No.167 神奈川県立がんセンター 大川伸一 院長 後編: ハードルのない、がんセンター

インタビュー

前編に続き、病院長としての病院改革への取り組みや、がん専門病院における看護師の役割、患者数急増への対策などについてお伺いしました。

挨拶が全ての基本

中:病院長に就任された時のご決意をお聞かせください。

大川:まず思いましたのは、職員が挨拶をしっかりすることから始め、

病院の雰囲気を変えていこうということでした。

当院には非常にまじめな職員が多いのです。

それは素晴らしいことです。

しかし、外から来院される人には、やや硬い印象を与えてしまうことがあるのではないかと思います。

私も院長になり他院を訪問する機会が増えたのですが、

玄関に入った直後の雰囲気が病院ごとに、非常に異なることに気づきます。

全く面識のない人でもきちんと挨拶してくれ笑顔のある病院のほうが、圧倒的に感じがよく、

患者さんもそれだけでホッとするに違いありません。

このような理由から、院長就任後、まずは挨拶の励行から始めました。

特に管理職など役職上、目上に当たる人間がより積極的に挨拶するようにと、たびたび職員に伝えています。

今では少しずつ雰囲気が変わってきたように感じています。

中:職員がまず明るさを保ち、そして患者さんに癒しを与えられるようにするということですね。

ただ「都道府県がん診療連携拠点病院」と位置付けされている病院ですので、

来院する患者さんやご家族にとりましては、やはり“壁”と申しますか、

心理的なハードルがあるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

大川:おっしゃるとおりです。

名称に「がんセンター」あるいは「県立」と付いているだけで、

ハードルをお感じになられる方が非常に多いのです。

患者さんや一般の方だけでなく、患者さんを紹介してくださる先生方も、

そのような見方をされる方がまだまだ少なくありません。

当院はがん診療連携拠点病院として、運営上の重要課題は当然いろいろあります。

しかし、まずは明るい職場作りをベースに、そこからいろいろな対策を立てていき、

外部からのハードルをできるだけ低くしてこうと考えています。

もう一点、私自身が気をつけていることがあります。

それは、院外から会合のお話があったときには断らないで必ず参加させていただくということです。

病院長という存在は、病院という組織の営業マンだと思っています。

 

人間対人間のコミュニケーションスキル

中:次に看護師についてお伺いします。

今のお話にありました病院の雰囲気改善も含めて、

先生が看護師に対して期待されることはどのようなことでしょうか。

大川:当院の看護局はしっかりしていますので、それを尊重し、

あまり院長が口出ししないようにとの思いもあります。

あえて基本的なことを申しますと、後輩や同僚、先輩、もちろん患者さんに対して、相手の気持ちになって

きちんと挨拶をし、忙しい時こそ心に余裕を意識し笑顔を見せることが大事だと思います。

また、がんの診療は日進月歩で、しかも新しい情報の量が加速度的に増加しています。

医者も勉強の連続ですが、看護師も知っていなければいけないことが年々増えていきます。

特に、当院のような専門病院で働く医療者に対する患者さんの期待値はかなり高いので、

仮にも看護師が「私は専門外なのでそれはわかりません」といった対応をしてしまうと、

患者さんは落ち込んでしまいます。

そういうことにならないよう、知識を常にリニューアルして欲しいと思います。

中:患者さんは何か苦痛や悩みがあった時、医師よりも看護師に訴えることが多いと思います。

まず、その訴えをしっかり聞き、安心してもらえる対応をとれるように

自分を磨いておくことが大切ということですね。

大川:医師には聞きづらいので、まず看護師さんに聞いてみようとする患者さんは非常に多いです。

だからといって、看護師がその対応のために全ての知識を網羅しておく必要はありません。

しかし、今おっしゃったように、しっかり患者さんの気持ちを傾聴し、質問にきちんと向かい合うことです。

すぐに答えられないことは、まず「お待ちください」や「調べてからお答えします」と伝えれば良いのです。

それは多分、看護師としてのスキルというよりも、人間対人間の接し方の問題だろうと思います。

特に「看護師だから」という話ではなく、

普段から相手の立場に立って応えられるコミュニケーションスキルを身につけていただきいと思います。

中:知識は勤務してからでもきちんと習得できるということですね。

大川:まったくその通りです。

 

がん治療の外来シフトと「二人主治医制」

中:今後2025年に向けて、高齢のがん患者さんの増加が予測されます。

がん専門病院として、貴院の対策やお考えをお聞かせください。

大川:ご高齢になってからがんに罹患されますと、併発症や治療に伴う合併症への配慮が課題となります。

ただし、その対策の基本は特別なものではなく、患者さんごとに病態や病勢、体力、生活背景等を

きちんと評価して治療方針を決め、その方針を納得していただいた上で治療を進めることが原則です。

一方で、医療のキャパシティは限られていますので、がん患者数の増加には手をこまねいて入られません。

対策の一つは、クリニカルパスに則りスケジュールに沿って入院治療を進めること、

二つ目は治療を外来にシフトすることです。

現在、化学療法も放射線治療も急速に外来へ移行しています。

当院には重粒子線治療施設もありますが、そこでの治療もほとんど外来通院で進めています。

中:そうしますと、外来が混雑することにならないでしょうか。

大川:そこで当院は「二人主治医制」を採用しました。

がんの治療に特化する当院の医師と、普段から何でも相談できるかかりつけ医とが、

ともに主治医として対応する仕組みです。

これにより、例えばかぜのような症状だけれども抗がん剤の副作用かもしれないという時、

まずはかかりつけ医を受診していただき必要に応じて当院へ送っていただくという対応が可能になります。

共感ベースにキャリアを積む

中:外来の待ち時間短縮にもつながりますね。

それでは最後に看護師に向かって、メッセージをお願いします。

大川:看護師としての知識は、ある程度のことを身につけていれば、

あとはOJT(On the Job Training)で経験を積み上げていくのが一番です。

やはり、まず基本的にはナイチンゲールの精神で、寄り添う、相手の気持ちになって考えることです。

患者さんからの投げ掛けに、適切な回答をすぐに返せなくても構いません。

共感するということがとても大事で、特に看護師にはそれが求められます。

ですから、当院は決してハードルが高い病院ではありません。

皆さま、ぜひうちに来ていただければと思います。

必ずどんな方にも、その方にとって良いキャリアを積んでいただくことができると、確信しています。

インタビュー後記

病院名のイメージから、看護師であっても就職にはハードルの高さを感じやすいかも知れません。

しかし、実際に大川先生のお話を伺うことで、ハードルを感じる必要はないということが分かります。

技術は後からついてくる。

だからこそ、新卒であっても笑顔で挨拶をする、患者さんがホッと出来る環境を作るということが大切なのだと分かりました。

大川先生は、常に難しいこと、困難なことに立ち向かうチャレンジ精神が旺盛な方です。

専門分野を選ばれるにしても、院長に就任されるにしても「誰かがやらなければ」という使命を胸に挑戦され続けていらっしゃいました。

内面の強さと、写真からも伝わるように笑顔溢れる穏やかさの両面をお持ちの魅力的なリーダーですね。

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Interview Team