No. 61 田中愛美様(水戸医療センター)後編「フライトは勝負」 ドラマではわからない医療の現実

インタビュー

前編に引き続き、フライトナースとして活躍されている、水戸医療センターの田中愛美看護師へのインタビューをお届けいたします。

ドラマではわからない医療の現実

フライトナースとしての難しさはどのような時に感じますか。

田中:出動しても助けられなかった時です。

救急車で行っても間に合わないという時にドクターヘリが出動するのですが、それでも助けられないことがあります。

そうした時に、「どうすればよかったのか」「他の人だったらどうするのか」など考えます。

そのため、お互いに「昨日は大変だったね」「どういう風に動いたの」など声を掛け合って支え合っています。

病院の中のフライトナース同士で情報共有をしたりするのでしょうか。

田中:そうですね。

現在、当院のフライトナースは6人いますが、なかなか経験できない小児や産科の事案はノートに残して、皆が見るようにしています。

あとは毎日運航会社から「こういう事案がありました」とメールが送られてきますので、そのメールで他のフライトナースがどういった経験をしたのかチェックしています。

済生会と共同ということですが、済生会のフライトナースと交流する機会はあるのでしょうか。

田中:2〜3ヶ月に1回会う機会があります。

内容は業務の引き継ぎのこともありますが、情報共有をしています。

あとは全国のフライトナース勉強会に行く時やドクターとも年に2〜3回集まって会議をしています。

1日何回くらい出動されるのでしょうか。

田中:出動要請が入るのは、多い時は1日7〜8件あります。

平均すると5〜6件だと思います。

私の経験で今まで一番多いのは1日7回の出動要請でした。

出動していない時はどのようなお仕事をされているのでしょうか。

田中:病院内で、救急車が来た時の処置介助や病棟内の業務、教育指導などをしています。

それで、出動要請があれば作業をすぐ中断して出動します。

必要な物はヘリの中に全部入れてあるので、身一つでヘリに乗り込むような形です。

出動していない時は白衣を着ていらっしゃるのですか。

田中:フライト当番の時は、フライトスーツを着用しています。

多数傷害や災害があった際にナース二人が出動できるようにしています。

フライト当番以外の日は普通の白衣を着ています。

要請の詳細はどの時点でわかるのでしょうか。

田中:情報は無線で流れて来ますが、完全にヘリが離陸した後にならないと、どういった事案でどこに呼ばれているのかわかりません。

無線の使い方も知らないといけませんので、医師もそうですが、フライトナースになる前に第3級陸上特殊無線技士の資格を取る必要があります。

フライトは勝負

今はドラマの影響などでフライトナースを目指す方は多いと思いますが、如何ですか。

田中:多いと思いますが、フライトナースは救急医療をわかっていないといけませんから、当院では看護師5年以上、それとは別に救急看護の経験が3年以上という基準を作っています。

今まで私が見てきた中で、一番早くフライトナースになった人でも看護師経験が8年あります。

看護師として5年働けばある程度経験は積めていますし、リーダーシップも取れるようになっていると思います。

やはり現場で臨機応変に対応できないといけないと考えるとある程度の経験が必要なのですね。

田中:経験が無いとやはり厳しいです。

病院だと環境が整っていますが、フライトナースはヘリの中で働きます。

限られた環境の中で限られた器材を用いて1人で勝負しなければなりません。

何よりフライトナースは一人で勝負しないといけません。

ですから、実際今、救命救急センターにいる後輩たちも目標としては持っていても、「自分はまだまだ」と言っているのを聞きます。

医師から急かされることもあります。

それを上手く受け流すスキルも必要ですし、言われてから動くのではなくて、医師の半歩先を行くくらいでないと対応は難しいのではないかと思います。

ですから、経験がとても大切です。

お仕事も大変だと思いますが、気分転換にされていらっしゃることはございますか。

田中:以前は本を読んだり、旅行をしたりしていましたが、今は忙しくなかなかできていません。

ただ学会に合わせて休みを貰って、会場の近くを観光したりはしています。

映画を観たりもします。

通勤中はニュースをきいて、患者さんとのお喋りのために情報を仕入れています。

 田中看護師からのメッセージ

フライトナースを目指す方にメッセージをお願いします。

田中:看護師というよりも、人として、知識を増やして色々な経験をいっぱいしてもらえるといいなと思います。

そうすることで、患者さんと接した時により深く人間を知ることができます。

シンカナース編集部インタビュー後記

田中さんは、更なるご自身のステップアップのためにフライトナースの道を選ばれた大変ポジティブでパワー溢れる方です。

当時、茨城県で初めてドクターヘリを導入するということで、立ち上げから始められたそうです。

フライトナースの現場は、ドラマではわからない医療の現実があるといいます。
限られた時間、限られた環境の中で、フライトナースはひとりで、ドクターの半歩先の指示を察知し、対応しなければならないとお聞きしました。

そんな中で日々ご活躍されている田中さんに逞しさを感じるとともに、インタビュー中も我々には気付かなかったヘリの音をすぐに聞き分け、今出動したと言った言葉にフライトナースとしての意識の高さと誇りを感じ、大変尊敬致しました。

田中さん、この度はヘリコプターの中を案内して下さったり、貴重なお話を頂きまして、誠にありがとうございました。

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