでしょうか。
髙橋:長期の方は最期までいらっしゃる予定です。
日々は忙しいのですが、利用者さんの入れ替わりは病院のように頻繁にないので、その利用者さんとどのように日々の充実を図っていこうか、じっくり考えて関わることができます。
反応してもらえること、喜んでもらえることが嬉しい
こちらにいらっしゃって約2年ですが、今一番楽しいことは何ですか。
髙橋:利用者さんは、言葉で表現できなくても体で表現してくれるので、声をかけた時に反応してもらえることが嬉しいです。
昨年、来られた小学生の利用者さんがいらっしゃるのですが、私が名前を呼ぶと喜んでくれるのです。
だんだんとその喜び方が大きくなってきているのですが、療育部の課長さんが訪れるともっと大きな喜び方をされるのです。
私の問いかけに喜んでくれることは嬉しいのですが、課長さんにしているようなあの大きな喜び方を私にもしてもらいたいなと思い、課長さんの動きや関わり方を見て勉強しています。
小さなお子さんの成長を見られるのは楽しみですね。
髙橋:私は2年前に小さき花の園に来たので、子供が大きく成長していく姿はまだ見られていないのですが、会議室に貼ってある昔の写真を見て、今大人になっていらっしゃる方もこんなに小さかったのだな、この施設で成長されたのだなと実感します。
利用者さんに癒され「力をもらう」
重症心身障害看護の魅力は何だと思いますか。
髙橋:私自身は利用者さんと関わることが少ないので、まだ全てを分かっていないのかもしれません。
しかし長く関わっている看護師長たちは、利用者さんから「力をもらえる」と言っています。
夜勤で疲れている時でも、勤務の最後に利用者さんと関わることで自分の疲れや気持ちを癒してもらうそうです。
私も声をかけて周った時、こんな笑顔をされるのだなと幸せな気分になります。
経管栄養でも食を楽しめる
看護補助者さんについて教えていただけますか。
髙橋:看護部に属している看護補助者には、消毒業務をしたり看護周囲環境を整えたりしてもらっています。
療育部には児童指導員、保育士、また介護福祉士が所属をしていて、主に生活支援をしています。
お誕生日会など、行事計画を中心になって立ててもらっています。
また、食べられない利用者さんにはHanazono café など計画してもらっています。
外出がままならない利用者さんに、外出の雰囲気を味わっていただくために、部屋の飾りつけも韓国風であったりヨーロピアンであったりスープの種類により変えています。利用者さんには、その雰囲気とスープを注入して香りを味わっていただくのです。
病院で勤務している時は、経管栄養をしている患者さんは味を感じることができないので、食に対する楽しみを持っておられるという意識がありませんでした。
しかし、ここに来て考えが変わりました。
誕生日にはジュースを注入しますし、利用者さんの中にはケンタッキーフライドチキンが大好き、カップラーメンをミキサーにかけて注入すると美味しいとおっしゃる方もいるのです。
小さき花の園に来て初めて経管栄養を侮ってはいけないなと思いました。
経管栄養でも食の楽しみを感じることができるのだと気づきました。
注入したものがフワッと上がってくる感じがあるそうなのです。
やはり食べることは楽しみなのです。
経管栄養でも味わうことができる、初めて伺いました。
髙橋:私も教えてもらうまで知りませんでした。
初めは驚きました。
病院で経管栄養を扱っていらっしゃる方にもぜひ知ってほしいです。
小さき花の園のような施設を知ってほしい
小さき花の園には新人の方も入ってこられますか。
髙橋:29年度に初めて社会人経験のある新規卒業の方が1人入職されました。
私がこちらへ来た2年前は、臨床経験のある方しか採用しておらず新規卒業者を受け入れる研修制度なども整っていませんでした。
ここで働いている職員の中には、最初から重症心身障害看護がやりたかったけれど、臨床経験のある人しか採用していなかったので1年間他の病院に勤めてから来た人もいます。
重症心身障害看護に興味のある方を受け入れる制度を整えるべきだと思いました。
そして、この施設が理念に基づき発展していくためには、新人も入れていくべきなのだと思い、平成28年に研修や教育のシステムを作りました。
来年の4月には大学卒業後の新人看護師が一人入職する予定です。
では中途採用の看護師さんたちはどのようにして入職されますか。
髙橋:職員のほとんどはこの地域の方ですが、就職を仲介する会社からの紹介も受けています。
結婚や引っ越しを機に退職された方が次の就職先を探す時、小さき花の園のような施設に病院の機能があり、看護師がたくさんいるというイメージがないと思います。
当施設のような所も選択肢として考えてもらえると嬉しいです。
忙しい日々をお過ごしだと思いますが、趣味はございますか。
髙橋:友だちや家族と旅行をするのが好きですが、一番の趣味は日帰り温泉です。
地元の温泉に入ることが多いです。
地元の近くには箱根や、私が現在住んでいる地域には中川温泉があります。
あとは、食べることも趣味です。
じっくりと時間をかけた看護
それでは、小さき花の園の紹介と、新人看護師へのメッセージをお願いします。
髙橋:小さき花の園は、鎌倉高校前という駅から3分ほど坂道を登った所にあります。
施設からは海が一望できて江の島も見えます。
本当に風光明媚なところにあります。
この海の景色にひかれて働いている看護師もいます。
一度この景色を見に来ていただけると嬉しいです。
小さき花の園という名前を聞いて、どのような施設かなと思われるかもしれません。
ここは、重症心身障害児者が入所している施設です。
重症心身障害児者は医療的なケアを常に必要としますので、病院としての機能も持ち合わせています。
つまり病院であり、「生活する場」としての施設です。
病院から転職される看護師さんは、利用者さんがそこで生活をしているという意味を理解するのが初めは難しいかもしれません。
ここでは医療が中心ではありません。
医療はあくまでも利用者さんがより良い生活をしていくことをサポートするためにあります。
言語的コミュニケーションは、ほとんど難しい状態の利用者さん達ですが、だからこそ看護の基本である観察がここでは本当に重要になります。利用者さんの思いに寄り添い、利用者さんのより良く生きることを支える看護が重症心身障害看護であり、看護の原点と言えます。
じっくりと看護をしたい方にはとても適したところだと思います。
重症心身障害看護の魅力は、1、2年ではなかなか分かりづらいかもしれません。
しかし、実際に勤めていただき重症心身障害者の方と共に過ごすことで、自分自身が生きがいを見つけることにつながっていくと思います
ぜひ一度見学に来ていただければと思います。
よろしくお願いします。
シンカナース編集部 インタビュー後記
小さき花の園は江ノ島のすぐ近くにある重症心身障害児者が入所されている施設です。
よく陽のあたる丘の上にあり、屋外に出ると海を一望できる、とても晴れやかな気持ちになる場所にあります。
そうした環境の中で行われている素晴らしい看護があります。
医療が主役ではなく、あくまでも人生が主役の医療・看護。
その奥深さを今回高橋看護部長には改めて教えて頂けたように感じます。
美味しい食事を楽しむことも、一人の人として他者との関係を築くことも、誰もが持っている権利です。
「当たり前のことを当たり前にするのが一番難しい」と聞いたことがありますが、それを実現させるためにあり、同じ志を持つ方が集まるのが小さき花の園なのだと思いました。
高橋看護部長、この度は貴重なお話をどうもありがとうございました。
小さき花の園に関する記事はコチラから
No.106 髙橋祐子様(小さき花の園)前編:「看護を担う」という決意