今回は三菱京都病院の副院長、小野典子様(※2020年9月現在は院長補佐 患者支援部部長へご異動なされています)にお話を伺いました。
看護部長としてだけでなく、副院長としてもご活躍の小野様の手腕に迫ります。
姉の背中を追いかけて
看護師を目指されたきっかけを教えていただけますか。
小野:姉の影響が大きいと思います。
私は沖縄の宮古島出身なのですが、「早く島の外に出たい」「自立したい」という思いを抱いていました。
6歳年上の姉が看護師として働いていて、当時学生の私から見ると姉はとてもしっかりしていて、母のような存在でした。
ですからその姿を見て看護師になろうと決めました。
看護専門学校はどのように選ばれたのですか。
小野:まずは姉と同じ大阪府医師会の看護専門学校へ進学して准看護師の資格をとり、
そのあと進学コースに進み、正看護師の資格を取りました。
卒業後はどちらへ就職されたのですか。
小野:卒業後は大阪の法人病院で8年勤務しました。
結婚を機に京都に引っ越し、済生会京都病院に就職しましたが、子供が小学校に入学するのを機に退職しました。
1994年からこの三菱京都病院に就職して今年で24年目になります。
子供の言葉で復帰を決意
三菱京都病院に再就職されたきっかけは何ですか。
小野:三菱京都病院で働いている友人から、「手術室看護師を募集しているので一緒に働きませんか」と連絡をもらいました。
もう少し長い間子育てに専念しようと思っていたので、仕事に復帰することに戸惑いがありましたが、子供に相談したところ「行ってほしい」「行って来て」と言ってくれたので復帰することにしました。
どのような部署での経験がありますか。
小野:手術室の経験が長いです。
済生会京都病院では8年間、手術室で働いていましたし三菱京都病院でも約8年間勤務しました。
こちらでは、手術室から始まり、ICU、病棟の経験を経て再び手術室に戻っています。
2014年から看護部長になり現場から離れてしまいました。
「看護師は患者さんの代弁者」
手術室で長く看護師をされているということですが、手術室看護と病棟の看護との違いを教えていただけますか。
小野:手術室での看護は「患者さんが自分の意思を伝えられない」ことが前提になりますので、「看護師は患者さんの代弁者」であることを常に念頭に置く必要があります。
麻酔がかかっている間、患者さんは話すことができませんし、顔と術野以外はドレープで覆われてしまいます。
そのような状況で、看護師は患者さんに必要なことを瞬時にキャッチしなければなりません。
皮膚トラブルや褥瘡を防ぐために、入室から麻酔が導入されて手術が始まるまでの数分の間に、長時間の手術に耐えられる体位を整える必要もあります。
手術室では様々なことが起こる可能性を想定して、私達看護師は「安全に手術が終了するまで一つ一つのことに全力投球しないといけない」といつも思っています。
手術室の外では患者さんとどのような関わり方をされるのですか。
小野:病室に伺って術前術後の看護をしています。
手術前は「明日担当します小野です」と挨拶し、手術について説明をします。
お部屋に伺うことで患者さんの不安がゼロになることは無いと思いますが、不安を少しでも取り除くように関わっています。
手術室に入った時に、その前日に話をしたことがある看護師がいると、患者さんも少し安心されるようです。
手術の後は患者さんが落ち着いた頃に訪問し、「手術のあとはどうですか」「痛いところはありませんか」と、手術の傷だけでなく皮膚障害のことも含めて伺います。
何か患者さんからの訴えがあれば、次の看護に生かすようにしています。
手術室の看護は病棟の看護とは一味異なりますが、私はとてもその看護が好きです。
三菱京都病院がある京都府には約3万人の看護師がいますが、手術室で働いた経験のある看護師はほんの一部です。
手術中に患者さんがどのような体位をとり、どのように手術自体が行われて病室に戻られるのかという一連の流れを知る事は、ベッドサイドで行う手術後看護に生かせるはずです。
ですから病棟の看護師にもぜひ手術室を経験してほしいと感じています。
これまでのご経験で印象に残っていることはありますか。
小野:手術室に勤めていた時に担当した患者さんと偶然病棟で再会したことです。
手術中でしたから、その患者さんは私の事は覚えていらっしゃらなかったのですが、「実は手術中も私が担当させていただいたのですよ」というお話をすることができました。
その方とは今もお付き合いを続けさせて頂いています。
もちろん手術室では嬉しいことばかりではなく、最期を看取る患者さんも多くいらっしゃいます。
そのことは忘れられませんし、忘れてしまってはいけないことだと思います。
「あたたかい看護」「患者さんに寄り添う看護」、師長である私が実践する
現在は看護部長と副医院長を兼任されていらっしゃるのですね。
小野:今年の4月に副医院長に就きました。
しかし来年で定年を迎えるので、看護部長の職は次の方と交代しようと思っています。
本当にしっかりした頼れる師長達や副看護部長がいるので、安心してバトンタッチできます。
理念について伺ってもよろしいでしょうか。
小野:当院の理念には「私たちは患者さんの人間性を尊重し、誠実であたたかい看護を提供します」というのがあります。
ICU、手術室、病棟、どこに所属していても「あたたかい看護」の意味を理解しなければいけません。
「あたたかい看護」とは、ただ単に清拭など、何かケアをする事ではなく「この病院に入院して良かった」と患者さんに満足していただける事だと私は考えています。
今現在、管理職として特に意識されていることはありますか。
小野:病院には大勢のスタッフがいますから、その分毎日色々な事が起きます。
その度に様々な面から情報を得て、自分が正しい・良いと思う判断をしていくのですが、時折「これでよかったのかな」と振り返る時間も作るようにしています。
私は看護部長という立場なので、自分の言動がとても大きな影響を与えるということも意識しています。
また、患者さんだけでなくスタッフも大切ですから「患者さんも一番、でもあなた達も一番」といつも言っています。
そうした思いをスタッフに伝えるために、他にはどのようなことをされていますか。
小野:まずは自分が実践してスタッフに見せることが大事だと思うので、患者さんを大切に、家族を大切に、そしてスタッフも大切にと常に考えて仕事をしています。
具体的には、師長だった頃はできるだけ患者さんの病室に伺って挨拶をすることや、しばらく寄り添ってお話を伺うこともありました。
現場の看護師は多忙なので、ゆっくり寄り添いたくても寄り添えない時もあります。
その点では、師長である私が一番動けると思っていたので、できるだけ患者さんに寄り添い、話を聞くということを実践してきました。
スタッフ全員の名前を覚えているのは当たり前
看護部長になられてからも継続されていらっしゃることはございますか。
小野:毎日1回は各病棟を回り、1年目の看護師やしばらく顔を見なかった看護師には声をかけるようにしています。
もしかしてスタッフ全員を覚えていらっしゃるのですか。
小野:全員の顔と名前を覚えています。
すばらしいですね。
小野:看護部長として当たり前の事だと思っています。
後編に続く
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No.97 小野典子様(三菱京都病院)後編:「こういうことがやってみたい」をまず実践してみる